2021年 3月 6日 (土)

日銀はなぜ異次元緩和の道にはまったのか?

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   ゼロ金利、量的緩和、インフレ目標、政府との共同声明、そして異次元緩和......。異例ずくめの日本銀行の金融政策の背後で、どのような議論や駆け引きが行われていたのか。

   本書「日銀漂流」は、1998年の日銀法施行以来、蜃気楼のような「独立性」を追い求めて、後退戦を余儀なくされてきた歴代総裁の苦闘の軌跡を長期間の取材で描いたドキュメントである。

「日銀漂流」(西野智彦著)岩波書店

   著者は時事通信社、TBSで経済記者として長く日銀、大蔵省などを取材したジャーナリストの西野智彦さん。「アベノミクス」とともに日銀の異次元緩和が続いているが、将来、子や孫たちが金融経済で想像以上の苦境に直面し、「なぜ、こんなことになったのか」と疑問を抱いたとき、その答えを探す糸口を残しておいた方がいい、と本書を書いたという。

   将来の検証に供するため、論評を控え、事実を時系列にそって書いている。当事者への取材のほか、公開・未公開の内部文書や個人の日記、忘備録などをもとにした。この四半世紀の日銀の総裁人事や政策決定の舞台裏が見えてくる。

   この間の5人の日銀総裁の名前を冠して、それぞれ1章を設けている。

第1章 「松下時代」日銀法改正と金融危機 1996~1998
第2章 「速水時代」独立性という陥穽 1998~2003
第3章 「福井時代」反転攻勢、量の膨張と収縮 2003~2008
第4章 「白川時代」危機の再来、政治との確執 2008~2013
第5章 「黒田時代」ゴール未達、そして漂流 2013~
  • 日銀の「独立性」とは……(写真は、日本銀行本店)
    日銀の「独立性」とは……(写真は、日本銀行本店)
  • 日銀の「独立性」とは……(写真は、日本銀行本店)

日銀法は改正されたが......

   1997年の日銀法改正に遡って本書は始まる。昭和17年につくられた旧法は戦時立法で、そのまま戦後まで続いていた。大蔵省には日銀に対し一般的な業務指揮権と総裁解任権があり、大蔵省が最強の官庁であることの象徴でもあった。

   「金融政策に対する介入を法的に遮断し、独立した中央銀行に生まれ変わりたい」。日銀マンの誰もが日銀法の改正を願ってきた。そのチャンスは意外なところから到来した。

   バブル崩壊後に大蔵省主計局幹部への過剰接待が発覚。そこに住専処理への税金投入という案が飛び出し、大蔵省批判に火がついた。日銀法改正は大蔵省の権限縮小にもつながる「手ごろなテーマ」だったため、政治的な思惑で浮上したのだった。

   「独立性」という当初のキーワードは消え、代わりに「自主性」という言葉が使われた。55年ぶりの日銀法改正だったが、元総裁で当時顧問の三重野康は「一番大事なことが書かれていないじゃないか」と怒ったという。日銀の国債引き受けを禁止する規定がなかったからだ。中央銀行の独立性のうち、最も重要な財政ファイナンスの禁止が明記されていない、と部下を叱責した。

   いま、コロナ禍で日銀が国債買い入れ枠を撤廃してまで、買い入れている現状を、泉下の三重野が知ったら、どう思うだろうか。

続く金融危機

   松下康雄総裁時代の1997年9月、日銀法は改正されたが、すぐに厳しい運営を余儀なくされた。準大手の三洋証券の法的整理、北海道拓殖銀行の破たん、山一証券の自主廃業と金融危機が続いた。その後、各地の地方銀行で起きた取り付け騒ぎが起こる。1997年11月26日は、日本の「金融システム崩壊に最も近づいた日だった」という日銀幹部の論文を引用している。

   98年、幹部の接待汚職が明らかになり、日銀の威信は地に落ちる。OBで日商岩井相談役の速水優が三重野の推挙で新しい総裁に就任した。新日銀法はそんな沈滞ムードのなか、施行された。民間の生きた情報を得るために、金融機関との付き合いや接触を奨励する気風があったが、不祥事が生じたことで、外部との接触は断たれることになった。

   99年にゼロ金利政策が導入された。1年近いゼロ金利と米国のITバブルの恩恵で、2000年になり、日本経済は回復しつつあった。8月に速水総裁はゼロ金利を解除。「独立」の手応えを感じた。

裏目にでたゼロ金利解除

   しかし、この決断は裏目に出た。米国でITバブルが破裂し、日本でも9月以降、株価の下落が続き、景気に変調をきたした。宮沢喜一首相の反対を押し切った「独断」と政府・自民党に批判される。西野さんは「独立」を意識しすぎた、この時の判断ミスが異次元緩和まで行く流れを作ったと見ている。

   本書は、その後の政府との連携を重視し、思い切った量の拡張に踏み切った福井俊彦総裁の時代、与野党双方から「緩和不足」を攻め立てられた白川方明総裁の時代と続き、現在の黒田東彦総裁の時代となる。以前から「デフレ脱却」に強い意思を示していた黒田氏に安倍首相が白羽の矢を立てたのだ。

   黒田総裁は物価上昇率2%達成をマネタリーベース2倍、2年で達成すると大見えをきったが、7年たっても未達だ。日銀は無制限な国債の買い入れを始めた。また、マイナス金利という新たな地平に足を踏み入れた。

   追加緩和を重ねるうちに、金融政策は一般国民には理解できない複雑難解な姿へと変貌している、と書いている。マイナス金利、イールドカーブ・コントロール(長短金利操作)などの奇手が登場した。日本経済は日銀の実験室にされたという専門家もいる。

   通して読むと、どの総裁の時代も政治との確執あるいは蜜月があったことがわかる。「独立」を掲げながら、なぜ、いま日銀がこのような状況に追い込まれたのか。著者はあえて論評していないが、読めば明らかである。

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「日銀漂流」
西野智彦著
岩波書店
2500円(税別)

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