2024年 4月 19日 (金)

「プロ経営者」とは笑止千万!! LIXIL騒動にみる社長の「潔さ」とは何か(大関暁夫)

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   経営権を巡って混乱が続いた住宅関連総合企業のLIXILグループの株主総会が2019年6月25日に開かれ、形のうえでは株主側提案が賛成多数で会社側提案に勝利するという結果になりました。

   事の発端は、昨年10月。LIXIL会長でグループ中核企業であるトステム(旧トーヨーサッシ)創業家である潮田洋一郎氏が、同社の指名委員会を動かして瀬戸欣哉社長を更迭し、自身が会長に就任する人事を決めたことにあります。

  • トップ交代は大きな決断だが……
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快く席を譲るのが「プロ経営者」ではないのか

   LIXILはお家騒動が勃発して以降、株主である複数の海外機関投資家が、潮田氏自身が委員を務める指名委員会を意のままに動かした、この人事はおかしいと、潮田氏の解任を求め臨時株主総会を開くことを要請。これを受けて、会社側は潮田氏と瀬戸氏の後任社長である山梨広一氏が、急遽すべての役職からの退任を発表します。

   もちろん、潮田氏のやり方に問題があったのは明らかですが、同時に私が問題に感じているのは、潮田氏の辞任発表後に再度トップ復帰に意欲を見せて株主提案に名を連ねた瀬戸氏の対応です。瀬戸氏は、オーナー家の潮田氏と経営方針を巡って行き違いがあり、突然社長を解任されたわけですが、氏は件の指名委員会決定を受けて社長の座を解かれた取締役会後に「これはおかしい」(雑誌インタビューでの発言)と思いながらも退任会見に同席して「快く席を譲るのはプロ(経営者)の心得だ」(日本経済新聞)とまで言って去り際の潔さを見せていたにも関わらず、自らへの追い風と見るや突然社長ポストへの固執をみせたわけです。

   株主総会の大きなテーマは、潮田氏が犯したガバナンス不全の組織運営改善と、赤字決算からの事業立て直しです。潮田氏退場後の会社側取締役候補は、8人中7人までを社外取締役とする構成で、特にガバナンス強化を強調したものでした(一部で潮田氏の影響力の完全排除を危惧する声がありましたが、大企業などで実績を積んだ社外取締役が大半を占める役員構成でそれは杞憂に過ぎないと、個人的には判断します)。

   ところが、それに対抗して提出された株主提案で、一たん「快く席を譲った」はずの瀬戸氏が役員候補の筆頭に再び登場したことで、一気に瀬戸氏の会社に対する復讐戦と化してしまったようなのです。

プロ社長と創業家の「痛み分け」のはずが......

   瀬戸氏の再登板への意欲に対しては、米国の有力議決権助言会社2社が「反対」との判断を明言していました。創業家の潮田氏と、経営者としてうまくやれなかった責任。同時に、前期の大幅赤字の責任。これは潮田氏、瀬戸氏の二人が同じように、真摯に負うべき経営責任であるはずだからです。

   自らの個人的な感情で経営改善の論点を濁してしまう。これでは瀬戸氏のどこがプロ経営者なのか、私から見れば笑わせるなと言いたいほどです。

   企業トップは、企業の運営に対して全面的な責任を負うわけで、その判断は私情ではなく企業経営優先で考えるのが筋です。理由や経緯はどうあれ、オーナー家と雇われのプロ社長が、経営者同士の意見が対立して社長が更迭されるというようなスキャンダラスな問題が発生したことで、企業イメージの低下、組織運営に対する不安感を招いたことは明らかです。

   ならばこれは、それにかかわった経営者自身がしっかりと責任を負うべき事象であるのです。

   すなわち今回の問題は、瀬戸氏が解任され、投資家からの要求を受けて潮田氏が退任した段階で、ジ・エンドとすべき問題であったと考えます。

   瀬戸氏が、仮に組織生え抜きのサラリーマン経営者の出来事でもあったのならば、事の展開で復帰に意欲を見せることにまだ若干の正当性が認められるでしょう。しかし、プロ経営者として雇われ理由はどうあれ雇われ主から退任を求められて一度は潔く決めた身であるなら、例え誰に請われようとも復讐戦的なトップ返り咲きはあり得ないと思うところです。

自己欺瞞に陥った二人の経営トップ

   経営者を生業とする者、すべからく自らの進退については潔さが必要です。潔さは謙虚さでもあります。

   瀬戸氏のような雇われの身なら、言わずもがなの撤退は肝要。オーナーであっても、後継者であっても、物理的に社長の座を辞するか否かは別にしても、仮にそれまでのワンマンなやり方に社員が不平不満を感じて何か反旗を翻すような事態があったり、社員が現状に不満を抱いて続々辞めるようなことがあったなら、周囲の意見を聞き入れる機会をつくったり、合議制を取り入れてみる等、実質的にそれまでの自分を辞するような潔さは重要なのです。

   よく世の社長が社員に対して発する言葉に、「自分が担当する一つひとつの仕事に対して、プロ意識を持て」というものがあります。プロとはその仕事を責任もって全うすることでおカネをもらう価値のある人のことであり、プロは自分の仕事に厳しく前向きに反省も修正もしなくてはいけないという意味でもあります。

   社長も同じく経営のプロです。すなわち、責任ある会社経営をすることでおカネをもらう価値のある仕事する人であり、そうであるのなら、常に自己欺瞞に陥ることなく自己に厳しく前向きに反省も修正もしなくてはいけないことも、また同じはずです。

   どんなに小さな組織でも人の上に立つことが当たり前になり、さらに一度頂点に座ってしまうと、人は自己欺瞞に陥りやすく自らの行動に対する反省や日々当たり前と思うことの見つめ直しができなくなってしまうものです。

   LIXILの二人の経営者は、それぞれに経営トップとしての自己欺瞞から、取るべき行動を誤ってしまったように、私には思えます。昨秋に始まった今回の一件、世の経営者に対する警鐘として捉えた次第です。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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