2024年 4月 26日 (金)

日米の金融政策で見る政治との距離 「トランプ圧力」跳ね返すFRB、安倍首相に「忖度」する日銀(鷲尾香一)

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   2019年10月下旬、日本と米国では金融政策当局の会合が行われ、対照的な金融政策の決定がなされた。

   米連邦公開市場委員会(FOMC、10月30日開催)と、10月31日と11月1日に開かれた日本銀行の金融政策決定会合がそれだ。

  • 日米金融当局、政治家の顔色をうかがっているはいるものの……
    日米金融当局、政治家の顔色をうかがっているはいるものの……
  • 日米金融当局、政治家の顔色をうかがっているはいるものの……

トランプ米大統領、FRBに「マイナス金利」を迫る

   米国では、10月30日にFOMC(米連邦公開市場委員会)が開催され、FRB(米連邦準備制度理事会)は政策金利を0.25%引き下げ、短期金利の指標であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を年1.75~2.00%から1.50%~1.75%とすることを決めた。7月、9月に続き、3回連続の利下げとなった。

   この利下げは、ジェローム・パウエルFRB議長が強調する景気減速を未然に防ぐための「予防的利下げ」が継続されたものだったが、FOMC の声明文では、フォワードガイダンスにおいて予防的利下げのシグナルであった「経済成長を持続するために適切に行動するだろう」という文言が削除された。

   つまり、FRBは今回の利下げをもって、いったんは利下げを打ち止めると宣言したわけだ。

   FRBの金融政策に対しては、強い政治的圧力がかかっているにも関わらず、明確に利下げの打ち止めを宣言したのは、パウエル議長の英断と言ってもいいだろう。

   政治的圧力の元凶はドナルド・トランプ米大統領にほかならない。トランプ大統領は、得意のツイッターを使い、繰り返し、「FRBは政策金利をゼロかそれ以下に引き下げるべきだ」と発言するなど、FRBに対して大幅な金融緩和の実施を迫っている。

   今回の利下げ後にも、トランプ大統領は、FRBの利下げ打ち止め方針に対して、「中国ではなくFRBが問題だ」とツイート。「人々はジェイ・パウエルにがっかりしている。ドル相場は製造業を痛めつけており、日独よりも金利を下げるべきだ」と、マイナス金利への金融緩和を迫っている。

   トランプ大統領にとっては、2020年の大統領選に勝利するためにも、米国の好景気を維持すること「大命題」であり、それだけにFRBへの圧力は強い。このため、確かに3回連続の利下げは、トランプ大統領に圧力に配慮した面もあったに違いない。

パウエルFRB議長の「利下げ打ち止め」宣言

   しかし、3回連続の利下げをもって、パウエル議長は「利下げ打ち止め」の環境が整ったと判断。トランプ大統領の執拗な「圧力」を跳ね返した。それは、中央銀行の独立性に対する政治的な圧力に対する姿勢の表れでもあっただろう。

   もちろん、今回利下げを打ち止めたからといっても、今後も利下げしないということではない。FRBは、今後、米国の経済状況次第では躊躇なく利下げを実施するだろう。

   翻って、日銀はどうだったのか。

   日銀は10月31日の金融政策決定会合で、政策金利を据え置き、現状の金融政策の維持を決めた。しかし、政策金利のフォワードガイダンス(政策方針)を変更し、政策金利引下げの可能性を改めて示唆した。

   「日本銀行は、政策金利については、『物価安定の目標』に向けたモメンタムが損なわれる惧れに注意が必要な間、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している。」これが、日銀が公表したフォワードガイダンスだ。

   思い起こせば、日銀は9月の金融政策決定会合でもフォワードガイダンスを変更している。それまでの「物価安定の目標に向けたモメンタムが損なわれるおそれが高まる場合には、躊躇なく、追加的な金融緩和措置を講じる」を「物価安定目標に向けたモメンタムが損なわれるおそれに、より注意が必要な情勢になりつつある。次回の会合で経済・物価動向を改めて点検していく」と、表現を強めたのだ。

   そして、今回もフォワードガイダンスの変更にとどめ、金融政策は変更しなかった。

日銀の追加金融緩和、黒田総裁は「やるやる詐欺」

   なぜ、このようにフォワードガイダンスを頻繁に変更するのか――。それは、日銀の金融緩和策が手詰まり状態になっていることに他ならない。

   ECB(欧州中央銀行)が金融緩和へ方向転換し、FRBも連続利下げを行っている中で、超低金利政策を長い間継続している日銀は、安易に追加金融緩和に踏み切れない状況に陥っている。

   つまり、フォワードガイダンスを変更することによって、「時間稼ぎ」のための「リップサービス」を行っているということだ。なぜなら日銀には、どうしても時間稼ぎをしなければならない理由がある。それは、「消費増税後の景気状況」だ。

   10月1日に実施された消費増税の影響は、今後徐々に現れてくる。そして、景気の悪化が明らかになれば、政府は大規模な景気対策を行ってくる可能性がある。その時には、日銀も政府と共同歩調を取った金融緩和策の実施が必要になる。そのために、黒田東彦日銀総裁は「なけなしの金融緩和策」を温存するために、フォワードガイダンス変更を使ったリップサービスを行い、時間稼ぎをしているのだろう。

   すでに、市場では日銀の追加金融緩和策に対して「やるやる詐欺」と、揶揄される始末だ。それでも、日銀は何としても追加金融緩和策を温存しなければならないのだろう。

   ある意味、「消費増税の影響により景気が悪化した場合に、政府と共同歩調を取るため」というのも、立派な政治的な圧力ではないか。あるいは、黒田総裁の安倍晋三首相に対する「忖度」なのかもしれない。

   いずれにしても、政治的な圧力に対する米国と日本の金融政策当局の反応は、あまりにも鮮やかなコントラストを描いている。(鷲尾香一)

鷲尾香一(わしお・きょういち)
鷲尾香一(わしお・こういち)
経済ジャーナリスト
元ロイター通信編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで、さまざまな分野で取材。執筆活動を行っている。
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