2024年 4月 19日 (金)

コロナ禍の2020年 欧米に比べて感染者少ない日本、それなのに経済は......(下)(小田切尚登)

来店不要なのでコロナ禍でも安心!顧客満足度1位のサービスとは?

   新型コロナウイルスの感染拡大は、世界経済に第2次世界大戦以来の打撃を与えた。なかでも、サービス業へのショックが最も大きかった。ホテル、レストラン、エンタメ、観光・旅行などの打撃が大きく、それらの産業を中心となって支えてきた女性が最も大きな被害を受けた。

   人口が集中していてサービス業の中心となっている都市部の被害が大きいことも特徴である。会社への通勤から自宅勤務という変化が訪れ、人々がネットを使う時間が増した。そのためITなどの一部の業界の業績は良かった。

  • 3月には世界同時株安が発生した
    3月には世界同時株安が発生した
  • 3月には世界同時株安が発生した

医療も教育も福祉も、すべては経済のおかげで成り立っている

   ここで「経済なんて大した問題ではない」という意見について、ひと言述べておきたい。我々の暮らしは、医療も教育も福祉も含めて、すべては経済のおかげで成り立っている。我々は働くことで金銭を得るのはもちろんだが、それだけでなく仕事によって生きがいと喜びを感じ、そして社会に対して貢献しているという実感を持てるようになる。

   今は多くの人が職を失い厳しい状態にあるが、それに対して「カネを配れば良いんだろう」などと言い放つのは、プロ意識をもって働く人たちへの冒涜だ。

   コロナ対策で人の移動を制限すると、失業や倒産の増加、出生率低下、子供の教育への悪影響、DVの増加......などの、さまざまな問題が引き起こされる怖れがある。これらの問題の多くは非常にゆっくりと進行していくので、表に出にくい面があるが、中長期的に深刻な影響を与える可能性があるものばかりだ。

   失業や倒産が増加すると自殺者が万単位で増える、という説もある。我々はそれらの各要素のプラスとマイナスを慎重に比較考量しなければならない。それによって初めて国民の命を最大限守り、幸福感を最大にできるような方策にたどりつけるであろう。

   日本は欧米がうらやむような低い感染レベルを実現しているわけで、「とにかく感染を絶つのだ」ということで、あたかも人々を刑務所に入れるように家に閉じ込めていくようなやり方をするのには疑問がある。後世に大きな悪影響を及ぼすことになることのないよう、感情に流されず冷徹な目で対応していってもらいたい。

   では、ここで株式市場について見てみよう。2020年ほど株式相場でドラマが起きた年はない。2019年に非常に安定的に推移していたのとは対照的に凄まじく揺れ動いた。

   3月には新型コロナウイルスの感染拡大により、株価が世界中で大きく下落し、世界の金融市場で動揺が走った。当時はコロナへの不安が相場に直接影響してしまい、この先どうなっていくのか、不安が市場を支配した。

   しかし、V字回復をして、世界の株価インデックスWorld Total Stock Market Cap (Bloomberg)は史上最高値を更新した。これを予測できた人など一人もいないはずだ。相場は本当に魔物である。

米S&P500の推移(出典:ヤフー・ファイナンス)
米S&P500の推移(出典:ヤフー・ファイナンス)

   株価が回復した背景にはいくつかの要素がある。一つは景気対策のために各国政府がどんどん借金をし、中央銀行が金融緩和を行ったこと。G7中央銀行は3月以降5兆ドル以上の資産(国債その他)を購入した。一方で金利は下がっていき、それが資産価格の押し上げに働いた。

米国株を押し上げ 6社のIT企業は凄かった

   また、コロナ禍でIT関連の株価が上昇した。特にフェイスブック、アマゾン、アップル、ネットフリックス、アルファベット(グーグルの親会社)、マイクロソフトの上昇は凄かった。ウォールストリートジャーナル紙の12月11日の記事によるとこの6社だけでS&P500の25%近くを占めているが、6社が2020年9月までのインデックスの上昇の77%を占めていたという。

   何のことはない、アメリカで株価が大幅に上昇したとは言っても、ごく一部のIT大手企業の株価が上がっただけだったということだ。これらの株価を持っていない人にはあまり関係のない話であった。

コロナ倒産に見舞われ、失業という人も......
コロナ倒産に見舞われ、失業という人も......

   日本では年初に2万3000円台で始まった日経平均株価が3月19日には1万6358円の最安値をつけた。しかしその後は盛り返し、12月29日(終値)には2万7568円にまで上昇した。

   ともあれ、金融緩和の流れの中でITの株価は上がり、不動産価格も全体的に値上がりした。商品相場も原油が下がった以外はたいてい株価の商品で上昇し、金や銀も上がった。

   そして、金融関係者の度肝を抜いたのがビットコインの急上昇だった。秋口から上昇が始まり、12月には驚異の2万8000ドル超えを記録した。これは市場に資金がジャブジャブに集まったために起きた現象だが、今後ビットコインがれっきとした投資対象として定着するようになるのか、それとも一時のバブルの夢物語で終わってしまうのか、注目される。

   2020年は全体として株価も債券価格も不動産価格も、商品価格も上昇した。多くの投資家にとっては(途中で怖い時期もあったものの、結果的には)良い年であった。文字どおり「あけましておめでたい」投資家がたくさん出没した新年となった。(小田切尚登)

小田切 尚登(おだぎり・なおと)
小田切 尚登(おだぎり・なおと)
経済アナリスト
東京大学法学部卒業。バンク・オブ・アメリカ、BNPパリバなど大手外資系金融機関4社で勤務した後に独立。現在、明治大学大学院兼任講師(担当は金融論とコミュニケーション)。ハーン銀行(モンゴル)独立取締役。経済誌に定期的に寄稿するほか、CNBCやBloombergTVなどの海外メディアへの出演も多数。音楽スペースのシンフォニー・サロン(門前仲町)を主宰し、ピアニストとしても活躍する。1957年生まれ。
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