2024年 4月 19日 (金)

【SDGs大学長がゆく】障がい者による障がい者のための「生きた」事業を模索する

糖の吸収を抑える、腸の環境を整える富士フイルムのサプリ!

   JR東海の高山本線と太多線、長良川鉄道の越美南線の3路線が乗り入れる美濃太田駅。その駅前の美濃加茂シティホテルの一角にある「caf?花笑み」を活動拠点としてスタートした、障がい者による障がい者支援の団体「一般社団法人 つながる未来(あした)」がある。

   現在、この団体ではフェアトレードされたオーガニックなコーヒーの販売と障がい者の悩みごとを物語にした本の出版を準備中だ。

  • 「障がい者が障がい者の悩みを聞く」場が必要(写真は、一般社団法人「つながる未来(あした)」の藤吉義純理事長)
    「障がい者が障がい者の悩みを聞く」場が必要(写真は、一般社団法人「つながる未来(あした)」の藤吉義純理事長)
  • 「障がい者が障がい者の悩みを聞く」場が必要(写真は、一般社団法人「つながる未来(あした)」の藤吉義純理事長)

障がい者が障がい者の悩みを聞く

   「つながる未来(あした)」が立ち上がったきっかけは、caf?花笑みの店主でもあり、団体の理事長を務める藤吉義純さんと障害をもつお客さんとの会話から始まった。

   その内容は、障がい者のお客自身の悩みではなく、作業所で働いている同じ障がい者の方々の、実情と彼らの未来についての憂いだった。

   健常者と障がい者との見えない壁を取り除き、障がい者のつぶやきを知ることが大切であると、感じていた藤吉さんが、常連客や知人に声をかけ障がい者と健常者をつなぐ場として、月に一度「つながるカフェ」と題して両者が対話のできる会合を設けることになった。

美濃太田駅前にある「café花笑み」が活動拠点
美濃太田駅前にある「café花笑み」が活動拠点

   その場は、障がい者の悩みと不満が溢れ出し、ふだん健常者が腫れモノを触るように聞きたくても聞くことができなかったことを聞けた会であったという。

   これをきっかけに、もっと障がい者のことを知らせることが大切と、美濃太田駅で作業所に通う障がい者の方々に、取材を始めた人物がいた。その人は10数年ほど前に病を患い、左半身に麻痺が残りながらも、団体の社員であり、今もA型作業所(一般の就労が難しい障がい者が、一定の支援を受けながら働くことのできる事業所)で働いている坂本義一さんだ。自身が障がい者でもあることから、本音に近い悩みや不満を聞き出すことができた。

   電話取材を加えて100人ほどの話を聞き、過去に出版社の編集制作に携わっていた経験を活かしてレポートをまとめた。その内容の多くは、障がい者の日常生活における問題であり、健常者がほんの少し意識を変えるだけで解決できるものだった。

   たとえば、聴覚障がい者が、病院で医者の話を聞こうとしても、マスクで唇が読めない。色弱の方からは、近年祭日が固定されていないので、赤色で表示されていても休日かどうかわからないなど、健常者がそんな方々の不便さを知っていれば、簡単に問題を解決することができるようなことばかり。見方を変えれば、ビジネスのヒントとして、貴重なレポートになると感じた。同時に、障がい者の不平不満、悩みがビジネスになるのなら、ハンディキャップは「資源」ではないかという意識が芽生えたのは、坂本氏の取材の効果といえる。

SDGsのゴール「8.5」に合致

坂本義一さんは障がい者への取材を続ける
坂本義一さんは障がい者への取材を続ける

   A型作業所からの報酬は、「最低賃金×一日の労働時間(4~5時間)×日数」で、おおよそ月額にして8万円ほど。障がい者年金は、その程度によりさまざまではあるが、それ自体では生活はままならないず、働かなければ生活を維持することができない。

   しかし、障がい者のもつスキルに合った業務は少なく、どちらかと言えば単純作業が多い。さらに企業は障害の有無に関係なく生産効率を求めるので、身体的な疲労の他にメンタル面での負担もあり、いつまで仕事を続けていけるのか、将来に不安を感じている障がい者は少なくない。

   1万人に1人という難病をもつ吉田拓人さんも、そんな不安を抱えていた。同じ作業所で働いていた坂本さんの取材レポートを読んだ吉田さんは、以前から、ひとまとめに障がい者といってもさまざまな障がいがあることを知らない人が多すぎると思っていたため、障がい者の「あるある」として、多くの人に知ってもらえないかと本の出版を思いついた。

難病を抱える吉田拓人さんは、「障がい者を、ひとまとめにしないで」と言う
難病を抱える吉田拓人さんは、「障がい者を、ひとまとめにしないで」と言う
 

   同時に、SDGs(持続可能な開発目標)にも関心を持ち、自分たちの置かれている状況より、世界ではもっと過酷な生活をしている人たちのことを知った。もしも障がい者が支えられる側から支える側になることができるとしたら、生きがいを持って仕事ができるのではないか――。そう思ったという。

   急に未来が開いたような感覚のなか、A型作業所を退社し、団体の社員として坂本氏と「自分たちにできること」を模索し始めた。

   「障がい者による障がい者の支援とは何か」を吉田さんに聞いたところ、

「SDGsのゴール(目標)8.5には、『2030年までに若者や障害者を含むすべての男性及び女性の、完全かつ生産的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事、ならびに同一労働同一賃金を達成する』とあります。
まずは、障がい者が働きがいのある人間らしい仕事とは何か? 障がい者が持つ資源は何か? を考えた場合に、坂本さんの取材レポートを元にした障がい者の『あるある本』を出版することにより、国内の障がい者の方々とその家族に悩みや困りごとを共有してもらい、新たな情報をいただきながら、障がい者ネットワークの構築を目指していきたい。
さらに、その後には障がい者による町づくりのための政策提言ができるような働きかけもしたい」

と、目を輝かせながら話してくれた。

データが示す「誰もが障がい者になる可能性がある」

「誰もが障がい者になる可能性がある」(写真は、坂本義一さん・左と吉田拓人さん)
「誰もが障がい者になる可能性がある」(写真は、坂本義一さん・左と吉田拓人さん)

   「つながる未来(あした)」では、「ハンディキャップは資源」という理念のもと、

(1)「障がいはマイナス」というイメージからの脱却
(2)障がい者視点からのモノの考え方と困りごとがビジネスチャンス
(3)障がい者同士の「あるある」で価値の共有
(4)1万人に1人しかいない障がい、難病も、全国には1万2000人の仲間がいる

と、前向きなコンセプトを掲げ、2019年11月から活動している。

   現在、「つながる未来(あした)」では、吉田さんと坂本さんを中心にオーガニックなフェアトレードコーヒーを個人向けに販売しているが、彼らたちの活動に賛同した地元企業などからの注文も増え始め、徐々にではあるが売り上げアップが見込まれている。

   また。坂本さんの取材レポートを元にした本の作成も、地元のイラストレーターの協力を得て、ストーリー仕立ての作品「ぽんじい」と、その内容を裏付ける「命のつぶやき」の2冊セットの発売を予定している。

   ちなみに、内閣府の統計によると18歳以上の障がい者のうち、90%以上が後天的な障がい者(事故や病気によるもの)であり、

「誰もが障がい者になる可能性があり得る」

と、藤吉理事長は語る。

   もし、そのような時に、自分が持つスキルが役に立つのかどうか、二人の話を聞いて深く考えさせられた。(清水一守)

◆ 一般社団法人 つながる未来(あした)
〈所在地〉〒505-0041 岐阜県美濃加茂市太田町2565-1 シティホテル美濃加茂1F
〈代表者〉藤吉義純理事長
〈設立〉2019年11月7日
〈電話〉0574-48-8454
〈FAX〉0574-48-8452
〈主な事業内容)オーガニックコーヒーの製造補助・販売。
        出版事業
つながるカフェの運営(各種斡旋・法律相談など)
https://tsunagaruashita.com/

清水一守(しみず・かずもり)
清水一守(しみず・かずもり)
一般社団法人SDGs大学 代表理事/公益財団法人日本ユネスコ協会連盟・ユネスコクラブ日本ライン 事務局長/英国CMIサスティナビリティ(CSR)プラクティショナー資格/相続診断士
日本大学文理学部を卒業。大学では体育を専攻。卒業後、家業である食品販売店を継ぐも新聞販売店に経営転換。地域のまちづくりとして中山道赤坂宿のブランド化を推進した。その後CSR(企業の社会的責任)の重要性を学び、2018年7月から名城大学で「東海SDGsプラットフォーム」として月2回の勉強会を開催中。SDGsを広めるための学びの場として2019年9月に一般社団法人SDGs大学を開校。現在、SDGs認定資格講座やSDGsイベントなどを開催中。
岐阜県出身、1960年生まれ。
一般社団法人SDGs大学
SDGsを広めるために、誰もが伝道師となるような認定資格講座を3段階で設定。SDGsを学ぶきっかけの資格としてSDGsカタリストから始まり、その上位資格としてのアドバイザー資格、さらにカタリストを育成するカタリストトレーナー資格を設け、2015年9月の国連サミットで採択されたSDGsを他人事ではなく、『ジブンゴト』としてとらえ、実践していけるようにSDGsの研究・周知・教育を行っています。校訓として学び・実践・達成・及人を掲げ、物心両面の幸せを追求し、真の『自分ごと』を探求できる学びの『場』として、誰もが参加ができるインラインによる「SDGs大学プラットフォーム」、「SDGsキャンプ」などのセミナー、イベントを提供しています。
姉妹サイト

注目情報

PR
コラムざんまい
追悼
J-CASTニュースをフォローして
最新情報をチェック
電子書籍 フジ三太郎とサトウサンペイ 好評発売中