2024年 4月 24日 (水)

深刻化するコロナ禍 「緊急事態宣言」発令、企業はどこまで社会的責任を優先すべきなのか(大関暁夫)

   新型コロナウイルス危機の拡大は、中小企業にも深刻な問題を提起しています。

   最大かつ喫緊の課題は、資金繰り。大手企業は潤沢な内部留保や取引金融機関とのクレジットライン契約により、数か月間に資金ショートするということはあまりないのかもしれませんが、中小企業は話が別。このあたりは前回も触れていることですが、ここに来てさらに追い討ち的に国から緊急事態宣言が出されるに至り、強制ではないものの「要請」という言葉の下に、中小企業も休業や従業員の出勤見合わせを検討せざるを得ない状況に迫られています。

  • 「非常事態宣言」に、社長はどう判断する!?
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「緊急事態宣言」でも、結論は「自己判断」

   政府が「緊急事態宣言」を発令しても、なぜ強制ではないのかといえば、国家が休業、通勤停止を強制した場合、それに伴う損失発生に対して何らかの「補償」をする義務が生じるからです。

   国の考えが正しいか否かは別として、赤字財政が深刻化している我が国は補償金を大盤振る舞いできる状況にないのは確かなようです。

   では、「要請」とは何か。国として新型コロナウイルスの感染拡大を阻止する観点から、特定事業の営業休止、あるいは可能な限り最大限の従業員の在宅勤務をお願いするものの、結論はあくまで各事業者の「自己判断」に委ねられる、ということです。

   この場合、経営者の一般論的な判断基準ですが、原則論で申し上げれば、企業は社会的責任を帯びた存在であり、社会的責任を全うして、はじめて自己の利益を享受できるという義務と権利の関係が存在します。

   自社の社会的存在意義をうたった経営理念の下ではじめて、経営ビジョンや経営戦略が存在するように、です。すなわち現時点において、原則論的には国の「要請」に従えば、「自己の売り上げが減る」あるいは「企業活動を停止せざるを得ない」といった事由を優先するよりも、感染を拡大させないために「営業を停止する」「原則全従業員を在宅勤務に切り替える」といった行動が優先されるべき、ということになるのです。

精神論で飯は食えない!

   しかし世論的には、仮に「要請」であっても、これが経済活動の停滞につながることは必至であり、企業が受けるダメージは避けられず、「国は企業に対して損失補填するべき」「『要請』は『補償』とセットでなければ納得できないし協力できない」といった声が上がっているのも事実です。

   「補償」を伴わない「要請」が、中小・零細企業にとって死活問題であることは疑う余地はないでしょう。そうなってくると、企業はどこまで社会的責任を優先するべきなのか、という問題につきあたるわけなのです。

   機械部品製造C社のT社長は、

「自動車関連業界をメイン売り先としている当社は、売り上げ激減、新規プロジェクト棚上げで大変です。新規営業活動を継続して少しでも売り上げのかさ上げをしなければ、従業員への給与支払いもままなりません。
国の『要請』? うちは大企業と違って従業員を在宅で遊ばせるような余裕はない。何の補償もないまま休業なんてできません。従業員には細心の注意を払いつつ、従来どおりの勤務を指示する」

と話しています。

   「非常時に国の『要請』に優先して応えることは、企業の社会的責任とは思わないか?」との質問にも、

「社会的責任なんて精神論。精神論で飯は食えない。『補償』があるなら『要請』に応える。国がまずそこをしっかりやるべき」

と、一刀両断されてしまいました。

   社長は60代前半。この考え方に近い壮年中小企業経営者は意外に多いのかもしれません。もちろん事業を守る立場からは必ずしも間違っているとは思いませんが、実質的に経済活動が停止に向かうような有事発生時に、自己中心的にないものねだりをしているようにも思えます。

「補償はもらえたら儲けもの」という若手経営者

   好対照だったのは、2店舗の居酒屋を経営するY社のN社長。34歳。「緊急事態宣言に合わせて当面店は休業し、従業員は自宅待機させます」と、国の「要請」に従うとの姿勢を示しました。

   理由は、「緊急事態宣言で街が実質休眠状態に陥る以上、店を開けても意味がない。自粛ムードで居酒屋ニーズは激減するでしょうし、在宅勤務が増えれば、今以上に来店客が減ることも目に見えていますから」と。もちろん、在宅の社員に給与を払いながらの店休は経営的に厳しいとのこと。それでも、「要請」を受け入れたのには理由がありました。

「ほとんど仕事にならない時期に、社員を出勤させても時間のムダです。通勤時の感染リスクもあるし、感染減少をめざす国の方針に従うのは企業としての責任を果たすことにもなるだろうと。ならば自分も含めて社員みんな在宅で、来店客を相手の商売とは違うビジネスを考えるいい機会だと思いました。ふだんできませんから。オンラインで社員と話をしながら、皆で新たなビジネスの創出を試みようと。今の危機がいつ終わるかもわかりませんし、補償を待っていてもあてにならない。次なる新型コロナだって、いつ起きるかもしれません。長期的に見てここはチャンスだと、考え方を切り替えることにしました」

   彼は外食勤務のサラリーマン時代に貯めた資金を元手に4年前に店を立ち上げ、他店にないおもてなしと新たなメニューやサービスを次々打ち出して、遂には予約が取りにくい人気店に仕上げました。

   そして昨年には2号店をオープン。まさにやる気全開の前向きな姿勢と若手経営者らしい切り替えの早い経営マインドで、ここまで右肩上がりに業績を引っ張ってきたという印象どおりと思える今回の決断でした。

「おカネが足りなくなるなら、金融機関から借ります。特別融資枠もあるわけですから。この機会に練ったアイデアをビジネスモデルに加えて、平時に戻ったらたくさん稼いで返済すればいいわけでしょ。
国の『要請』に応える社会的責任? 正直あまり考えたことはないですが、自分がビジネスできているような平和な国であることへの感謝はあります。今回の国の『補償』はもちろん、もらえるならもらいますが、別にあてにもしていません。もらえたら儲けもの程度。そんなことより、自分で動いて稼いだほうが早いかもしれませんしね」

   有事発生のマイナス局面で、経営者が意外に忘れがちなのが前向きな姿勢です。こんな時には、壮年経営者が若手経営者に学ぶことのほうが意外に多いのかもしれません。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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