2024年 4月 18日 (木)

経営者必読! 要注意は「後付認定リスク」 その時の「常識」で決まる「反社会的勢力」の定義

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   吉本興業の闇営業問題や、東京都内の大手信用金庫による半グレ(準暴力団)関連の融資問題が発覚した2019年は、新興の反社会的勢力が排除の動きをかいくぐって正業の組織内に侵入している様子をあぶりだした。

   かつての暴力団とは異なるアプローチで組織内に入り込む現代の反社勢力は「企業存続を揺るがす重大な経営リスク」。本書「反社会的勢力排除の『超』実践ガイドブック」は、そうした危機についての企業向け処方箋。吉本興業の例などを詳しく検証しながら反社リスクを解説する。

「フローチャートでわかる 反社会的勢力排除の「超」実践ガイドブック 改訂版 (ミドルクライシスマネジメント) 」(株式会社エス・ピー・ネットワーク総合研究部著)第一法規
  • 反社勢力「排除」を怠ると重大な経営リスクが……
    反社勢力「排除」を怠ると重大な経営リスクが……
  • 反社勢力「排除」を怠ると重大な経営リスクが……

かつては「必要悪」だった?

   「著者」の株式会社エス・ピー・ネットワークは、1996年に設立された「クライシス・リスクマネジメント専門企業」。企業のリスク要因の抽出、排除、予防やリスク顕在化の対応などのサービスを提供している。

   大学や地方自治体、行政機関での研修や、法律事務所、監査法人、損保会社などからの業務依頼も多いという。本書は6年前に刊行された、その改訂版。

   反社勢力排除の実務で各企業の担当者らが直面している課題の一つに「過去の判断・行為が今になって問題視されるリスク」(後付認定リスク)がある。

   現代に表面化した新型で、解決の手本となるべき過去の例がほとんどないだけに、扱いが難しいという。吉本興業の闇営業問題はこのタイプだ。「反社勢力だとは知らなかった」では済まされず、企業にとっては反社リスクの大きさを実感させられる出来事だった。

   「後付認定リスク」が、現代で「リスク」の一つになったのは、反社勢力と社会との関係性の変化による。これまで反社勢力の中核に位置した暴力団は歴史的に見ると「必要悪」として社会的に受容されていたものだが、時代が変わりそれは許されなくなった。

   「警察や弁護士らによる合法的な対応とは別次元のグレーな解決を求める者が一定数存在」し、そのニーズを満たすニッチ的な機能を有していたのが暴力団だ。

   また、その構成員である「やくざ」について「義理人情に篤い」「正義」といった日本人好みのイメージが、物語や映画などを介して人々に刷り込まれ、必要悪的なアウトローの集団として暴力団を肯定する素地が、以前にはあったとみられる。

しばらくすると「後付認定リスク」が弾ける

   本書によれば、暴力団を「必要悪」とみる風潮は今でも一部にあるという。社会経済の変化や取り締まりの強化などで構成員は変質し「社会全体を搾取の対象とするに至った」のが、今の姿。「社会悪」との認知が大勢になったが、「必要悪」の残像もまだある。

   よく知られているように、暴力団の代表的存在だった兵庫県の「山口組」は、六代目体制となってから3つに分裂して弱体化。かつて米財務省に「日本で最も凶暴な暴力団」と評された福岡県の「工藤会」は、福岡県の「頂上作戦」などにより、すっかりなりを潜めているという。全国の他の組織も、活動は鈍くなっている。

   「反社勢力をめぐる最近のキーワード」の代表的な一つは「半グレ」だ。暴力団排除のスキを抜けて、企業や社会組織のなかに入り込み活動を行っている。暴力団の構成員と比べれば、反社の様子も半分。アプローチの際は「一般人」然としている。反社会的な雰囲気があっても、「必要悪」の残像が効いて、「関係」が始まることになる。そして、しばらくしてから「後付認定リスク」が弾けることになるのだ。

   2019年6月、吉本興業などの芸人らが会社に無断で、反社勢力のイベントに出席し、報酬を得ていたことが発覚。いわゆる「闇営業」だったが、現在までも尾を引く大問題となったのは、参加したイベントが、反社勢力が催したものだったからだ。参加した芸人の中には、金銭的ニーズに迫られたケースもあったとされ、芸人特有のサービス精神も手伝って、リスクなどを考慮せず、その場に赴いた。

「特殊詐欺グループ」は反社会的勢力か?

   芸能人が反社会的勢力に利用されることは、暴力団が「反社」の代表的存在だった時代からあった。

「吉本問題は、あらためて芸能人が反社会的勢力に利用されるリスクが高いことと思い知らされたが、もちろん『氷山の一角』に過ぎない。個人事業主として活動するタレントのモラル任せの部分が多いほど、反社会的勢力とのつながりを遮断することは、もはや困難だといえる」

と、本書はいう。

   芸人のコンプライアンスの意識が欠けていたことは責められるべきことだが、そのことを招いた吉本興業側のコンプライアンス態勢の脆弱性を合わせて指摘する。

   芸人らに参加を求めたのは「特殊詐欺グループ」。果たして、特殊詐欺グループが反社勢力なのか――。このことについても本書では詳しく検討。その結果、暴力団との関係などから「『反社会的勢力』とみなすことについて大きな問題はないのではないかと考える」とする。だが、本質的なリスクは、こうした表面的なことから生じるのはない。

   吉本興業がなおコンプライアンスについて態勢の向上を目指し、関係した芸人がいまだ発覚前の状態に戻れないのは、もっと深刻な社会的事情による。

「何より、今回の件を通じて、特殊詐欺グループを反社会的勢力とみなすことに社会が『問題ない』と判断していることが大きい。(中略)反社会的勢力の定義はあいまいな部分も多いとはいえ、現時点での『常識』が判断基準であり、それは社会(時代)の変化とともに変わる(厳しくなる)ものと認識して取り組むことが重要だといえる」

   本書のように、反社会的勢力排除について網羅した類書はほかにはないというから、リスクとかかわる「現時点での『常識』」を知ることができる唯一の一冊だ。

「フローチャートでわかる 反社会的勢力排除の『超』実践ガイドブック 改訂版 (ミドルクライシスマネジメント) 」
株式会社エス・ピー・ネットワーク総合研究部著
第一法規
税別2800円

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