2024年 4月 25日 (木)

「社員旅行」の効用にビックリ! さて社長、アナタは社員にどうアプローチしますか?(大関暁夫)

   知り合いのインターネット系IT企業G社の40代社長と、ある集まりで再会。最近の会社のお話を聞いたところ、ちょっと興味深い話をしてくれました。

   それは、前期利益の目標達成に際して、多額の税金を払うのならば社員に還元しようということから、旅行を企画して実行したところ、思わぬ収穫があったというのです。

  • 南の島なら、社員旅行もいいかも?
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「あえて遠くに行こう」と南の島へ

「社長と社員であることには変わりがないのだけど、姿も気持ちも私服のままで接することで、お互いこれまでと違う何か見えたというのか。私と社員の関係もそうなのですが、社員同士も何か以前よりも親密になれたというか。お互いの理解が深まったというのか。各セクションともチームワークが高まったようで、本当にやってよかったと思っています」

   旅行は仕事を忘れるために、あえて遠くに行こうと社長が発案して、海外の南の島へ3泊4日の旅に。全社一斉休暇は無理だったので、約50人の社員を3チームに分けて実施。すべてのチームに社長は参加する、ということにしたのだそうです。

   社長は全員と素顔で接することができ、とても有意義であったと大変満足げでした。

   昭和の時代にはたいていどこの職場でも行われていた社内旅行ですが、バブル経済の崩壊を境に、経費削減やらムダの排除やらが盛んに叫ばれ、社内旅行や運動会といった催しはいつの間にか姿を消していったのでした。

   同時に、若手社員たちも高度成長期のような企業への忠誠心は薄くなり、どちらかというと個人主義に傾く傾向が現れたことも社内行事の衰退に拍車をかけたように思います。

   G社のようなIT系企業は、特に若い社員が多いので、会社で旅行などというのは社員の側からはかなり敬遠されるのではないかと思われたので、その点を尋ねてみると、これまた意外な答えが返ってきました。

飲み会やバーベキュー大会に漂う仕事のニオイ

   「私も最初はそれを懸念しました。でも、社員還元をおカネで支給するのでは味気ない。そこで、各部長経由でそれとなく職場の反応を見てもらいました。すると、社員がイヤがるのではないかというのは、会社側の思い込みだとわかりました。

   要はアフターファイブの飲み会はイヤ、休みを潰してバーベキュー大会はイヤ、とかは当然あるのですが、非日常性に富んだ企画には、むしろ『楽しそう!』『行ってみたい』となるのです。要するに、仕事の延長のようなニオイがする催しはノーだけど、仕事と一線を画した企画ならOK、というのが大半の社員の反応でした」

   だからこそ、行き先を皆が行ったことがないであろう海外の南の島を選んで、なんとなく行ってみたくなるような企画を考えたのだと言います。さらに突っ込んで、実施にあたって今回の件がうまくいったポイントはどこにあると思うか、その点についても聞いてみました。

「社員が非日常性を求めているのだとしたら、そこに徹底してこだわらないといけないので、現地での催しもすべて社長自らが企画し、社長が社員をもてなすという意気込みでやりました。海での遊びや街中散策から食事に至るまで、私が旅行代理店の担当と膝を詰めて企画して私が添乗員役を務めました。そもそも、社員に企画を考えさせたのじゃ仕事っぽくなってしまうし、誰のための社内旅行かわかりません。私の先導は当然現地で失敗もあったわけですが、ふだん口うるさい社長の『非日常』を見せられたことも、社員には新鮮でよかったのじゃないかと思います」

青学大陸上部の原監督が「お手本」

   このG社の社員旅行と似た話として思い当たるのが、以前テレビで特集されていた青山学院大学陸上部の話です。原晋監督は御夫婦で選手と寝食を共にしています。番組はそのことから青山学院大学陸上部の強さの秘密を探ってみようという内容で、箱根駅伝の優勝メンバーOBがインタビューに答えていました。

「グラウンドでは常にどこの大学でも同じ監督と選手ですが、寮に帰ると監督は必ずしもそうではない部分を見せてくれます。奥様が寮母さんなので、たとえば監督と奥様の夫婦の会話をふつうに耳にすることがあったり。そんな何気ない、監督の監督らしからぬ一面を垣間見ることは、選手にとってはものすごく安心感につながって、監督と選手の関係を超えて、いろいろな相談ができる家族のような連帯感がうまれてくるように思います。これは選手同士の間にも当然伝播するものでして、このあたりに強さの秘訣があるんじゃないでしょうか」

   監督が時々寮に顔を出して、様子を見に来るのではダメなのです。それでは日常の延長すぎません。一緒に生活しプライベートの一部も共有するからこそ、監督と選手という日常の関係だけではない、非日常を共有できる。それが、一層の連帯間や信頼関係を構築していくということなのでしょう。

   もちろん、監督の指導者としての力量もあるのだとは思いますが、箱根駅伝4連覇という、向かうところ敵なしの強さの陰には、そんな非日常の共有が生み出す連帯感に支えられている部分も大きいのではないかと思わされる内容でした。

「優秀な社員が揃っているのだけれど、会社としての一体感に乏しい」
「イエスマンが多くて、社員が本音でぶつかってこない」

などは、経営者からよく聞くお悩みでもあります。G社の例を参考に、社長自らが仕掛ける非日常の共有をしてみるのは一考の価値ありかと思います。ご参考まで。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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