若いビジネスマンの「読解力」低下 向上のために必要なのは「語彙力」と「文章力」

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   数年前から日本人の読解力の低下が取りざたされることが多くなった。当初は小学生、中学生の学力をめぐる指摘だったが、ビジネスの現場でも企画書や報告書におかしなところがみられるようになり、若いビジネスマンのあいだでも読解力低下がみられることが明らかになってきた。

   本書「『頭がいい』の正体は読解力」は、その対策のための一冊。「語彙力」をつけ「文章力」を磨き、そして「読解力」をあげる多角的な方法を提案している。

「『頭がいい』の正体は読解力」(樋口裕一著)幻冬舎
  • 「読解力」がないと、迷惑なクレーマーにもなりかねない
    「読解力」がないと、迷惑なクレーマーにもなりかねない
  • 「読解力」がないと、迷惑なクレーマーにもなりかねない

ベースはビジネス文章力ゼミ

   出版元の幻冬舎は2019年1月、同社のセミナーである「幻冬舎大学」で、本書の著者である樋口裕一さんが講師を務め、「超実践!ビジネス文章力ゼミ」と名づけた講座を3回にわたり開催した。本書はその講義をベースにまとめられたもので、「語彙力」「文章力」「読解力」のテーマ別練習問題が数多く収められている。

   著者の樋口さんは、フランス文学、アフリカ文学の翻訳家として活動するかたわら、受験小論文指導の第一人者として活躍。現在は、多摩大学名誉教授、東進ハイスクール講師のほか、通信添削による作文・小論文の専門塾「白藍塾」塾長、MJ日本語教育学院学院長を務める。著書に「頭がいい人、悪い人の話し方」(PHP新書)などがある。「文章力」「読解力」の専門家であるだけに、若者らの読解力の落ち込みを見るのに耐えかね立ち上がった。

   樋口さんによれば、読解力低下の主な原因は、読書量の決定的な不足だ。以前も、本を読まなくなったと言われたときはあったが、それでも人々はそれなりに本を読み、新聞、雑誌を購読していた。また読書が趣味という人は大勢おり、大ベストセラーになる作品もしばしば登場。さまざまな小説のことが世間話の話題になっていた。

   ところがインターネットが拡大してITが進化するにつれ、紙媒体は脇に追いやられて活字離れがさらに進んだ。スマートフォンが登場するに及んでは、SNSの短いメッセージだけで「新聞記事」の内容が知られるようになり、その詳しいことは動画のニュースで知る人が多いという。以前のようにまとまった文章を読む人は減り、新聞は発行部数を大幅に減らし、廃刊や休刊に追い込まれた雑誌は少なくない。

   「ネットを駆け巡る文章は、短文がほとんどだ。複雑な状況を語ったり、深い思念を語ったりする文章はネット内には見当たらない。ひと目で理解できるような文章だけが幅を利かせている。これでは読解力が養成されるはずがない。多くの若者が学校の教科書を試験くらいでしか文章を読まない。文章を読む習慣を持っていない」。著者は嘆くことしきりだ。

「読解力なし」はクレーマー予備軍

   こうした時代の「産物」とみられるのが、「クレーマー」と呼ばれる人たち。文章を読むことがなく読解力が身に付いていないから、状況にも周囲の人々の思念にも思い至らず、自分が正しいと信じて我を通す。「周囲の常識的読み取りができずに、孤独な攻撃をしているのではないか。クレーマーといわれる人たちに読解力テストをしたら惨憺たる結果が出るのではないか」という。

   著者が講師を務める文章講座にも、こうしたクレーマーのような受講生がいた。講義の内容について、実際にはない「矛盾」を指摘、現実には考えられない状況を設定して質問をいつまでも続ける。課題の小論文試験ではまったく的外れな内容で提出し、著者の添削に納得することがなかったという。

   この人物のバックグラウンドは定かではないが、読解力が足りないことは間違いないようだ。読解力をきちんとつけ、文章を読み取れるようになれば、状況も人の心も読み取れるようなるはずで、周囲と健全なコミュケーションがとれるようになるのが、ふつうだからだ。

句読点にもルールあり

   ビジネスの現場で健全なコミュニケーションができるようになるため、どのように読解力を養成するのか。読書が当たり前なことではなくなった現代では、以前のように、手あたり次第に読むことなどを強制できないだろうと著者。そうしたなかで、読解力をつけるために「もっとも効率的な方法」と提案されているのは「言葉を実際に使うこと」「文章を書くこと」。つまり「語彙力」と「文章力」をつけることだ。

   言葉を知らなければ、文章も相手の言っていることも理解できない。しかし「語彙力」といっても、故事成語のような熟語や難読漢字を覚えるということではない。読解力が不足している人は、一つひとつの言葉の辞書的な意味が理解できないのではなく、その連なりを理解できないのだという。「言葉の辞書的な意味を覚えることが問題ではない。言葉を自分のものにすること。使えるようにすることが問題なのだ」。そのために必要なのは「言い換え力」。「車イスのまま食事できること=バリアフリー」のような知識を豊富に持つことだという。

   もう一つ、読解力をつけるための「切り札ともいうべき決定的な方法」とは「文章を書くこと」。文章はまず書いてこそ正確に読み取れるようになると著者。スポーツを引き合いに「野球やサッカーなど、いくら見方を覚えても、実際にプレーしなければ深く見ることはできない。テレビ中継を見続けていれば、解説者をマネしていっぱしのことを言えるかもしれないが、そこには何の裏づけもない」という。

   「語彙力を鍛える」「文章力を鍛える」のセクションでは、それぞれトレーニング問題を収録。「文章力を鍛える」では、基本型となるパターンから句読点の配置まで詳しい指導が示されている。こうした著者の指導は、19年の講座でも非常に好評を得たという。

「『頭がいい』の正体は読解力」
樋口裕一著
幻冬舎
税別780円

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