2024年 4月 26日 (金)

元三井住友銀行頭取、故西川氏は半沢直樹か? 周囲に媚びない、筋を通す姿勢(大関暁夫)

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   ドラマ「半沢直樹」(TBS系)が、高視聴率を記録する大人気のまま第2シリーズの放映を終えました。以前にも書きましたが、「半沢直樹」は主人公であるメガバンク行員である半沢直樹が繰り広げる勧善懲悪ドラマで、7年前の第1シリーズは、主に銀行内部の悪を次々退治するといった趣向の勧善懲悪モノでした。

   今シリーズでは、さらにスケールアップして民間の悪者退治に飽き足らず、とうとう政界のドンにまでその刃を突きつけるという展開に。実際にはあり得ない話とはわかりつつも、名もなき一庶民が正義感に燃え巨悪を倒すという痛快さが人気の秘密だったのかもしれないと思わされた次第です。

  • 西川善文氏は半沢直樹のようだった(写真は、三井住友銀行)
    西川善文氏は半沢直樹のようだった(写真は、三井住友銀行)
  • 西川善文氏は半沢直樹のようだった(写真は、三井住友銀行)

半沢直樹がラストバンカー「西川氏」にダブった

   そんな人気ドラマが終盤に差しかかった折も折、旧住友銀行の頭取を務め、さくら銀行との合併によりメガバンク「三井住友銀行」をつくった立役者でもある西川善文氏が亡くなられました。

   西川氏は、緻密でありながら大胆さを兼ね備えた熱血・剛腕ぶりから、銀行界で「ザ・ラストバンカー」の異名をとり、古き良き時代のバンカーの名にふさわしい人物と評された方でした。

   たとえ相手が誰であろうとも、自らの意思を自らの言葉でしっかりと主張し決して行動を曲げない半沢直樹のモデルは、もしや「ザ・ラストバンカー」西川善文氏ではなかったか、と訃報を耳にした折に直感的に思ったものです。

   安宅産業の破たん処理、吸収合併した平和相互銀行や大手商社イトマンの不良債権を剛腕で処理した、債権管理のプロとしての実績の数々。イトマン事件では優柔不断な上司、巽外夫頭取をきつい口調で叱責しつつ、会長職を辞しながら、なお院政を目論む磯田一郎「天皇」に退任の鈴をつけたのも西川氏であった、というのは本人の口からも語られていた有名な話です。

   このような頑として筋道通しをまっとうする強さを見せる半面、破たんしたダイエーの債権処理では、法人の連帯保証人であった創業者、中内功氏の個人資産処分をめぐって、中内氏の生活用マンションを処分対象から外すなど温情をみせる一面もあり、冷血一辺倒ではない人情味を感じさせるあたりもまた「ザ・ラストバンカー」と呼ばれる所以であったのでしょう。

予定調和を「よし」とせず

   私は1990年代後半の全国銀行協会への出向時代に、インターバンクの重鎮が集まって銀行界の諸問題について全銀協方針を決定する一般員会に陪席していましたが、当時住友銀行の専務であった西川氏が同行の代表として出席しており、氏の物言いに直接接する機会がありました。

   インターバンクのこの手の会議では、予定調和的な流れも多く、活発に意見を戦わせるという場面は少ないのですが、西川氏に関しては少しでも納得がいかない議題については漏らさず自身の意見をぶつけるという、他の委員とはまったく異なる決して周囲に媚びることのない、筋の通った姿勢が印象に残っています。

   それは迎合や忖度に流されがちな銀行員ではなく、バンカーという言葉がしっくりくる姿であったと、今さらながらに思うところです。

   こうして改めて西川氏の銀行時代を振り返ってみると、まさしくリアル半沢直樹ではないかと思えてくるわけなのです。半沢直樹の取引先債権管理に奔走し次々と案件を強力なリーダーシップと交渉力、時にはあらゆる人脈を駆使してウルトラCをいとも簡単に現実のものとしてしまう行動力。時には組織のトップに退任さえも迫る無頼漢かと思わせるような一面もありながら、取引先や仲間の幸せを第一に思う人情味あふれる面も併せ持っている。ドラマのシーンがまんま、西川氏のバンカー人生の中に存在していたと言っても過言ではありません。

   そしてさらに、氏のビジネスマンとしての晩年には政治圧力との闘いも...。

   西川氏は2005年、三井住友銀行の赤字転落の責任をとって退任。しかし、わずか半年のブランクで、民営化して新たな船出を迎えていた日本郵政の初代社長のイスに座るという、当時の常識では考えられないセカンドライフに転じます。

   全銀協会長職を務め民間銀行のトップ・オブ・トップのポジションにいた西川氏が、銀行時代に「民業圧迫」と非難をはばからなかった宿敵、郵便貯金を扱う日本郵政のトップに転じたわけですから、一銀行員から見ればおよそ考えられないというのが私の率直な感想でした。しかしそんな大胆さもまた、「ザ・ラストバンカー」であればこその決断であったと、氏の自伝からは知ることができます、

政治家の悪事を暴いた半沢直樹、西川氏の仇討ちのよう

ドラマ「半沢直樹」(TBS系)は大ヒットした(画像はTBS「半沢直樹」のホームページより)
ドラマ「半沢直樹」(TBS系)は大ヒットした(画像はTBS「半沢直樹」のホームページより)

   ところが、日本郵政トップとして西川氏が見せたのは、行政の影に揺さぶられる巨大組織の力学と既得権争いで左右に振れる政治に翻弄され、「ザ・ラストバンカー」の輝きを失いもがき苦しむ姿ばかりでした。

   日本郵政は小泉純一郎首相主導で完全民営化の道筋が決まり、その輝ける初代トップとして座ったはずの西川氏でしたが、その後の与党内での方針変更に加え、当時勢力を増していた野党からの横やりを受けた挙句、民主党政権への政権交代によって最終的には郵政民営化の見直しが閣議決定されるという想定外の事態に至ります。

   結局、西川氏は志半ばどころかやりたいことはほとんどできぬままに辞任を余儀なくされるという、氏の過去を知る者としてあまりに悲しい姿のまま一線を退くことになります。

   本人の心中は、忸怩たるものにあふれていたことでしょう。西川氏の訃報直後、ドラマ終盤で半沢直樹が金融界に圧力をかける政治家の悪事を暴き失脚させた姿は、西川氏の弔い合戦に勝利した仇討ちのようでもあり、氏の何よりの供養になるのかもしれない、私はそんな気持ちでドラマを見終えました。

   「半沢直樹」ファンのみなさまには、リアル半沢直樹が感じられる西川氏の自伝「ザ・ラストバンカー ~西川善文回顧録」を読まれることをオススメします。現実に生きたバンカー半沢直樹の姿がそこにあります。

   西川善文氏のご冥福を心よりお祈り申し上げます。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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