2019年 5月 21日 (火)

【10連休は本を読む】「山の神」をテレビで拝めるのはテクノロジーと「準備」のおかげ(気になるビジネス本)

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   東京オリンピック・パラリンピックの観戦チケットの抽選申し込みが間もなく始まるが、多くの人がさまざま競技を見て楽しむのはテレビ(あるいはインターネット)を通してのことになろう。

   テクノロジーの進化で現代の映像を通じたスポーツ観戦は、現場で立ち会うのとは別の臨場感を味わえるようになった。スポーツは筋書きのないドラマといわれるが、中継で独自の臨場感を実現できるようになったのは、機器や技術の役割と同時に、そのビジネスに携わる人たちが、存在しない筋書きを予想して周到な準備を重ねたうえで臨んでいるからという。

「準備せよ。スポーツ中継のフィロソフィー」(田中晃/WOWOWスポーツ塾編)文藝春秋
  • 箱根駅伝の復路、10区の東京・日本橋付近を走る走者。日本テレビでは準備を尽くして、駅伝を盛り上げてきたという
    箱根駅伝の復路、10区の東京・日本橋付近を走る走者。日本テレビでは準備を尽くして、駅伝を盛り上げてきたという

「スポーツはドラマ」

   『準備せよ。スポーツ中継のフィロソフィー』(文藝春秋)は、日本テレビやスカパー!(BS、CSの有料多チャンネル放送)で長年スポーツ中継に携わったWOWOW(BS有料放送局)の田中晃社長が、その経験などをもとに、制作の舞台裏や準備重視の「フィロソフィー」を明かしたもの。フィロソフィーは、直訳では「哲学」となるが、ここでは業務にあたっての行動原則とか理念などとなろうか。それは、なによりも「準備」ということだ。

   大学で演劇を専攻した田中さんは、ドラマ制作を志望して日本テレビに入社したが「意に反して」運動部に配属された。先輩から「スポーツはドラマだよ」と言われ、その通りと思うようになってそのまま過ごす。そして「あらゆる国内大会・国際大会のスポーツ中継を経験してきた」ものだ。

   日本テレビのスポーツ中継といえば、プロ野球巨人の試合と並んで正月の「箱根駅伝」が知られる。田中さんはもちろん両方とも手がけてきたキャリアを持つが、フィロソフィーは最初から持ち合わせていたわけではなく、駅伝のディレクターとして悟りを開き、巨人戦の中継や陸上の国際大会で生かしてきた。

「駅伝」をお化け番組に育てる

   駅伝は1953年の第29回大会でNHKがラジオ中継を始め、テレビでは83年の第59回から86年の第62回までテレビ東京がハイライト放送。これは、往路と復路をニュースの映像でつないで最後の10区だけライブ中継する90分枠の構成だった。

   日本テレビが放送するのは87年の第63回大会から。それも当時は技術的に不可能と考えられていた1区からの生中継に挑んだ。田中さんは入社7年目で、中継総合ディレクター。1年前から準備を進め、スタッフ総勢約700人のうち半数以上を箱根の山中に集中して配置し、4区間に分けての中継を行った。この年と翌年の制作でノウハウを積み3年目の89年に完全生中継を実現した。

   駅伝との関わりが深まるなかで、中継のことに集中するあまり気配りしていなかったことが多数あることが分かってくる。「シード権」「襷(たすき)をつなぐこと」「区間賞」...。そして、大会は大学対抗ではあるけれど、その本質は個人のドラマであることに気づく。年を追うごとに中継では、シード権、襷、区間賞にフィーチャ―して番組演出に加え、ドラマの掘り起こしに努めた。

   「(メンバーに選ばれず)走れなかった選手側にもドラマがある。そのドラマの集積が箱根駅伝の本質なんだということにたどりつくのに3年かかった。こうして、今に通じる中継のスタイルを確立することができた」と田中さん。箱根駅伝の平均視聴率は毎年30%に近い。「1月2、3日の2日間にわたり合計13時間にものぼる番組の"平均"視聴率だから、これはとんでもない数字。まさにお化け番組と言ってよい」ほどの成長を遂げた。

3大会でパラ中継を担当

   観察眼鋭く駅伝をモニターして、一般に知られていなかった見どころ、ドラマを掘り起こし、それを周到な準備を重ねて、魅力的な番組に仕上げた田中さん。巨人戦の中継を担当したときには、日テレだから巨人中心などということはなく、次の対戦チームに中継担当のアナウンサーを帯同させるなどして放送内容の充実に腐心。このことが生きて、巨人がサヨナラ勝ちした試合で、日本テレビのカメラだけが、その打者を打ち取ればある記録を達成するところだった相手投手がグラブを投げつけ悔しがるシーンをとらえたことがあった。番組ディレクターが投手の性格を把握しており、だれもがサヨナラ打の巨人選手に注目するなか、その投手から狙いをはずさず"スクープ"をものにした。

   「準備せよ」と自分にも言い聞かせている田中さん。スカパー!時代には、08年の北京、12年のロンドン、14年のソチでパラリンピックの中継に携わった。オリンピックとは異なり、ストーリー重視で伝えると視聴者にとってスポーツ中継というよりドキュメンタリーに近づいてしまうため、アスリートの部分をとらえるようにしたという。20年の東京では、パラリンピックは22競技539種目が予定され、ほとんどの競技が初めて放送される。オリンピックともどもその準備もすでに始まっている。田中さんはまた、世界陸上など国際大会で尽くした準備についても本書で詳しく述べているのだが、そのあたりを読むと、東京オリパラに合わせて節約したうえ高解像度の大型テレビを買ってみるかと考えてしまう。

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『準備せよ。スポーツ中継のフィロソフィー』
田中晃/WOWOWスポーツ塾・編
文藝春秋
税別1500円
2019年03月22日

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