2019年 12月 8日 (日)

日本と韓国の管理職は短命?! 東京大学が研究、欧州に比べ死亡率が高い理由

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   「サラリーマンは、気楽な稼業ときたもんだ~」という流行歌があったが、それはヒラ社員の話。管理職になると、ヒラよりも死亡率がグンと高くなるという。

   それも日本と韓国だけの特異な現象で、ヨーロッパでは逆に管理職のほうがヒラよりも長生きをする......。東京大学が国際共同研究の論文を発表した。いったいなぜか、研究者に聞いた。

  • 日本と韓国の管理職はつらいよ
    日本と韓国の管理職はつらいよ

欧州は「管理職のほうが長生き」が常識

   この研究をまとめたのは、東京大学大学院医学系研究科の小林廉毅教授と田中宏和医学博士らのチーム。オランダ・エラスムス大学のヨハン・マッケンバッハ教授らと国際共同研究を行ない、2019年5月29日、英国の疫学・公衆衛生専門誌「Journal of Epidemiology and Community Health」オンライン版に発表した。

   欧米では、一般的に教育レベルや社会的階層が高い人ほど健康的で、死亡率が低いといわれる。だから、管理職や専門職は、工場などで単純な作業に従事する労働者より死亡率が低い傾向にある。これは「健康格差」(死亡率格差)と呼ばれる現象で、かつて高度経済成長期の日本もそうだった。

   ところが、バブルがはじけて深刻な経済不況に陥った1990年代後半から逆転。管理職・専門職の死亡率が上昇して、一般労働者より高くなってしまった。韓国も同様で、リーマン・ショックに端を発した世界金融危機の2000年代後半から管理職・専門職の死亡率が高くなっている。

   過去の研究では、日本と韓国ともに、それぞれバブル崩壊後とリーマン・ショック後に、管理職の自殺率が上昇したことが報告されている。しかし、職業分類など同一の基準で日本・韓国と欧州との国際比較は行われておらず、「健康格差」の全体像は明らかにされていなかった。

   そこで研究グループは、日本と韓国および欧州8か国(フィンランド、デンマーク、イングランド/ウェールズ、フランス、スイス、イタリア、エストニア、リトアニア)の過去25年間の職業階層別死亡率の格差を国際比較した。35~64歳の働く男性を、上級熟練労働者(管理職・専門職)、下級熟練労働者(事務・サービスなど)、非熟練労働者(生産工程従事者・運転従事者など)、農業従事者(林業・漁業を含む)、自営業者に分けて死亡率を分析したのだ。

バブル崩壊とリーマン・ショックが管理職にダメージ

職業階層別死亡率。日本は右から2番目、右端が韓国。各国の棒グラフが高いほど死亡率が高い。グラフは左から「上級熟練労働者」「下級熟練労働者」「非熟練労働者」...の順。死因は青ががん、緑が循環器疾患、赤が自殺・事故死、白がその他(「Journal of Epidemiology and Community Health」より)
職業階層別死亡率。日本は右から2番目、右端が韓国。各国の棒グラフが高いほど死亡率が高い。グラフは左から「上級熟練労働者」「下級熟練労働者」「非熟練労働者」...の順。死因は青ががん、緑が循環器疾患、赤が自殺・事故死、白がその他(「Journal of Epidemiology and Community Health」より)

   その結果、欧州8か国ではすべての国で非熟練労働者の死亡率が最も高く、同じように上級熟練労働者の死亡率が最も低かった。これに対し、日本と韓国では、上級熟練労働者の死亡率が、農業従事者に次いで最も高くなっていた=グラフ参照。グラフを見ると、上級熟練労働者の死亡率は下級熟練労働者に比べ、たとえばフランスやスイスではほぼ半分以下、フィンランドやリトアニアでは3~4割なのに対し、日本では約1.1倍、韓国では1.7倍だった。

   これは、いったいどういうことか。J-CASTニュース会社ウォッチ編集部の取材に応じた小林廉毅教授はこう説明する。

「あくまで推測ですが、バブル崩壊後の日本では、リストラによる人減らしや長時間労働の負担が管理職や専門職に集中したのだと思われます。そのストレスが非常に強く、大きなダメージになったのでしょう」

   それを裏付けるかのように、死亡原因別にデータを分析すると、管理職と専門職は、悪性新生物(がん)、自殺・事故死、循環器系疾患(心臓病、脳梗塞、脳卒中など)、感染症など、すべての死因で死亡率が上昇し、とくにがんと自殺の上昇が顕著だった。ストレスが直撃したようだ。

   ところが興味深いことに、下級熟練労働者、つまり管理職ではない一般サラリーマンの死亡率は一番低い。管理職・専門職の約7割だ。韓国では非熟練労働者より高いのだが......。これは、日本の場合は「サラリーマンは、気楽な稼業と......」とでもやっているということだろうか。小林教授はこう語る。

「低い理由はよくわかりませんが、日本ではどの職種も基本的にもともと死亡率が低いのです。むしろ、上級熟練(管理職と専門職)の死亡率アップがきわだったため、下級熟練労働者の死亡率が低い印象を与えるのかもしれません。それだけ、管理職と専門職にインパクトが強かったということです」

国民性の違いより、経済体制の違い?

   今回の研究では、欧州では非熟練労働者の死亡率が高く、上級熟練労働者との格差が大きいのに比べ、日本と韓国では非熟練労働者の死亡率が低く、「健康格差」が小さいことが明らかになった。これは、日本と韓国では非熟練労働者でも学歴が高く、社会階層間の健康行動に関する相違が小さい可能性が考えられるという。

   その一方で、日本と韓国でだけ、欧州に比べて管理職と専門職の死亡率が高いという逆転現象の問題も浮き彫りになった。これは、日本・韓国というアジア人とヨーロッパ人との間の国民性、あるいは民族性の違いが影響しているのだろうか。

   小林教授は「これから経済指標を分析しないとわかりませんが、国民性の違いというより、各国の経済の問題だと思います」としたうえで、こう語った。

「バブルの崩壊は日本だけの問題です。また、リーマン・ショック後の世界金融危機では、ヨーロッパはそれほど打撃を受けず、韓国はウォンが大暴落して、一番ひどい影響を受けたと聞いています。日本もリーマン・ショック時には、特に特定の階層で死亡率が上昇したということはありませんでした」

   ともあれ、小林教授は「日本と韓国における管理職と専門職の高い死亡率は、働き方の改革を進めるうえで大問題ですから、これから分析を進めます」と述べ、こう強調した。

「ヨーロッパの国々には、職種ごとに勤務時間、かかった病気、死因といった全国民を網羅した精度の高い健康データが豊富にあり、研究者が利用することができます。日本には個々の企業が持っている従業員の健康データを、大学や研究機関が利用できる仕組みがありません。今回の研究で、つくづくデータの不足を痛感しました。米国にも疾病対策予防センター(CDC)という国民の健康を守るために、あらゆる情報を収集して研究機関に提供する組織があります。日本もつくるべきです」

(福田和郎)

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