2018年 12月 15日 (土)

「ゴーンショック」は対岸の火事か? 社員のモラルダウンで会社が傾く怖さ(大関暁夫)

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   日産自動車の元会長兼経営最高責任者(CEO)のカルロス・ゴーン氏が、金融商品取引法違反の疑いで東京地検に逮捕され、メディアは連日、蜂の巣を突ついたような騒ぎになっています。

   表向きの容疑は金商法違反。とは言え、その中身は公表外の報酬をお手盛りで得ていた件をはじめ、関連会社により海外に複数の自宅を購入させていた件、勤務実態のない親族を関連企業の役員に据え不当な報酬を支払っていた件など、ひと言で言えば、絶対的な地位を利用しての組織の私物化容疑であるとのことです。

  • 会社経費の私的流用はよくあること?(写真は、カルロス・ゴーン氏 2014年撮影)
    会社経費の私的流用はよくあること?(写真は、カルロス・ゴーン氏 2014年撮影)

会社経費の私的流用はよくあること?

   ゴーン氏は20年ほど前に瀕死の状態にあった日産自動車をV字回復させ、復活させたカリスマ経営者であるだけに、事件の波紋は過去の類似の不祥事とは比較にならないほどの大騒ぎになっています。

   ゴーン氏逮捕の騒ぎを受けて、友人の会社経営者T氏からからメールが来ました。

「金額の問題はあるにせよ、経営者が会社の経費でいろいろな費用を落とすなんて世の中にあたり前のようにいくらでもある話でしょ。やりすぎを非難されるのはわかるけれども、新聞もテレビもちょっとゴーンさんを叩きすぎなんじゃないのかと見ていますが、どう思います?」

   一見すると文章は質問調ですが、彼の性格をよく知る私には「金額の規模はまったく比較にならないぐらい小さいけど、じつは私も会社で私的流用しています。多くの経営者がやっていることだし、これって別に問題ないですよね」と、自分を正当化したいので念のために確認するけど、「問題なし」のお墨付きくださいね、という意図が見えるような気がしました。

   T社長は、自身が100%出資の完全オーナー会社の経営者です。ゴーン氏は大企業のカリスマトップとは言え、あくまで上場企業の一サラリーマン経営者です。じつはこの手の問題。オーナー経営者であるか、サラリーマン経営者であるかによって大きく違う部分と、共に同じように注意しなくてはいけない部分があるのです。

オーナー経営者とサラリーマン経営者では違う

   まず、サラリーマン経営者の場合。仮に会社運営上のトップであったとしても、基本的に会社は株主の所有物(共同所有を含む)であるからサラリーマンなのです。要するに、雇われ社長。会社経営の責任者を一時的に任されているだけの立場です。

   ゴーン氏も、瀕死の日産自動車をV字回復させた恩人であったとしても、オーナーではありませんから、会社のものは他人様のもの。報道されているような会社の私物化容疑が事実であるのなら、逮捕は当然の成り行きです。早晩、トップの座を追われることになるでしょう。

   一方、オーナー経営者は、基本的に健全な会社経営を行う立場から、公私混同は好ましくないものの、実質所有者たる株主でもある以上は、基本的に会社は自身の所有物であるので、仮に私的流用があっても被害者と加害者が同一ということから告訴、逮捕はありません。

   ただし、銀行などの債権者が返済原資の確保をはかる意味で告訴するというケースは稀にありますが......。むしろ注意すべきは、税務当局から問題指摘をもらい私的流用が社長の個人所得として認定されれば追徴課税されるということ。問題になるのは、税務面限定かと思います。この点は、サラリーマン社長とは大きく異なる点であると言ってもいいでしょう。

「自分ばかり高い給料をとって、社員は安月給」

   しかし現実には、罪に問われる問われないにかかわらず、経営トップの私的流用で一番懸念しなくていけないことは、それを知った社員のモラルダウンです。この点はサラリーマン社長でもオーナー社長でも同じこと。今回、ゴーン氏逮捕のニュースを受けて、新聞紙面には日産自動車社員の反応も取り上げられていましたが、「雲の上の人だけど腹立たしい」とか「そんな多額を私的流用していたとは、リストラで辞めさせられた同僚の事を思うと、怒りが収まらない」などという声が盛んに聞こえていたのは印象的でした。

   オーナー社長ならば、一番よくあるケースは、「自分ばかり高い給料をとって、社員は安月給でこき使っている」というような反感です。この手の話は広まるのも早い。私も何度かこの手の話が社員に広まった中小企業の現場を見ていますが、結果的に多くの社員から反感を買うような事態に陥るなら、社員が続々退職するようなことにもなり、事業運営に大きな支障が出てしまい会社が傾いたケースもありました。

   銀行時代に取引先の親睦会の会長職をお願いしていた長老経営者が、自社の取引先企業の二代目が私的流用をはじめとした放蕩経営で苦境に立たされたという話の流れから、企業経営に係る持論を聞かせてくれたことがありました。

「オーナー社長には、悪い私物化といい私物化があるのです。悪い私物化は金品の私物化。これは必ずや社員の知るところになり、確実なモラルダウンを招きます。いい私物化は、社員の私物化。もちろん私事に社員を使うということではありません。社員を常に自分の財産だと思って親身になって心配し、共により大きな幸福を分かち合うために日々努力を怠らないこと。会社がひとつになって、社員全員が会社のためにがんばろうという気持ちになるのは社長のそんな気持ちの裏返しなのだと、長年の会社経営から学びました」

   友人のT社長には「久しぶりに食事でもしましょう」とメール返信し、直接会ってこのあたりの話をして差し上げようと思います。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。 連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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