2019年 7月 18日 (木)

「日韓経済戦争」勃発! 安倍政権はなぜ今なのか? 新聞報道から読み解く

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   「日韓『経済戦争』の銃声が鳴った!」。日本政府が2019年7月1日、韓国に対する半導体原材料の輸出規制強化を発表すると、韓国メディアは一斉に反発した。韓国政府も世界貿易機関(WTO)への提訴など対抗措置に出る構えだ。

   元徴用工裁判をめぐる韓国政府の態度にブチ切れしたとしか思えない日本政府の突然の措置。「トランプ米大統領の振るまいと同じではないか」と日本の主要新聞の多くが批判した。米中と同じような日韓の報復合戦に発展するのか。日本経済の行方はどうなるのか。7月2日~3日付の主要新聞の報道から読み解く。

  • 「日韓貿易戦争」を1面トップで報道した主要新聞
    「日韓貿易戦争」を1面トップで報道した主要新聞
  • 記者会見する安倍晋三首相(2019年6月26日撮影)
    記者会見する安倍晋三首相(2019年6月26日撮影)

安倍首相を「任侠」と「ポチ犬」にたとえた日経と朝日

   安倍晋三首相の振るまいについて、日本経済新聞と朝日新聞は、それぞれ1面の名物コラム「春秋」と「天声人語」で取り上げている。

   「春秋」は往年の任侠映画にたとえた。

「どんなに嫌がらせ、理不尽な仕打ちをされてもひたすら我慢、我慢、我慢......。けれど堪忍袋の緒が切れた。桜吹雪の舞い散る中を、粋な着流しの男一匹。ドスを片手に殴り込み......などというシーンをその昔、任侠映画でしばしば見た。『待ってました!』。客席から声をかける人が、実際にいた。

   そういう展開にスカッとする日本人の胸に、いま、2つの出来事が響いている。韓国に対する半導体材料の輸出規制強化と、国際捕鯨委員会脱退を受けた商業捕鯨再開だ。ネットには『待ってました』のエールもあふれている。しかしその美学、相当に危なっかしい。任侠映画なら陶酔感に浸ればよかった。残念ながらこれはスクリーンではなく、面倒な国際社会のなかの話である」

   「天声人語」はポチ犬にたとえる。

「あくびは伝染するという現象、理由があるらしい。有力な説は相手に共感するという心の働きゆえに起きるというものだ。トランプ米大統領の振るまいも伝染するようだ。米国が中国に仕掛けた貿易戦争さながら、日本政府が韓国への輸出規制に乗り出した。韓国側にも問題があるにせよ、江戸の仇を長崎で討つ筋違いの話だ。

   報復合戦となれば日本経済も返り血を浴びる。それでも威嚇してみせることが目先の選挙には得だと安倍政権は考えたのか。人のあくびは犬にも伝染するらしい。忠誠を尽くす飼い主から特に影響を受けやすいとの研究結果がある。日本政府の場合はこちらに近いか」

英紙が「日本の自由貿易の偽善を露呈するもの」と批判

   主要大手紙である日本経済新聞、朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、産経新聞の中で、「待ってました!」とばかりに安倍政権の対応に賛成したのは、産経新聞だけだ。「主張」(社説)のタイトルは「不当許さぬ国家の意思だ 対韓輸出の厳格化」。こう檄を飛ばす。

「文在寅政権が執拗に繰り返す反日的な行動は枚挙にいとまがない。抗議を重ねても馬耳東風を決め込む韓国に対し、法に基づく措置で対処するのは当然だ。国家の意思を毅然と示す意味は大きい。文政権は、日本相手なら無理が通ると考えるのはやめるべきだ」

   日本政府は表向き、「徴用工問題は関係ない」という姿勢を貫いているが、そのことにも産経新聞は、ふんまんやるかたない様子だ。

「西村康稔官房副長官は『対抗措置ではない』としている。だが、韓国相手に曖昧な態度を取るべきではない。韓国側に対応を迫るべきだ。強いメッセージが必要である」

とハッパをかけるのである。

   産経新聞以外の各紙が問題にしているのは、大阪で開かれたG20会議で議長国だった日本が「自由、公平、無差別で透明性がある貿易」という宣言をまとめたばかりなのに、その2日後に多国間合意を破るような対応に出たことだ。

「政治的な目的に貿易を使う。近年の米国と中国が振りかざす愚行に、日本も加わるのか」(朝日新聞)

「これまでG20議長国として、自由貿易や反保護主義を掲げてきた日本の今回の対応を疑問視する声もある。英紙フィナンシャル・タイムズは『日本の自由貿易の偽善を露呈するもの』と強く批判した」(読売新聞)

「日本政府はこれまで、高関税による脅しや、通商政策を政治的紛争の解決に使う動きには強く抗議してきたはずだ。今回の対韓輸出規制は日本のこれまでの努力を損なう恐れがある。『やられたらやり返す』という報復の連鎖が広がる世界に『勝者』はいない」(日本経済新聞)

「日本の本気度を目に見える形で示さなくては」

   それにしてもなぜこの時期に、これほど批判が多い対抗措置に打って出たのだろうか。毎日新聞によると、政府は昨年(2018年)10月に韓国最高裁から賠償命令の判決を受けた直後から水面下で準備に入っていたという。

「半導体材料の輸出制限や、安全保障上の友好国である『ホワイト国』から韓国を除外する検討を進めていた。今年2月の自民党外交部会では外務省幹部が『経済産業省とも協議して検討する』と明言していた。ただ、実際に発動すれば、日韓両国の経済に悪影響を与え、日本政府がG20で訴えた『自由貿易の推進』との矛盾を指摘されかねない」

   そこで、政府は6月のG20まで韓国政府の対応を待つことにした。しかし、韓国の動きは鈍かった。日本企業の資産の売却(現金化)が迫り、「実害が迫る前に動く必要があった」というのだ、本丸の「対抗措置」として関税引き上げ、送金停止、ビザ(査証)発給の厳格化なども検討された。しかし、半導体の原材料の3品目に絞ったほうが「最小の手段で最大の打撃を韓国企業に与えることができる」と判断したようだ。

   読売新聞によると、

「政府関係のごく一部で(規制の)対象品目の絞り込みが行なわれ、最終案は5月中にほぼ固まっていた。G20での日韓首脳会談が見送られたことが引き金になった。日本企業や、国際的な製造網への影響を懸念する見方もあったが、最後は官邸や周辺議員の強い意向が働いた。韓国側は依然として問題の深刻さを理解していない。日本の本気度を目に見える形で示そうとした」

という。

   参議院選挙対策の側面を指摘するのが朝日新聞だ。

「4日に参院選の公示を控える政権としては、この問題に毅然とした対応を示す狙いもあり、G20閉幕の直後に対抗措置を打ち出した」

報復の応酬が長引くと日本は元も子もなくなる

   さて、今後の日本経済にはどのような影響を与えるだろうか――。日本経済新聞が、ざっと問題点をこう説明している。

「対抗措置は、半導体製造に使う材料の輸出規制を厳しくする内容だ。韓国電機産業の生産に影響が出るとともに、韓国企業を大口顧客とする日本企業も打撃を受ける恐れがある。韓国企業は半導体で高いシェアを持ち、売上高はサムスンが世界首位、SKが3位だ。

   半導体を標的にするのは問題が多い。韓国の半導体やスマートフォン、家電生産などは日本の部品・素材、装置メーカーが支える。今回、(輸出規制強化の)対象になるフッ化水素など3品目は、半導体生産に不可欠で、日本企業の世界シェアが極めて高い。

   材料の供給が途切れ、たとえばサムソンの生産に支障が出るようなら、スマホやパソコンなど半導体を利用するすべての機器の生産も滞り、混乱が世界に広がりかねない。日本発の供給ショックを起こしてはならない」

   一方、報復の応酬が長期化すると、日本に大きな打撃が跳ね返ってくる可能性がある。読売新聞が、過去に日本が中国から「レアアース」(稀土類)をストップされた時の例を引き合いにこう指摘する。

「(尖閣諸島問題で日中の対立が激化した)2010年、中国が省エネ家電の部品に不可欠なレアアースの日本向け輸出を規制した際、日本はオーストラリアなど調達先を多様化し、代替品・技術の開発に注力した。今回、韓国企業に原材料を供給できない状態が長期化すれば、中国などに調達先を開拓するなどして、『日本外し』が起こる可能性がある」

   実際に、毎日新聞は韓国企業にとっては「災い転じて福となす」の好機到来になるかもしれないとの見方を紹介する。

「短期的に韓国の半導体業界が損害を受けたとしても、日本依存を脱却できれば、韓国側の競争力は中長期的に高まるとの見方もある。KTB投資証券のキム・ヤンジェ研究員は『半導体業界は供給過多の状況だったので、構造を変えるチャンス。今から国産化を強化すれば、3~5年後には日本依存の体質を改善できる可能性がある』と述べた」

   かつて日本がやったように、これを機に外国メーカーへの乗り換えが起こるかもしれないというのだ。これでは元も子もなくなるが、いずれにしろ、「日韓経済戦争」の長期化はさけられないようだ。

トランプ氏と習近平氏のほうがオトナに見える?

   今回の措置が、韓国が誇る「半導体分野」をターゲットにしたことで、韓国の国民感情を逆なでしたことが大きいという。毎日新聞が書く。

「(これで)韓国が元徴用工問題で譲歩するかは未知数だ。日本研究専攻のソウル大のパク・チョルヒ教授は2016年の中国による経済制裁発動により、韓国での中国ブームが冷え込んだ経緯をあげ、『日韓協力で最も努力してきた半導体分野を真っ先に傷つけた。国民感情的にも日本への警戒を強めることになり、逆効果だろう』と指摘した」

   一方、読売新聞も日韓がのっぴきならない泥沼に入る危険性をこう書く。

「来年(2020年)4月に総選挙を控える文在寅政権は当面、対抗措置をとり、韓国内の反日世論の高まりを政権の求心力につなげようとするとみられる。一方、日本政府高官は『まだまだこれでは終わらない』と述べ、今後も韓国向けに『対抗措置』を打ち出すとの見通しを示した」

   朝日新聞社説は「日韓両政府は頭を冷やす時だ」というが、なにやら最近、首脳会談で貿易交渉を再開したトランプ大統領と習近平主席の二人のほうがオトナに見えてくるから不思議だ。

(福田和郎)

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