2024年 4月 19日 (金)

出でよ! ユニークなオンリーワン自治体 不足する「ヒト・モノ・カネ」解決のヒントは人と情報の行き来を増やすこと 新たな「生涯活躍のまち」中野孝浩参事官に聞く(後編)

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   内閣官房まち・ひと・しごと創生本部が推進する、新たな「生涯活躍のまち」には、参加を表明している366の地方公共団体がある一方で、減ってきたとはいえ、まだ157もの団体が「推進する意向はない」と答えている(2020年2月1日時点)。

   その理由は、「ヒト・モノ・カネ」の不足。なかでも、財源不足の悩みは深刻だ。しかし、 内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局の中野孝浩参事官は、「補助金を活用する方法もありますが、それに頼らない方法を実践している地方公共団体もあります」と話し、そういったモデルケースを「『生涯活躍のまち』でつくっていきたい」と言う。その取り組みを聞いた。

  • 「日本全国から多くのモデルケースをつくっていきたい」と語る、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局の中野孝浩参事官
    「日本全国から多くのモデルケースをつくっていきたい」と語る、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局の中野孝浩参事官
  • 「日本全国から多くのモデルケースをつくっていきたい」と語る、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局の中野孝浩参事官

地方の財政負担をどう考えればいいのか!?

   ――財政負担を理由に、「生涯活躍のまち」の推進に二の足を踏んでいる地方公共団体が少なくないようです。

中野孝浩参事官「たとえば、東京でビジネスになっても、地方では成り立たないことは少なくありません。そうなると補助金頼みになりがちですが、それでは健全な姿とは言えません。補助金はいつか終わってしまうので、特に運営経費については、安定的なビジネスモデルを継続的に、コミュニティに根付かせることが重要な課題になっていると思っています。
肝心なのは、各市町村が直接事業を進めるのではなく、中核となるNPO法人や一般社団法人、社会福祉法人、医療法人、もちろん地元企業でもかまいません。中核的なコミュニティの担い手となるような法人が、あまり儲からないけど重要な事業であるとの認識を持って、できるところは何があるのか、といったことを考えていただきたいと思っています。そんなモデルケースを多く示していけるような取り組みにしていきたいですね」

   ――地方創生の事業は補助金が活用できると聞いています。そのことは地方公共団体の方々はご存じなのですよね。

中野参事官「『お金がないのでできない』と言う団体には、地方創生推進交付金をはじめとしたさまざまな補助制度を、地域のニーズや使い道に合わせてご活用いただきたいと思っています。石川県輪島市の空き家活用などの先進的な事例では、役所や地域の中核的な法人が連携して、国土交通省や厚生労働省などの多様な補助事業や福祉の制度などもうまく組み合わせて活用しています。
たしかに、使える補助金制度があまり知られていないことがあるようなので、その辺りは活用方法を含め周知していきたいと思います。ただ地方公共団体も、補助金ではないカタチで収入を得られるようにしていくため方法を模索していて、いくつかモデルケースが出てきています」

   ――そのモデルケースを、教えてください。

中野参事官「鳥取県南部町が、その一つです。ここでも空き家問題がありました。ただ、放置してしまうと家が傷んで、特定空き家になりかねません。空き家を相続した方も、地域の役に立つのであれば、無償でもいいから、よい形で活用してほしいという意向をお持ちです。そこで町と、建築士の資格を持つ方が理事長を務め、空き家の活用に力を入れているNPO法人・南部里山デザイン機構が協力。NPO法人が空き家を安価で借り上げて、移住者の住まいとしてリーズナブルな家賃で貸し出し。その家賃で、家の改修費用や必要な活動費に充てるという、おもしろいビジネスモデルを構築しました。
千葉県旭市の事例ではスーパーマーケットと多世代交流拠点を組み合わせる興味深い官民連携プロジェクトを進めていますが、一般的に、人が集まれば住まいのニーズも高まりますから、住宅メーカーに投資していただくとか、地方銀行や信用金庫がアイデアを出して資金調達を指南することで、金融と事業者が一緒になって官民連携を進めるなど、いろいろな発展が期待できます。 補助金による応援は一時的な支援ですので、やはり民間資金をベースに、安定的かつ継続的に事業が継続できるビジネスモデルをたくさんつくっていくことが必要だと考えています」

官民の「Win-Winの関係」は可能なのか

鳥取県南部町の「お試し住宅兼交流スペース(「内閣官房まち・ひと・しごと創生本部」資料より)
鳥取県南部町の「お試し住宅兼交流スペース(「内閣官房まち・ひと・しごと創生本部」資料より)

   ――第2期の「生涯活躍のまち」で目指している官民連携のプラットフォームづくりは、どのようなイメージなのでしょう。

中野孝浩参事官「プラットフォームというのは連携の『場』です。たとえば、ある「生涯活躍のまち」の事例では、多くの空き家があるという課題、地元特産のかぼちゃ農家や地場産業の伝統工芸の職人が後継者不足に悩んでいるという課題。これらの解決のために、課題をプラットフォームに載せることで、ある企業がその課題を知り、支援していくという流れができます。そういった『つなぎ』、触媒役がプラットフォームの役割です。
ここで重要なことは、一律の課題ではなく、地域ごとに違った課題を企業や個人に見えるようにすることです。地元団体の情報と民間の付加価値のある情報を掛け合わせて、初めて生きた情報になる。その情報を、あらゆる方々にいろいろなカタチで発信してもらうことが重要で、プラットフォームがそのきっかけになります」

   ――一般に、地方は排他的といわれたり、また地方創生事業では利害関係がぶつかったりすることがあると思うのですが、調整役となる地方公共団体は大変ではないでしょうか。

中野参事官「どの企業も慈善事業ではなく、商売として成立させなければなりません。最近は株主への説明も強く求められているなか、少なくとも事業継続が可能な水準のメリットが求められるので、社会貢献だ、地域貢献だと、そう簡単には割り切ることはできません。ここが官民連携のジレンマで、企業は本業との折り合いをつけながら、地域とのWin-Winの関係につくることを模索します。どこでも直面する大きな課題で、なかなか難しい問題ですが、こうした地域貢献活動による企業の信頼向上や宣伝効果、地方マーケットの開拓、社員のモチベーション向上など、幅広い企業サイドのメリットも期待できるではないでしょうか。
官民連携、企業の協力は生涯活躍のまちづくりにとって非常に重要です。『生涯活躍のまち』では、まずは人と情報を、都市部と地方が共有することを目指しています。目指しているプラットフォームに地域の情報を載せると、いろいろな人がいろいろなカタチで関わって問題解決を図ることができる半面、利害関係がぶつかると、それをコントロールする人が必要になります。そこは地方公共団体と中核的な法人がコーディネーター役を担って、舞台をうまく回していくしかありません。つまり、重要なのは『人材』です。
じつは第2期総合戦略にも位置付けていますが、そんなコーディネーターやプロデューサー人材を養成する研修事業に取り組みます。都市部のみならず、地方にも優秀な人材がそろっています。そういった方々に、やる気を出してもらうきっかけをつくりたいと考えています。
意外かもしれませんが、20代、30代の若い世代で、『思い切って地方で挑戦したい』という人は多くいます。人材は都市部からの『関係人口』が増えていけば、いろいろな企業に勤める優秀な人材が流入してきて、それをきっかけに地方との交流は活発化し、将来的には人材不足を補えるようになるかもしれません。地域の課題解決に高い関心を持つ若い方が『生涯活躍のまち』の中間支援組織やプラットフォームなどの場を通じて課題解決を働きかけ、それがさらに広がっていくと人の流れがますます活発になります。コミュニティへの人の流れをつくることが、課題の一つです」

   ――現在、新型コロナウイルスの感染拡大で、都市部と地方の行き来が思うようにできません。

中野参事官「確かに、新型コロナの影響で人の移動や交流に支障が出ています。しかし、一方では最近注目されてきたオンラインによるコミュニケーションツールの活用が急速に広がっています。こうしたICT(情報通信技術)なども活用しながら、『離れていても可能な交流』を前に進めていきたいと思います」
オンライン・コミュニケーションで「離れていても可能な交流」を前に進めていく(写真は、中野孝浩参事官)
オンライン・コミュニケーションで「離れていても可能な交流」を前に進めていく(写真は、中野孝浩参事官)
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