生体認証を組み込んだ法人向けクラウド認証サービスを開発、提供している株式会社インターナショナルシステムリサーチ(ISR、東京都中野区)は、コロナ禍で広まったテレワークでインターネット・セキュリティへの懸念が高まっていることに対応し、パスワードを使わない、「パスワードレス認証」の拡大に取り組むと、2020年11月17日に発表した。
日本では、パスワードの脆弱性が取りざたされてる。生体認証との組み合わせた認証サービスを提供することで、ユーザーが抱えるパスワードに対するストレスを解消する。
企業のクラウドサービスの利用増に柔軟対応
ISRの法人向けクラウド認証サービス「CloudGate UNO(クラウドゲートウノ)」は、従業員のクラウドサービス利用に際して、企業がIPアドレスの制限や時間別・国別のアクセス制限などのセキュリティポリシーに合わせて、柔軟にアクセスコントロールできる。
シングルサインオン(SSO。一つのIDと認証要素を入力して、複数のWebサービスやアプリケーションにログインする仕組み)を同時に実現でき、近年では企業でクラウドサービスの利用が多くなるにつれ、CloudGate UNOの導入も増え、約1600社、約80万人のユーザーを有する。
CloudGate UNOは、生体認証技術FIDO2(ファイド、Fast Identity Online)に対応しており、パソコンのほかスマートフォン、タブレット端末でも使えるなど汎用性が高い仕様。上位の認証プランでは、指紋認証(Touch ID)や顔認証(Face ID)を利用したパスワードレス認証を提供している。認証の組み合わせも可能という。
指紋や顔による認証をめぐっては、米アップルのiOSが9月にリリースした最新の「iOS14」でTouch IDやFace IDがFIDO2に対応。これによりアップルのmacOS、Android(Google)、Windows(Microsoft)の、主要OSでFIDO2が使えるようになった。
ISRではこの機会をとらえ、2020年12月21日から契約プランに関係なく、すべてのCloudGate UNOユーザーがパスワードレス認証を利用できるよう、現ユーザーを含め全プランでパスワードレス認証を標準提供する計画だ。
脆弱性補えないパスワードは「幕末時代」に
このパスワードレス認証の標準提供やそれに伴う今後の事業戦略について、メンデス・ラウル社長は、「CloudGate UNOのパスワードレスの標準化は『認証維新』の位置付けで、これを足がかかりに、CloudGate UNOのユーザーを2023年度には現在の2倍の160万人に拡大する計画」と明かした。パスワードレス化への流れを大きくしたい意向だ。「パスワードの数が増えユーザーは覚えられないストレスを抱え、パスワード漏れによる犯罪・サイバー攻撃は増える一方」という現状に、「それは将来にわたっては過去のものとしなければならない『パスワード幕末時代』だ」と、メンデス社長は指摘した。
たしかに、パスワードが必要なウェブサービスは増える一方で、人によっては1つか2つのパスワードでいくつものサービス利用しているケースがあり、フィッシングやウェブサイトに仕掛けられたウイルスによってパスワードが盗まれる被害は枚挙にいとまがない。
ユーザーは認証のセキュリティ対策についてネットワーク管理者やサービス主宰者に依存しがち。しかし、メンデス社長は「ネットワークのセキュリティよりも個人レベルでの対応をしっかりしなければならない」と話す。そのためには、パスワードを使わないことが最善だ。
目指すのは「日本をパスワードから解放すること」
ISRは、1987年にリクルートスーパーコンピュータ研究所の所長として米国から来日したメンデス社長が、リクルート退職後の1993年、当時草創期のインターネットの普及を見越して、インターネットサービス会社として設立。インターネットのセキュリティに貢献するための技術開発や研究を重ね、2008年12月に、基幹サービスである「CloudGate」を発売した。
2013年にCloudGate UNOをリリースし、翌年、FIDOアライアンス※に加盟。19年5月、CloudGate UNOがFIDO2への対応を備えるようになった。
※「FIDOアライアンス」は、生体認証を使った認証技術の標準化を目指して2012年7月に発足した非営利の業界団体。
初来日から30年以上が経過したメンデス社長だが、これまでに経営や研究開発の傍ら、日本についても積極的に学び日本語を流暢に話し、漢字も読める。中国語やスペイン語も堪能だ。
日本の歴史についても興味を持ち、戦国時代や幕末に詳しい。歴史好きは、今回のISRの戦略発表にあたっても「維新」にたとえて説明するほど。自らの使命という「日本をパスワードから解放する」ことを印象付けるため、考えた。
ちなみに、11月17日に開かれた戦略発表の会見は、15日が坂本龍馬の誕生日で、日が近いことから選んだそうだ。