2024年 4月 28日 (日)

【日韓経済戦争】「NOジャパン」から「NOチャイナ」に!新型肺炎で「中国人ボイコット」が燃え盛る韓国 韓国紙で読み解くと――

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   新型肺炎が猛威をふるうなか、韓国では激しい中国人ボイコット運動が起こっている。

   「NOジャパン」のスローガンが「NOチャイナ」にとって代わった形だ。店の入口に「中国人立ち入り禁止」の張り紙を出すなど差別的な動きも広がっている。

   一方、これをきっかけにメディアの間でも中国をめぐるスタンスで論調が真っ二つに分かれている。いったいどういうことか。韓国紙で読み解くと――。

  • 中国人ボイコット運動を伝えるハンギョレ(2020年1月29日付)
    中国人ボイコット運動を伝えるハンギョレ(2020年1月29日付)
  • 中国人ボイコット運動を伝えるハンギョレ(2020年1月29日付)

整形美容病院、ホテル、タクシーも「中国人お断り」

   韓国各地に広がった中国人ボイコット運動の激しさを朝鮮日報(2020年1月29日付)「病院もホテルもタクシーも『中国人お断り』...『武漢肺炎』発『NOチャイナ』拡散憂慮」がこう伝える。

「武漢肺炎(編集部注:新型肺炎)に対する不安感が国内でも急速に広がり、各地で反中・嫌中の動きが拡大している。中国人観光客が主に訪れるホテル、飲食店、美容整形外科などには『中国人のお客さまは受け入れません』と書かれた張り紙が貼られ、タクシー運転手も中国人の乗車を拒否している。インターネットでは反日のスローガンだった『NOジャパン』『NOチャイナ』にシフトする動きも出ている」

   じつはWHO(世界保健機関)は、疾病の名称に特定の地域を明記しないよう勧告している。その地域やそこに住む人々への差別・偏見につながるからだが、韓国ではメディアの多くが新型肺炎を「武漢肺炎」と呼んでいるのが現状だ。

   それはともかく、朝鮮日報記者はソウル市江南区の有名美容整形外科を訪ねた。整形手術を受ける中国人客でにぎわう病院だ。職員が中国人客2人の体温を測っていた。職員は「体温は正常だが(新型肺炎の)潜伏期間の可能性があるため、病院の利用は難しい」と2人を帰らせた。病院関係者は「全体の10%が中国人客だが、(中国人を受け入れると)国内顧客のキャンセルが相次ぐため、やむを得ず中国人客を受け入れないことにした」と話した。

   ソウル市江南区のホテルでは「宿泊不可」と言われた中国人観光客たちが、深夜のファストフード店にたむろしていた。このホテルは中国人観光客の予約すべてに全額払い戻し措置を取り、中国人の宿泊禁止を決めた。ホテル関係者は「中国人以外の宿泊客の不安を考慮した」と説明した。

   ソウル市新沙洞では、タクシーを探していた中国人観光客3人が、3度の乗車拒否に遭っていた。一度タクシーに乗って目的地を告げても、中国語を話した途端、「降りてください」と言われるのだった。

   朝鮮日報が続ける。

「SNSの世界では『NOチャイナ』というポスターがシェアされ、露骨な反中感情が表出している。反日運動が拡大した際に作られた『NOジャパン』のポスターをパロディ化したものだ。『中国不買運動を推進すべき』『中国人の韓国入国を拒否すべき』など、具体的な対策を促す声も高まっている。青瓦台(韓国大統領府)ホームページの国民請願掲示板には『中国人の入国禁止要請』の書き込みが相次ぎ、50万件以上に達した」

   こんな中、フェイクニュースや悪質な噂が広まっている。ユーチューブには「武漢肺炎は中国共産党の生物化学兵器」「中国の生物化学兵器研究施設からコロナウイルスが流出した」という内容の映像が投稿され、1万2000回以上の再生回数を記録した。

理不尽なバッシングを受ける「朝鮮族」の人々

   ところで、韓国には「中国同胞」と呼ばれる人々がいる。もともと中国各地に住んでいた、同じ民族の「朝鮮族」の人たちだ。今回の新型肺炎パニックで、その「中国同胞」たちが理不尽なバッシングを受けている現状を、ハンギョレ(2020年1月29日付)が「食堂の前には『中国人出入禁止』、SNSには『朝鮮族の家政婦、辞めてもらおうか』」という見出しで伝えている。

「50代の中国同胞Aさんは、最近経験したことを打ち明けた。Aさんの息子が1月4日に交通事故に遭い、足に大怪我をして病院に入院した。しかし、完全に治っていない状態なのに急いで退院しなければならなかった。中国同胞に向けられるヘイト感情が怖かったのだ。『もともと私たちに対する差別が激しいのに、病院にいて誰かが新型肺炎にかかったら、また"朝鮮族"だからとあれこれ言われるのは目に見えている。SARS(重症急性呼吸器症候群)の時も根も葉もないうわさが流れたが、今回も同じです』。Aさんはため息をつきながら言った」

   ハンギョレが続ける。

「ネットのあるコミュニティーにも『武漢肺炎が心配だから、朝鮮族の家政婦にもう来ないでと言おうか』という書き込みが掲載された。他のネットユーザーらも『朝鮮族の家政婦たちは中国に帰国して症状が出ても、届け出るような人たちでもないし』『朝鮮族の食堂の従業員たちが唾を飛ばしていると考えたら、食堂にも行けない』と話した」
「(中国同胞が多い)大林洞の中国同胞たちもこのような世論をよく知っていた。中国同胞のBさんは『悔しいが、何も話したくない』と言った。大林中央市場商人会のキム・ヨナ総務は『中国同胞たちの衛生観念は私たちと同じ。もともと中国同胞に対してもっていたヘイト感情が、新型肺炎をきっかけにもっとひどくなっている』と話した」

   労働組合の間でもとんでもない動きが起こっている。ハンギョレ(2020年1月29日付)がこう伝える。

「出前配達プラットフォームで働く配達サービス労働者労組は『中国人の密集地域への配達禁止』を要求した後、偏見差別的な要求だという批判を浴びて謝罪した。労組は使用者側に、『中国人の密集地域(有名観光地、居住地域、訪問地域など)への配達業務を禁止するか、または危険手当を支給せよ』と要求したのだった。さすがに中国人に対する偏見だという批判が起こると、労組は『マイノリティーに対するヘイトスピーチについて、重大な責任感を感じ、傷ついた方々にお詫びを申し上げる』と明らかにした」

   こんななか、韓国人の中国人に対する暴行事件も起きている。中央日報(2020年1月29日)「『中国に帰れ』韓国の繁華街で韓国人・中国人一行が暴行騒ぎ」がこう伝える。

「ソウル市の繁華街、弘大入口駅近くの路上で1月29日、韓国人3人と中国人4人が暴行容疑で警察の取り調べを受けた。麻浦警察署によると、双方の言い争いは互いが歩行中に相手の肩にぶつかりながら始まった。韓国人一行が『中国に帰れ』などの発言をしたことから暴行騒ぎに発展した」

もし新型肺炎の発生地が日本だったら?

   ところで、今回の「NOチャイナ」運動、興味深いことに韓国紙の社説でも左派系と保守系で論調が真っ二つに分かれているのだ。

   左派系のハンギョレ(2020年1月29日付)「社説:新型コロナ恐怖あおる『フェイクニュース』と『ヘイト表現』を憂慮する」は、オーソドックスに中国に対する偏見をやめようといさめる内容だ。

「根拠のないフェイクニュースや歪曲された情報が氾濫し、甚だしくは中国人フォビア(嫌悪)現象まで現れていることは憂慮される。むしろ、このような反応が、新型コロナの拡散阻止の妨げになる恐れがある。今回の事態が、発生地と目される武漢、さらには中国に対する嫌悪へと拡大しているあり方は決して望ましいものではない。大統領府の掲示板では、中国人入国禁止請願の署名者が50万人を超えた」
「しかし、中国人差別や出入国禁止のような措置が、かえって症状の申告を控えさせたり、(密入国など)検疫の死角地帯を拡大したりすることで、事態を悪化させるという専門家の指摘に耳を傾ける必要がある。一部からは(文在寅政権が)『武漢肺炎』という用語を使わないなどの理由で『事大主義』との非難があがっているが、差別をあおる単語を避けるのは常識であって、非難すべきことではない」

   ハンギョレは、韓国メディアでは珍しく新型肺炎について「武漢肺炎」という差別的な表記を使わない新聞だ。また、ハンギョレが支持している文政権も国民に「武漢肺炎」と呼ばないよう求めている。単に、WHOの勧告に従っているからなのだが、しかし、それを保守系メディアは「中国に対する弱腰」と批判するのだ。

   保守系の急先鋒、朝鮮日報(2020年1月29日付)「社説:『武漢肺炎』、反中は駄目だが与党は国民の健康から先に心配を」が、あえて「武漢肺炎」という言葉を使い、ハンギョレの論調にこう反論する。

「韓国与党・共に民主党の李仁栄(イ・インヨン)院内代表が、武漢肺炎の感染拡大について『困ったときの友人が本当の友人だ。このようなときほど韓中両国の国民が嫌悪感をあおるような行動は控えるべきだ』と発言した。武漢肺炎で中国人に対する無分別な嫌悪感をむき出しにするのは良くない。隣国として支援できることがあれば支援すべきだ」

としたうえで、こう釘を刺すのだった。

「しかし政府と与党は韓国国民の健康を優先する姿勢を示すべきだ。隣国への心配はその次にしてもよい。1月13~24日の間、武漢から韓国への入国者は3000人に達した。今後も韓国国内の感染者がさらに増える可能性も考えられる。このような状況で与党の院内代表が『中国は友人』と強調したため、『また中国の顔色をうかがっている』『国民の健康よりも中国との関係が優先か』といった不満の声も広がっている」

   そして、文政権が新型肺炎を「武漢肺炎」と呼ばないことについても、「中国への遠慮・忖度」だと批判するのだ。

「確かに、WHOは疾病の名称に特定の地域を明示しないよう勧告しているが、実際には『日本脳炎』『アフリカ豚コレラ』などすでに広く使われている言葉もある。(肺炎の発生地が)中国ではなく日本だった場合、大統領府はどうしただろうか」
「文政権は『東京五輪は放射能五輪だ』と主張しボイコットまでちらつかせている。(日本に対しては放射能汚染で強く出るのに)中国に対しては大気汚染問題ではまともに抗議さえしていない。文大統領は中国で意図的にぞんざいな扱いを受け、韓国を『小さい国』と侮辱されたこともあった。中国の前では常に小さくなる理由が気になるところだ」

と皮肉を利かせる。というわけで、今回の「NOチャイナ」問題でも、結局最後は日本に飛び火するのだった。

(福田和郎)

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