2024年 4月 18日 (木)

中小より規模が小さい「大手私鉄」が存在! そのワケは輸送密度の濃さにあり(気になるビジネス本)

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   平成の時代に新幹線網の整備が進み、それに合わせて並行在来線の第3セクター化やブルートレインとして親しまれた寝台列車が次々と廃止になり、それを惜しむように鉄道ブームが大きなうねりになった。

   その後も鉄道各社が車両の多様化やサービスの向上に努め、鉄道への関心は裾野を広げて、ブームはなお健在のようす。元号が平成から「令和」に変わり、新時代の幕開けの鉄道シーンでは、私鉄のプレゼンスが大いに高まっている。

「関東の私鉄格差」(小佐野カゲトシ著)河出書房新社
  • 西武が3月のダイヤ改正に合わせて投入した「座れる通勤電車」新型特急ラビュー
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平成に存在感高めた関東の私鉄各社

   昭和の時代に私鉄が存在感を誇ったのは、関西で展開する各社だった。歴史的な経緯もあって大手各社のほとんどが、新幹線と同じ線路である標準軌を採用し高速化を推進。いち早く2階建てやテレビ付きの車両を導入するなどの利用者サービスを打ち出し、注目を集めたのも関西の会社だった。

   また、沿線開発の一環として争うようにプロ野球の球団経営に進出。阪神のほか阪急、近鉄、南海など、関西ローカルの存在ながら名前は全国区になったものだ。

   ところが平成に入っていきなり、ともにプロ野球パ・リーグで優勝争いの常連チームだった阪急ブレーブスと南海ホークスが消滅。平成元年の1989年からそれぞれ経営がオリックスとダイエーに引き継がれた。そして平成半ばの16年(2004年)には、やはりパ・リーグの近鉄バファローズがオリックスと合併。近鉄も球団経営から手を引いた。

   だからといって関西私鉄のイメージが劣化したなどということでは、もちろんない。全国区からは退いたものの、地元での経営に専念しようということだ。

   関東の大手各社も地元での専心は同じだが、東京を中心とした首都圏では平成の時代、とくにオリンピックの開催が決まってからは、都市開発や宅地開発、商業施設展開が一層盛んになり、これらに絡んで重要な役割を果たすようになる。その結果、昭和の時代にはなかったような存在感を発揮。少なくとも関東ローカルレベルでは、プレゼンスは大いに高まったといえそうだ。

   「関東の私鉄格差」(河出書房新社)は、そうした関東私鉄の台頭ぶりに注目して出版された。著者の小佐野カゲトシさんは1978年生まれで、大学卒業後10年間ほど地方紙で記者を務めたのちに独立し、子どものころから関心を寄せていた鉄道を中心にウェブメディアや経済誌で執筆を続けている。

「世界の大都市のなかでもとくに鉄道網が発達している街、東京。都心部のみならず郊外やその周辺部にはりめぐらされたネットワークのなかで重要な役割を担っているのが大手私鉄各社だ」

   と、小佐野さんはいう。

   本書では、関東地方の大手私鉄とされる東武、西武、京成、京王、小田急、東急、京急、相鉄(相模鉄道)の8社について、収入や利益などIR情報的なものから、駅売店、弱冷房車の設定温度、広告料金、スマートフォンの使い勝手などトリビア的なものまでの比較を網羅。「毎日利用する地元の路線と近くを走る別の鉄道会社の路線はどこが違うのか......」を楽しめる内容になっている。

「座れる通勤電車」出そろい「令和」始まる

   JRを含めて鉄道界では近年、サービスの向上と収入アップを狙った「座れる通勤電車」の導入が盛ん。関東の大手私鉄8社では、平成のフィナーレを控えた30年(2018年)末までに、路線距離が短い相鉄(相模鉄道)を除く7社で、通勤時間帯の有料特急など着席サービス列車や車両の配備が行われているという。

   「座れる通勤電車」のパイオニアは、じつは昭和の時代の小田急電鉄。昭和42年(1967年)夏から、定期券で乗車できるようになった。これが通勤客のあいだで大ヒットとなり、増発が重ねられ、その後に他社が「○○ライナー」などと名付けた通勤客向け車両の運行を始める呼び水となった。小田急では2018年に複々線化が完成したのを受けて、一層の増強を行っている。

   8社のうち唯一、座れるサービスを持たない相鉄だが、その理由の一つは旅客営業キロメートルが短いこと。その距離は35.9キロで、トップの東武鉄道(463.3キロ)の約8%にも満たない。埼玉・秩父鉄道(71.7キロ)や茨城・関東鉄道(55.6キロ)など、関東の中小私鉄をも下回るミニサイズなのだが、なぜ大手私鉄に数えられるのか。

   営業距離で相鉄のワンランク上、7位の京王電鉄の距離は84.7キロメートルあり、相鉄は「番外地的最下位」。規模の小ささから年間の輸送人員も最下位で、2017年度の実績は23万1738人だった。輸送人員ランキングの相鉄のワンランク上の7位は京成電鉄で、その実績は28万6929人。京成の営業距離は相鉄の約4.2倍の152.3キロで、両社の営業距離に対する輸送人員の割合を比べると、いかに相鉄の輸送密度の濃さがわかろうというもの。輸送密度だと、相鉄は5位に躍進。一方、路線規模で関東では頭抜けて1位の東武は7位に後退する。

   ちなみに、これは東武が路線を展開する栃木や群馬など北関東で利用者が少ないためだ。

   本書はほかにも、こうした詳しいデータを用いて私鉄各社を比べていて、さまざまな報告が楽しめる。時間帯別の混雑状況、車両の居住性などの情報を交えたレポートや、沿線の踏切数、駅売店のコンビニ化の様子などはとくに、これから首都圏の私鉄沿線に住むことを考えている人にとっては大いに参考になるはず。

「関東の私鉄格差」
小佐野カゲトシ著
河出書房新社
税別720円

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