2024年 3月 29日 (金)

【SDGs大学長がゆく】売り上げの90%を「捨てた」栄新薬の挑戦 そこにはSDGsでできる食材のイノベ―ションがあった

   今年(2020年)で60周年を迎えた、名古屋市に本店がある栄新薬株式会社。10年ほど前までは一般用医薬品液剤の製造・販売を主としていたが、現在は健康食品の製造・販売が大部分の売り上げを占め、業務内容が大きく変わっている。

   これは2009年にあった医薬品の製造・販売に関する法改正による「二重行政のはざま」に直面した工場の移転問題に起因している。栄新薬の三代目、森下洋社長に聞いた。

  • 食材をパウダー化するために開発された「気流粉砕機」
    食材をパウダー化するために開発された「気流粉砕機」
  • 食材をパウダー化するために開発された「気流粉砕機」

「真の健康寿命とは何か」を突き詰め、医薬品から健康食品へ転換

三代目の決断!(写真は、森下洋社長)
三代目の決断!(写真は、森下洋社長)

   医薬品会社として製造を継続する場合、製造面積を大きくする必要があり、そのためには工場を移転するしかなかった。しかし、新設する工場の多額の費用が今後の企業運営に大きな負担になりかねない。そんな懸念から、森下洋社長は医薬品会社から健康食品会社に、大きく舵を切った。

   決断を下した三代目の森下社長は、コロナ禍のいま、当時を振り返って、

「薬屋が薬を作らないわけですから、気が狂ったとしか周りは思わなかったでしょうね。薬を作らないと決断してから、1年ごとに30%の売り上げを計画的に減らし、3年かけて95%の売り上げをなくしました。むろんリストラもしなければなりませんので、従業員一人ひとりに説明をし、会社継続のために身を引いていただいた方も大勢います。リストラしたから安心ということはありません。なんといっても売り上げ5%ですからね。みんな必死でした。医薬品会社ができることは何か、自社の持っている資源を武器に考えに考えぬいて、ようやく以前の売り上げに戻しました。ですから、新型コロナウィルスでどんな影響が出ようとも、不安な顔をする社員は誰一人いませんね。本当に強いですよ」

と語る。

   売り上げ5%からのリスタート。栄新薬はいったい何を資源として、どこを目指したのだろうか――。

「私たちが作っていた医薬品は病気の原因を取り除くのではなく、病気によって起きている症状を和らげたり、なくしたりする対症療法であり、それには副作用を伴うこともあります。日本人の寿命は年々伸びています。元気でいられる健康寿命という言葉も最近はよく耳にするようになってきましたが、健康を維持するために医薬品に頼っている方々も少なくないはずです。ましてや平均寿命と健康寿命の差は男性で約9歳、女性で約12歳(2016年)もありますから、その間は医薬品による延命とも考えられます。 そこで『真の健康寿命とは何か』と考えたとき、医薬品とは違う道があるのではないかと考えました。ただ、単にサプリメントをつくるのではなく、栄養をどうやって補うのかを開発したわけです。医薬品として栄養液剤を主に製造していましたから、液剤技術や味付けには自信があり、そのおかげで玄米をゲル化して、嚥下がしやすく高齢者でも安心して口から栄養を摂りやすい商品の開発の基礎ができました。現在ODM(Original Design Manufacturingの略語で、委託者のブランドで製品を設計・生産すること)として130社との取引をするまでになり、10年前の売り上げを超える、はっきりとした事業の形がすぐそこに見えるまでになりました」

   森下社長は、そう続けた。

清水一守(しみず・かずもり)
清水一守(しみず・かずもり)
一般社団法人SDGs大学 代表理事/公益財団法人日本ユネスコ協会連盟・ユネスコクラブ日本ライン 事務局長/英国CMIサスティナビリティ(CSR)プラクティショナー資格/相続診断士
日本大学文理学部を卒業。大学では体育を専攻。卒業後、家業である食品販売店を継ぐも新聞販売店に経営転換。地域のまちづくりとして中山道赤坂宿のブランド化を推進した。その後CSR(企業の社会的責任)の重要性を学び、2018年7月から名城大学で「東海SDGsプラットフォーム」として月2回の勉強会を開催中。SDGsを広めるための学びの場として2019年9月に一般社団法人SDGs大学を開校。現在、SDGs認定資格講座やSDGsイベントなどを開催中。
岐阜県出身、1960年生まれ。
一般社団法人SDGs大学
SDGsを広めるために、誰もが伝道師となるような認定資格講座を3段階で設定。SDGsを学ぶきっかけの資格としてSDGsカタリストから始まり、その上位資格としてのアドバイザー資格、さらにカタリストを育成するカタリストトレーナー資格を設け、2015年9月の国連サミットで採択されたSDGsを他人事ではなく、『ジブンゴト』としてとらえ、実践していけるようにSDGsの研究・周知・教育を行っています。校訓として学び・実践・達成・及人を掲げ、物心両面の幸せを追求し、真の『自分ごと』を探求できる学びの『場』として、誰もが参加ができるインラインによる「SDGs大学プラットフォーム」、「SDGsキャンプ」などのセミナー、イベントを提供しています。
姉妹サイト

注目情報

PR
コラムざんまい
追悼
J-CASTニュースをフォローして
最新情報をチェック
電子書籍 フジ三太郎とサトウサンペイ 好評発売中