コロナ禍の状況は、昨今しばしば現代を評して使われる「VUCAの時代」の、まさに象徴のような災禍だ。
「VOCA」は、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)を意味する頭文字。もともとは米国で軍事用語として発生したが、経済のグローバル化やテクノロジーの進化の加速で、一定の枠組みで捉えきれなくなったビジネスシーンでも使われるようになった。
「VUCAの時代」の現代は、「ウラとオモテ」「本音と建前」の区別が曖昧になっていると、本書「経済のカラクリ 知らないと損をする53の『真実』」は指摘する。「カラクリ」が隠されているという53件の事象をピックアップ。わたしたちが、それらを「正確にとらえ直す」ことをサポートするという一冊。
「経済のカラクリ 知らないと損をする53の『真実』」(神樹兵輔著)祥伝社
気づきのチャンスやヒントを提供
そもそも、わたしたちの思考は、間違いを犯しやすいプロセスに支配されているという。合理的に判断したつもりでも「権威」に影響される。専門家の意見であれば「きっとそうなのだろう」と、思考を放棄することもしばしば。多数派に同調してしまうこともよくある。「集団と同じであれば『多くの人が支持しているのだから間違いない』と考え、安心していられるから」だ。
また、好きなモノには興味を抱き「メリットを次々見出す」ものだが、嫌いなモノとなると「観察眼がはたらかず、多くのことを見落としがち」になる。「VUCAの時代」には、さらに冷静な判断が困難になりがち。そうした中で、気づきのチャンスやヒントを提供しようというのが本書の目的だ。
著者の神樹兵輔氏は、投資コンサルタント、経済アナリスト。富裕層向けに「海外投資・懇話会」を主宰し運用をサポート、金融、為替、不動産などの投資情報を提供している。「見るだけでわかるピケティ超図解」(フォレスト出版)、「改訂新版 面白いほどよくわかる最新経済のしくみ」(日本文芸社)、「自分に合った資産運用・投資術」(西東社)など多数の著書がある。
「話題のビジネス」のパートでは、「転売ビジネス」や「貧困ビジネス」などをテーマに12件のカラクリを暴く。また「商品価格のカラクリ」では「サブスク急増」の理由など13件、ほかに「AIと仮想通貨のカラクリ」で8件、「税金のカラクリ」で11件、「投資のカラクリ」で9件のカラクリの「内幕」を解説している。1件ずつ独立した読み物になっているので、興味ある項目を選んで読むことができる。
転売「営業」には許可が要るカラクリ
コロナ禍では、外出自粛やテレワークの拡大で、自宅で過ごす時間が増え、そのことを利用して「転売ビジネス」を副業として始める人が増えたとされる。副業としての転売ビジネスの人気はコロナ以前から高まっていて、その理由は、手軽に始められるからにほかならない。
本書によると、毎月数万円の小遣い稼ぎの人から、毎月数百万円規模で仕入れて年収200万円~3000万円を稼いで、脱サラして「古物商」の許可を得て独立開業、本業にしたひとまで、さまざまな模様がみられるという。
「転売ビジネス」に隠されているカラクリは、この「古物商」の許可だ。アマゾンやメルカリで転売ビジネスの副業に乗り出す場合は要らないのだろうか。本書によると、カギになるのは、行為に「反復継続性」があるかどうか。
たとえば......。2020年5月、ラグジュアリーブランドである「コム・デ・ギャルソン」の社員が、同ブランドの古着を仕入れてネットで転売し利益を得たとして摘発され書類送検される事件があった。社員は古着を仕入れて売ったもので、ネットではこの行為の何がいけなかったのかを問う声が多数上がった。
摘発の理由は、古物商の許可がないのに転売行為を繰り返していたから。一般に自分の所持品や不用品をネットオークションやフリマアプリで売るのは「営業」とはみなされない。しかし、商品を次々と仕入れ毎回複数を同時出品し「反復継続」した「営業」をするには古物商の許可を得ていないと違法になる。
社員は古着店での勤務経験があり、高値で売れそうなものを見分けることができたという。書類送検されるまでの約3年間、452点を転売し216万円の利益を得ていた。転売を、正業にしようと考えている人は注意が必要だ。
「経済のカラクリ 知らないと損をする53の『真実』」神樹兵輔著
祥伝社
860円(税別)