2019年 3月 26日 (火)

英国のEU離脱で3月29日に起こること 大勢は「最悪の事態」回避と読むが......(小田切尚登)

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   2016年6月23日に英国は国民投票で欧州連合(EU)離脱を決定した。離脱賛成の得票率は52%であった。

   この意外な決定に世界は驚かされた。トランプ米大統領の選出と並ぶ、近年のビッグニュースといわれるようになった。これでEU離脱へ一直線かと思われた英国だが、翌17年に選ばれた議会はEU離脱に反対の議決をした。

   国民投票と議会の判断が割れたということだ。

  • 英国のEU離脱、期限迫る!
    英国のEU離脱、期限迫る!

経済の話は一般人には理解しにくい

   EU離脱派とEU残留派との攻防は、今も続いている。

「やはりEUにとどまろう」
「もう一度投票をした方が良いのでは」
「いや離脱の方針は変えるべきでない」

などと、さまざまな意見が入り乱れている。

ともあれ、離脱の期日は2019年3月29日。つまり、今月最後の金曜日ということで当初から決められている。このままいくと、あと何日かで自動的にEU離脱となってしまうということだ。

   英国のメイ首相は、「民意を尊重して離脱するべきだが、やみくもにするのではなく期日を延長して十分な準備をして行うべき」と、提案している。

   英国民が、なぜそんなにEUを嫌うのか――。それは「英国が(EUの本部のある)ブリュッセルの言いなりになるのはまっぴら」という考えが根強いためだ。

   英国民の関心は、移民問題やアイルランド問題などに注がれがちである。EUに加盟しているために移民がもっと入ってくる、という話は受け入れられやすいが、EUのおかげで経済面でメリットを得ている、というのはより複雑な話なので、一般人にはなかなか理解しにくい。

英国「なし崩し離脱」でGDPは年に数%下落

   英国と他のEU加盟国(多くは欧州大陸諸国)とは、経済で互いにWin-Winの関係を築いてきた。金融やマスコミなどのサービス業が強い英国と、農業や工業に強みのある他のEU諸国とは補完関係にある。

   しかし、英国がEUから離脱するとそこに壁がつくられ、スムーズな経済活動が妨げられる。英国がなし崩し的にEUを離脱すると、英国のGDP(国内総生産)は年に数%のレベルで下がっていくだろう、というのが、ほぼすべてのエコノミストのコンセンサスである。

   国民生活に短期的に最も大きく影響すると思われるのが、農産物の貿易である。農作物は「もともと関税が高く、規制の網が張り巡らされているうえ、短期間でも流通が止まったら品質に大きな打撃を与える」(ファイナンシャル・タイムズ紙)ためだ。

   たとえばイチゴが税関で数日間放置されたら、売り物にならなくなってしまうだろうし、消費者が食料の買いだめに走ったら、価格高騰と品不足を招きかねない。一方で、英国からの食料輸出には、さらに厳しい事態が予想される。英国産の肉や乳製品はEU外の産物ということになるので、EUに輸出するには新たに税関や検疫を通らなければならなくなる。

   さまざまな混乱が起きることは必至だ。

   工業分野も、中長期的に大きな悪影響が予想される。すでに自動車大手のホンダをはじめ、多くのメーカーが、英国の生産拠点を撤退あるいは縮小する考えを表明している。EU離脱はまだ決まったわけではないが、今のような不確定な状況が続くのであれば、英国から逃げて、将来へのリスクを減らしておこうと考えるのは当然だろう。

   サービス業については、世界の金融の拠点の一つであるロンドンが、その地位をドイツのフランクフルトに奪われるかもしれないという状況にある。また弁護士、会計士、医師などについて、今まで英国人がEU内で活動できたものが、禁止されたり大幅に制限されたりするようになるリスクもある。

英国議会や政府は「そこまで」愚かではない

   英国のEU離脱後に、経済取引がどの程度制限されるかについては、EU加盟国の意向に大きく左右される。しかし、彼ら加盟国の反応は冷たい。「自分で勝手に離脱を決めておきながら『離脱しても今までのような親密な関係を続けて欲しい』とは何事だ」という話だ。

   彼らは、いわば離婚を切り出された夫(妻)のような立場であり、厳しい態度を取るのも当然といえる。英国にとっては、国内の交渉が終わったら、次にはEUとの、さらに難しい交渉が控えているということだ。

   我々、日本にとって幸いなのは、これは基本的に欧州域内の問題であり、日本への直接の影響は大きくないとみられること。英国や欧州で営業している企業などの場合を除けば、我々にとって経済の問題はそれほど心配する必要はない。

   しかし、英国そしてEUにとってはマイナス要因になり得るので、為替相場に関してはポンド安やユーロ安といったシナリオが考えられるし、金利についても英国そしてユーロ(欧州)で悪影響を減じるために中央銀行が金利を下げる可能性がある。

   とはいえ、期限が差し迫った今も、それほど為替相場が動いていないのは、3月28日になし崩し的にEU離脱となり大混乱が起きる、という最悪の事態は回避できると思われているだめだろう。

   私も英国議会や政府がそこまで愚かではないと考えている。事態は非常に流動的だが、最も可能性が高いシナリオは、期限の延長をして交渉に時間をかけていって、EUから一定の譲歩を引き出しつつ、穏便に離脱する、というところであろう。

   一方で、国民投票をもう一度行い、その結果EUに残留することになるという逆転のシナリオもまだまだある。いずれにせよ、我々としてはメイ首相がリーダーシップを発揮して、いい結果に導いてもらうよう祈るしかない。(小田切尚登)

小田切 尚登(おだぎり・なおと)
小田切 尚登(おだぎり・なおと)
経済アナリスト
東京大学法学部卒業。バンク・オブ・アメリカ、BNPパリバなど大手外資系金融機関4社で勤務した後に独立。現在、明治大学大学院兼任講師(担当は金融論とコミュニケーション)。ハーン銀行(モンゴル)独立取締役。経済誌に定期的に寄稿するほか、CNBCやBloombergTVなどの海外メディアへの出演も多数。音楽スペースのシンフォニー・サロン(門前仲町)を主宰し、ピアニストとしても活躍する。1957年生まれ、60歳。
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