2019年 10月 18日 (金)

日米貿易協定、日本と米国「勝ったのはどっちだ?」主要紙の論調真っ二つ 社説で読み解く

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   日米貿易協定が2019年9月26日、安倍晋三首相とトランプ大統領の間で最終合意した。安倍首相は「両国に利益をもたらすWin-Win(ウィンウィン)の合意」と胸を張ったが、本当にそうだろうか。

   最終合意は日本にとって成功なのか、失敗なのか。大手新聞各社の論調も「焦る米に乗じた日本」(日本経済新聞)から「米に弱み突かれ屈した」(朝日新聞)と真っ二つに分かれている。主要新聞の9月27日付社説から読み解くと――。

  • 日米貿易協定、日本は勝ったのか?(写真は、安倍晋三首相)
    日米貿易協定、日本は勝ったのか?(写真は、安倍晋三首相)

日経「勝った」産経「引き分け」朝日・毎日・東京「負けた」

   ここで日米貿易協定の骨子をおさらいしておこう。

   まず、日本から米国への輸出では――。

(1)日本の自動車=トランプ政権が離脱する前のTPP(環太平洋経済連携協定)合意では日本車への関税は撤廃するとしていたが、米は関税撤廃に応じず継続協議に。また、トランプ大統領は日本車に対する追加関税をチラつかせていたが、貿易協定の履行中は追加関税の発動はしないと説明した。
(2)日本産牛肉=これまで200トンだけだった和牛の低関税枠を拡大、輸出の好機に。

   米国から日本への輸入では――。

(3)牛肉・豚肉=米国は畜産農家が強く輸入拡大を希望。TPP加盟国と同水準に関税を引き下げる。
(4)ワイン=TPP加盟国と同水準に関税を引き下げる。
(5)コメ=米国は米国産コメの無関税枠の拡大を希望していたが、日本は「コメは聖域」として反対、拡大を見送ることにした。

   こうした決着について、9月27日付の主要新聞の1~3面の特集・解説記事の見出しは大きく論調が分かれた。日本側が「勝った」とみる日本経済新聞の見出しはこうだ。

「『再選』焦る米、乗じた日本 貿易交渉決着、車の高関税回避」

   一方、読売新聞はどっちが勝ったとも負けたともいわない「無色」の立場だ。

「車関税回避全力 日本、牛・豚・小麦を開放 トランプ氏も成果急ぐ」

   産経新聞ははっきりと「引き分け」と断じた。

「妥結優先、日米痛み分け 低い関税撤廃率 トランプ氏、再選向け成果強調」

   ところが、朝日新聞、毎日新聞、東京新聞は、日本側のはっきりとした「負け」という立場だ。

「米ペース貿易妥結 トランプリスク残る 追加関税の回避、明記されず 米依存の弱み突かれ屈した」(朝日新聞)
「防戦重ねた日本 米、車関税で脅し トランプリスクなお」(毎日新聞)
「トランプ流交渉、懸念現実 米主導権、車追加関税で脅し 『最大限』の後退、日本カード乏しく」(東京新聞)

といった按配だ。

朝日と毎日「トランプ大統領は信用できない」

   各紙の社説でも、こうした見出しにそった論調を展開している。

   日本経済新聞社説「日米の貿易協定を次につなげたい」はこう評価した。

「世界1位と3位の経済大国がTPPに代わる協定を結び、さらなる貿易の拡大を目指すのは歓迎だ。日米双方が守り抜いた聖域があるとはいえ、安い輸入品が手に入る消費者の恩恵は小さくない」

   読売新聞社説「現実を踏まえた次善の策だ」も、日本経済新聞ほど手放しではないとはいえ、一定の評価を与えている。

「日本が重視するコメは協定から除外された。焦点だった米国による日本車への制裁関税は回避された。困難な交渉を経て現実的な妥協点を見つけたのは評価できる。最悪の事態を回避することを優先して、自動車関税の撤廃を先送りしたのは、やむを得まい」

というわけだ。

   産経新聞の主張(社説)「同盟支える真の『互恵』を」は、米中のような深刻な対立にならなかった点を評価する一方、米国の対応は本当に互恵的と言えるのか、と疑問を投げかけている。

「日本車に対する米国の関税撤廃が先送りされたことは見過ごせない。対米輸出の主要品目を除外して本当に互恵的といえるのか。自動車産業保護を訴えるトランプ政権が積極的に協議に応じる保証はない。そうだとしても求めるべきは強く求め続けるべきだ。日米同盟をさらに強固にするためにも必須の作業だ。日本がTPP並みの市場開放を行うなら、米国がTPPで認めていた自動車関税撤廃なども時期を明示して約束すべきだった。そうならなかったのは、日本が米国の理不尽な圧力への対応を最優先したからだ」

と、日本政府にハッパをかける。

信用できない?(トランプ米大統領(C)FAMOUS)
信用できない?(トランプ米大統領(C)FAMOUS)

   一方、日本側が「屈した」とする朝日新聞社説「自由・公正に傷がつく」は、産経新聞と同じく「自動車関税撤廃の先送り」の論点を持ち出し、こう指摘する。

「世界貿易機関(WTO)のルールでは、二国間で貿易協定を結ぶ際は貿易額の9割程度の関税撤廃が求められる。対米輸出額の約35%を占める自動車の関税撤廃時期を示さないのでは、自由・公正という貿易原則をゆがめかねない」

   つまり、WTOのルール違反だというわけだ。しかも、トランプ大統領には「信義違反」の前科がたびたびあると危険性を訴える。

「両首脳が今回署名した共同声明には『協定が履行されている間、共同声明に反する行動は取らない』という文言が入った。これをもとに、首相は追加関税をかけない意向を、大統領から『明確に確認した』と強調する。ほぼ同じ表現は、1年前の共同宣言でも盛り込まれた。しかし、その後の交渉中、米政府は日本などの輸入車は安全保障上の脅威であると結論づけたうえ、追加関税の判断は11月中旬に先送りしている。声明の文言では安心できない」

   毎日新聞社説「ウィンウィンとは言えない」も、トランプ氏は信用ならないと切って捨てる。

「トランプ氏の最優先課題は大統領選での再選だ。農家や自動車工場は選挙情勢を左右する激戦州に多い。日本政府は成果を急ぐトランプ氏に花を持たせ、過大な要求を突き付けられないうちに交渉を終えたかった。しかし、共同声明の文言は、昨年9月の共同声明を踏襲したにとどまる。予測不能のトランプ氏だけに歯止めとは言いがたい。追加関税が発動されるリスクは消えていない」

   東京新聞社説「自動車で確約取れたか」は、さらに米ニューヨーク・タイムズ紙の情報をもとに疑問を投げかける。

「首脳会談前、ニューヨーク・タイムズ紙は『確約』を巡り、日米が対立し、正式調印が間に合わなくなると伝えた。日本は、追加関税が発動される場合、協定を失効させるという明確な『確約』を求めたが、米国が反発したという内容だ。交渉を有利に進める切り札を温存したい大統領の本音が見える。トランプ氏の出方は予測できない。交渉の経緯を明らかにする必要がある」

専門家「トランプ再選を助けるため日本はすべてを失った」

   「交渉の経緯を明らかにすべきだ」といえば、朝日新聞、毎日新聞、東京新聞の社説がいずれも問題にしているのは、安倍首相がトランプ氏の歓心を買うために米国産「飼料用トウモロコシ」を大量に購入した一件だ。

「首相は8月、協定とは別に日本企業が米国産トウモロコシを大量に購入する計画を示し、会談したトランプ氏を喜ばせた。首相は害虫対策と説明したが、専門家からはそれほどの被害ではないと疑問も出ている」(毎日新聞)
「来年の大統領選対策で押し付けられたとしか見えない飼料用トウモロコシの大量購入は、国内の購入先も利用方法もはっきりしない」(東京新聞)
「(トウモロコシの件も含め)両国間で何を話し、日本側の譲歩が色濃い結論にどう至ったのか、説明がつくされぬままの最終合意だ」(朝日新聞)

   さて、各紙の経済面にコメントを出した専門家は、どう見ているだろうか――。

   山下一仁・キャノングローバル戦略研究所研究主幹は、朝日新聞に「一言でいえば、トランプ大統領の再選をアシストするための合意だ。(コメを守ったことを)日本は成果として強調しているが、米国産のコメは競争力がなくなり、既存の無関税枠すら余っている。米国が自動車にかける関税の完全撤廃は全部先送りだ。日本は何もとれず米国にすべてを与えたようなものだ」と、寄せている。

   本間正義・西南学院大学教授は、毎日新聞で「日本は初めからTPP水準までなら農産物の市場開放に応じる姿勢を示し、交渉カードを切ってしまった。このため、米国自動車市場開放を求めて攻めの交渉ができなかった。日本はトランプ大統領に『低い関税で農産品を輸出したいなら、TPPに入り直せ』と主張すべきだった」とした。

   浦田秀次郎・早稲田大学大学院教授も、「米国は自分たちに都合のいいように貿易の枠組みを変えている。今回は自動車の追加関税発動は回避されたようだが、状況が変われば発動の可能性がある。日本は東アジア地域包括経済連携(RCEP)なども活用して米国を包囲する自由貿易圏をいくつもつくり、米国の保護主義に対抗すべきだ」(毎日新聞)と、コメント。手厳しい意見が多かった。

(福田和郎)

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