【襲来!新型コロナウイルス】「低賃金で働いてもらうより、失業給付のほうがいい」って、これでホントに手当がもらえるの?

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   新型コロナウイルスの感染拡大で、休業や倒産・廃業を余儀なくされる会社が出てきている。東京都内でタクシー事業を展開するロイヤルリムジンは、グループ会社を含む全従業員約600人を解雇した。コロナ禍で業績が悪化し、休業に入っている。

   タクシー運転手は、売り上げによって給料が変わる、歩合制が一般的。新型コロナ拡大で外出自粛が続いており、利用客が激減。足元の売り上げは落ち込んでいる。同社は需要が戻ってくれば、解雇した従業員を再雇用する意向を示しているものの、一方で「感染のリスクを抱えながら低賃金で営業を続けてもらうより、解雇後に失業給付を受けたほうがいいと判断した」と、解雇について説明している。

参考記事:NHKニュース(2020年4月8日付)

   これを理由に、失業給付の適用は認められるのだろうか――。闘う弁護士、グラディアトル法律事務所の森脇慎也弁護士に聞いた。

  • コロナ禍の影響で、タクシー会社が600人もの従業員を解雇した(写真はイメージ)
    コロナ禍の影響で、タクシー会社が600人もの従業員を解雇した(写真はイメージ)
  • コロナ禍の影響で、タクシー会社が600人もの従業員を解雇した(写真はイメージ)

失業給付をもらうには「求職活動」が大前提!

闘う弁護士先生

   会社が従業員の再雇用を約束し、解雇したような場合には、いわゆる「失業等給付の不正受給」と判断され,受給できないと判断される可能性が高いのではないかと考えます。

   失業等給付を受ける場合、給付を受ける者は就職への努力(雇用保険法10条の2)をしなければなりませんが、再雇用が約束されている人がそのような努力をするとは考えられません。

   また、不正受給の典型例として、「実際には行っていない求職活動を、『失業認定申告書』に実績として記すなど、偽りの申告を行った場合」とあり、実際に就職するつもりのない求職活動も、この「実際には行っていない求職活動」に当たると考えられるからです。

   しかし、再雇用を約束しているとまではいえないような場合には、解雇された従業員は、失業等給付を受け取ることができると考えます。

   ただし、その場合にも、真剣に求職活動をすることは当然の前提となるでしょう。

「解雇」に不満 しかし、会社に刑事罰はない

   また、失業給付が認められた場合は、会社都合による退職になるので、すぐに給付が始まりますが、このような対処は企業側に法的な問題ないのでしょうか――。

   企業が従業員と再雇用を約束し,失業等給付を従業員に受け取らせる目的で解雇して従業員が実際に受け取った場合、企業の代表者は詐欺罪(刑法第246条)の共同正犯や教唆により処罰される可能性があると考えます。

   しかし、再雇用を約束したとまではいえないような場合、詐欺罪によって処罰することは難しいでしょう。では、このような場合は違法にはならないのでしょうか。

   企業が、余った人員の整理を目的として従業員を解雇することを整理解雇といいます。整理解雇には、次のような厳しい要件が課されています。(1)人員削減の必要性(2)解雇回避努力を尽くしたこと(3)解雇される者の選定方法の合理性(4)手続きの相当性――といった、整理解雇の4要件です。企業として従業員のことを真剣に考え、最大限の努力を尽くして初めて整理解雇は行うことができます。

   すなわち、これらをなにもせず、いきなり解雇したような場合には違法となるのです。

   ただ、仮に整理解雇をしたとしても、企業に刑事罰が科されるわけではありません。上の要素を満たされずに従業員を解雇した場合、従業員がその違法を訴えて解雇の無効などを争うことはできますが、罰則の規定があるわけではないからです。

   そのため、今回のようなケースでいきなり整理解雇を行ったとしても、法的には問題がないとはいえませんが、罰則があるわけではないということになります。

雇用調整助成金の特例措置はなんのため?

   さらに、もし法的にも問題がなく、解雇が認められるのであれば、このタクシー会社をマネて、解雇に踏み切る会社が今後増える可能性がある。心配はないのだろうか――。

   労働基準法第26条では、会社都合の休業には賃金の6割以上の手当てを労働者に支払う必要がありますが、企業にとっても不可抗力の事態で休業がやむを得ないと考えた場合、休業手当の支払い義務はなくなります。

   現時点では、厚生労働省として今回の「緊急事態宣言」が「不可抗力の事態」であるというようなことを定義してはいませんが、今回の「緊急事態宣言」における状況についても、「不可抗力」に該当すると考えることもできます。

   このように考えるのであれば、たしかに1円も受け取れない休業補償よりは、失業給付のほうがいいという考え方も成り立ちます。しかし、従業員に休業を命じて1円も支払わないという判断が、経営者の判断として経営上、倫理上正しいものかという点は議論の余地があると考えます。

   現在、厚労省は雇用調整助成金の特例措置を行っています。新型コロナウイルスによって事業の休止や縮小などを余儀なくされた事業主が、従業員の雇用を維持させるために休業手当を支払った場合、その費用を助成するという制度です。

   条件は複数ありますが、この制度を使えば、中小企業であれば休業手当の負担額の9割、大企業でも7割5分の助成を得ることができます。また、緊急経済対策で業績が悪化している中小企業などの支援策として、無利子の融資の枠が拡大されたほか、返済の必要のない最大200万円給付金が支給されます。

   もちろん、タクシー会社の経営者の方は、苦渋の決断として今回の判断をされたのだとは思いますが、こういった制度をしっかり使って、最大限の経営努力を行ったうえでの判断だったのでしょうか。

   いずれ再雇用を考えるというのであれば、労働者の心情に関しても最大限注意を払うべきであると考えます。

   経営者、労働者の経済的側面は大変重要ですが、新型コロナウイルスの影響が収まったあとに、労働者とより良い関係を維持するという側面からも、慎重に考えるべきではなかったかと思います。(森脇慎也)

参考リンク ハローワーク・インターネットサービス


◆ 今週の当番弁護士 プロフィール

森脇 慎也(もりわき・しんや)
弁護士法人グラディアトル法律事務所所属。
同志社大学法学部卒業後、大阪大学法科大学院修了。得意分野は「インターネット問題」「離婚・男女問題」「労働問題」「不動産・建築」「詐欺被害・消費者被害」など。趣味は旅行、人と話すこと。特技はゲートボール。


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グラディアトル法律事務所
平均年齢30代前半の若手弁護士の精鋭集団。最新の法律知識やツールを駆使し、それぞれの得意分野を生かしながら、チーム一丸となって問題解決に取り組む。取扱分野は多岐にわたり、特殊な分野を除き、ほぼあらゆる法律問題をカバーしている。
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