2020年 5月 31日 (日)

【襲来! 新型コロナウイルス】元凶の宗教団体を「殺人罪」で告発! 朴槿恵前大統領の名まで浮上する泥沼政争 韓国紙で読み解く

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   韓国で新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。2020年3月5日現在で感染者は6284人、死者は43人に達した。

   このパンデミックを引き起こした「元凶」とみられているのが、新興宗教団体「新天地イエス教会」だ。検察当局が、この団体を「殺人罪」や「傷害罪」で捜査する可能性がある。 その背景には朴槿恵(パク・クネ)前大統領との関係まで浮かび上がり、政争がらみのキナ臭い動きまで出ている。韓国紙で読み解くと――。

  • 土下座して謝罪する新天地イエス教会のイ・マンヒ総会長(聯合ニュース3月2日付)
    土下座して謝罪する新天地イエス教会のイ・マンヒ総会長(聯合ニュース3月2日付)
  • 土下座して謝罪する新天地イエス教会のイ・マンヒ総会長(聯合ニュース3月2日付)

感染者全体の6割を占める宗教団体の正体

   「新天地イエス教会」に、ついに「殺人罪」などで告発されることになった顛末を聯合ニュース(2020年3月2日付)「ソウル市 宗教団体教祖を殺人罪などで告発=新型コロナ巡り」が、こう伝える。

「ソウル市は3月1日夜、新型コロナウイルスの集団感染が発生した新天地イエス教会の教祖、李万熙(イ・マンヒ)総会長(88)ら同団体の幹部を殺人罪や傷害罪、感染病予防・管理に関する法律違反などの疑いでソウル中央地検に告発した。同市の朴元淳(パク・ウォンスン)市長は自身のフェイスブックに、『彼らを強制捜査してこそ感染症を一日も早く収束できる。彼らが積極的な措置を取っていれば多数の国民が死亡に至ったり傷害を被ったりすることも未然に防げた』と投稿。『検察は今回の事態の重要責任者である新天地の指導部に対する迅速かつ厳正な捜査により、国民が納得できる処罰が行われるようにしなければならない』と求めた」

   新天地イエス教会の信者たちがいかに感染源となっているか。具体的な数字をみると、よくわかる。韓国政府の中央防疫対策本部によると、3月1日午前9時時点の韓国全体の感染者は3526人だった。

   そのうち、発生地大邱(テグ)にある新天地の教会の関係者が2113人だった。なんと、感染者全体の6割(59.9%)に当たるのだ。

   しかも、政府の調査に極めて非協力的だった。「宗教弾圧だ」というのである。同団体は2月末に出した声明で、保健当局に計24万5605人の信者の名簿を提出したと明らかにした。ところが、名簿はあちこちで飛んでおり、虚偽の記載や隠ぺいされたあとが多数あった。防疫当局が信者たちを調査しようとしても妨害にあったり、信者たちが逃亡したりした。

   ソウルに住む信徒の中には、警察力を動員しても調査できなかったケースが274人もいた。全国的には3月1日の時点で、まだ約4000も調査を受けていない状態だったのだ。パク・ソウル市長が激怒して、新天地イエス教会の幹部たちを「殺人罪」などで告発したのも無理はなかった。

新天地イエス教会の教祖が記者会見で親指を立てて......

   こうしたなか、報道陣から逃げ回っていた同教団のイ・マンヒ総会長(88)が3月2日、初めて公の場に姿を現し、記者たちに土下座して謝罪した。ただし、その言動は誠意ある態度とはほど遠いものだった。

   朝鮮日報(2020年3月2日)「『朴槿恵』署名入り金の腕時計はめた新天地教祖、2回土下座するも退出時に親指立てる」が、報道陣をなめた不遜とも言える態度をこう紹介している。

「新天地イエス教・証(あか)しの幕屋聖殿(まくやせいでん・以下、新天地イエス教)のイ・マンヒ総会長)が2日、初めて同団体研修施設に姿を見せ、『本当に申し訳ない。最善の努力をしたが防げなかった。国民の皆様に謝罪を請う』と土下座した」

   続いて、報道陣から質問を受けると、イ・マンヒ総会長は耳が遠いという理由により、教団の女性職員が隣に座って質問を伝える形になった。この職員は「研修施設にいつから来ているのか」という報道陣の質問に対して、イ・マンヒ総会長に「『2月17日から来ている』とおっしゃればいいのです」とささやいた。しかし、イ・マンヒ総会長が「ここ1カ所だけにとどまらず、あちこち行っていた」と言うと、女性職員は「『動かずにここにいた』とおっしゃってください!」と叱咤するありさまだった。

   こうしたやりとりは全部、報道陣に筒抜けだった。

   朝鮮日報が続ける。

「記者会見場の周辺ではデモ隊が『イ・マンヒ詐欺師』などと叫び、記者会見が中断する一幕もあった。イ・マンヒ総会長は『静かにしましょう。秩序がなければ大騒ぎになる。うるさい!ダメだ!』と怒鳴る一幕もあった。会見はわずか20分ほどで終わり、イ・マンヒ総会長は退場する際、親指を突き上げたのだった」

   親指を突き上げるポーズは、中東やギリシャなどでは大変下品な内容となり、殴り合いのケンカに発展する。しかし、韓国では一種のガッツポーズで、「よし、上出来だ!」「やったぞ!」「グッジョブ!」といった意味に使われるという。つまり、イ・マンヒ総会長は自分が行った記者会見をシドロモドロだったにもかかわらず、「我ながらいい会見だった」と自画自賛したわけだ。

   これには、国民の多くが「不謹慎だ」と受け取った。

土下座した教祖の腕に朴槿恵大統領の銀時計が!

   ところで、記者会見ではもっと大きなハプニングが起こった。イ・マンヒ総会長が土下座をした時、腕が前方に伸びたため銀の腕時計が露わになった。そこには朴槿恵(パク・クネ)前大統領の名前が刻まれていたから大騒ぎになった。「新天地イエス教会」と朴槿恵前政権の関係が取りざたされる事態に発展した。

   朝鮮日報(2020年3月2日付)「新天地教祖が着けていた『朴槿恵時計』の真偽は...弁護士『ニセモノ』」が、こう伝える。

「新天地イエス教会のイ・マンヒ総会長が3月2日、記者会見場に朴槿恵前大統領の署名が刻まれた時計を着けて現れ、時計が本物かどうか論議を呼んでいる。イ総会長が着けていた時計には『朴槿恵』という文字とともに、青瓦台(大統領府)を象徴する鳳凰のマークが刻まれていた。時計はスチール素材で金色に装飾されていた」
イ・マンヒ総会長の腕からチラリと見えた「朴槿恵時計」(ハンギョレ3月3日付)
イ・マンヒ総会長の腕からチラリと見えた「朴槿恵時計」(ハンギョレ3月3日付)

   この時計をめぐり、朴前大統領が在任中に記念時計として作ったいわゆる「朴槿恵時計」ではないかと指摘する声が出た。すぐさまインターネットでは朴前大統領が率いていた旧セヌリ党(現・最大野党の自由韓国党)と新天地がつながっているという情報があふれた。

   朝鮮日報が続ける。

「朴前大統領の弁護を担当するユ・ヨンハ弁護士は、朝鮮日報の電話取材に対し『時計は偽物』と話した。ユ弁護士は『朴前大統領の任期中に、金装飾の時計は作ったことがない』と述べた。朴政権当時、青瓦台に勤務していたイ・ゴンヨン元行政官も『朴前大統領が制作するよう指示したのは『銀色時計』一種類だけで、それを記念品として使っていた』と語った」

   イ総会長が着けていた時計と同じ時計は、インターネットの中古品取引サイトで一時「朴槿恵時計」として40万~50万ウォン(約3万6100円~4万5100円)で取引されていたという。時計を偽造した業者が摘発されたこともあって、イ・マンヒ総会長が着けてきた時計が本物かどうは藪の中だ。韓国メディアのカメラマンが見えた瞬間をカメラでとらえたものをアップしただけだからだ。

教祖を殺人罪で告訴したのは責任逃れの政治的陰謀か?

   4月に行われる総選挙を控え、文政権の与党・共に民主党は「朴槿恵時計」を最大野党・自由韓国党攻撃の材料に使おうと躍起だ。自由韓国党は、新型コロナウイルスの感染拡大を、「中国に忖度して中国人の入国拒否を怠った」文政権の初動対応ミスと攻撃してきた。今度は「新天地イエス教会」と自由韓国党の癒着と材料で巻き返しを図れるからである。

   こうした泥沼の政争に、朝鮮日報社説(2020年3月3日)「国民は新天地の責任、政府の責任、皆知っているので防疫だけ集中せよ」はこう警告を発している。

「新天地教会が、国民から批判を受けて当然だ。新天地は狭い空間で密集したやり方で礼拝や教育を行う上に、礼拝の時間もおよそ3時間と長い。患者1人がウイルスを広める再生産指数は7~10人に達する。しかも多くの信徒が調査に協力しないし、新天地信徒という事実を隠していた人も少なくない」
「だからといって政府与党が、新型コロナ事態はすべて新天地が原因であるかのように追いやることもいかがなものか。文大統領は(感染が急拡大した)2月13日の時点でコロナ事態について『近く終息する』と発言した。首相や長官らも『マスクは必要ない』『日常生活をしよう』と呼びかけていた」

   それがどうだ、と朝鮮日報は続ける。

「(与党・共に民主党側の)ソウル市長はイ・マンヒ総会長を殺人罪で告発したが、このような対応は新天地側に防疫当局から逃れ、隠れるよう促すのと同然だ。防疫当局は『新天地を強く圧迫するのは防疫に逆効果』としているが、政府与党はすべてを新天地のせいにし、責任から逃れることばかりを考えている。与党は(朴槿恵時計問題から)『新天地は野党と関係がある』というデマまで作り出している。国民はばかではない。新天地の責任がどこまでなのか、政府が何に失敗したのかは皆知っているから、政府は防疫にのみ集中しなければならない」

   つまり、新型コロナ感染拡大の責任は政府与党にもあり、新天地教会を殺人罪などで追い込むのは新天地教会にすべての責任を押し付ける政治的陰謀だというのだ。「朴槿恵時計」も偽物であり、与党側のでっち上げだと主張する。ただし、朝鮮日報は保守系紙で野党寄りのスタンスだから、社説も割り引いて読む必要がある。

   こんな中、新天地イエス教会は3月5日、感染発生地の大邱(テグ)市に100億円(約10億7000万円)を寄付すると発表した。しかし、同市は断固として受け取りを拒否した。同市のクォン・ヨンジン市長はこう説明した。

「大邱市地域の感染者4693人(5日現在)の7割は新天地イエス教会の信徒らだ。とても受け取れるおのではない」

(福田和郎)

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