12年前、ベストセラー「無税入門」で、合法的に「無税の人」になる方法を示し、話題になった「タダ乗り男」が帰ってきた。
本書「完全版 無税入門」は、政府が「副業解禁」宣言をした今こそ、無税生活のメリットを享受すべきだと説く。ノーリスクで合法だが、少しグレーゾーンな、その方法とはどんなものなのか?
「完全版 無税入門」(只野範男著)飛鳥新社
副業収入は事業所得か雑所得か
著者の只野範男さんは、12年前に「無税入門」という本を出した元サラリーマンで、もちろんペンネームだ。給与所得と副業の事業所得を合算し、給与の黒字と副業の赤字を相殺。課税所得をマイナスにして、所得税をゼロにするというオーソドックスな手法を書いた。
ごく当たり手法だが、本の反響は大きく、メディアにも取り上げられ、ベストセラーになった。
本書では、その後の反響にもふれている。元国税調査官の大村大次郎さんは「改訂版 脱税のススメ」(2009年)の中で、「税務署が何も言ってこなかったからといって、イコール税務署が認めた、というわけではない」と指摘。只野さんも、「そのとおり」、単に「税務署がスルーした」だけと認めている。
では、当局との争点は何か。副業収入は事業所得か雑所得かに尽きるという。
副業の所得が「事業所得」から「雑所得」に格下げされると、以下のデメリットがある。
- (1)給与所得との損益通算ができなくなる。
- (2)青色申告が使えないので、「青色申告特別控除」の65万円が使えない。
- (3)雑所得の経費は狭い範囲のものしか計上できない(事業所得の場合は事業に関連するすべてが経費として計上できる)
事業所得として認められるように、以下の点を心掛けたという。
- (1)継続した事業を営み、一定の売り上げをあげること。私(著者)の場合は年商50~100万円程度は確保できていた。
- (2)当局から事業所得を否認されたら、売り上げが少ないということだから、売り上げを伸ばす努力をし、再度挑戦すること
東京地検特捜部が動く
大村さんの著書は「『無税入門』を真似て、形ばかりの副業を行い、税金還付を受ける者が続出すれば、税務署もそれを摘発するようになるだろう」と予言していたが、実際、2013年に東京地検特捜部は、サラリーマンやOLを相手に「脱税セミナー」を開催していた男を、確定申告の開始前日に逮捕。その後、執行猶予付きの実刑判決が出た。
もちろん、只野さんには何のお咎めもなかったが、気にはなったようだ。只野さんは長く、サラリーマンの傍らイラストレーターの副業をし、その副業が赤字だったから、結果的に「無税の人」になった。
「確かに、私はイラストだけでは食えていません。だから、雑所得で申告すべきだったのでしょうか。私は事業所得だと考え、そのように申告しただけで、判断は当局に委ねていました。当時の私は、税務署が『お目こぼし』してくれるとう発想を持っていませんでしたが、現実にその恩恵を受けたことになるのなら、それはそれでありがたいことです」
サラリーマンが副業から得る収入は、ほとんどの場合、雑所得とみなされる。どうやったら事業所得とみなされるのか。開業届の提出、必要経費の算出、仕事用と私用の按分法、減価償却費の計算など、詳しいノウハウが書いてある。
また、副業禁止という会社も少なくないだろう。「会社バレ」を回避する裏技も披露している。
副業している人は必読!!
副業をすれば、だれでも「無税の人」の人になれるわけではない。赤字でも継続することが大切だ。副業が繁盛し、「無税の人」から「有税の人」に変身したら、会社に残るか脱サラするか、それはそれで「楽しい分かれ道」だとも。
「無税の人」になれる副業の条件として、以下の5点を挙げている。
- ・資金をかけずに開業できる
- ・生活費が経費と重なる
- ・一芸に秀でている
- ・専門知識がある
- ・ニッチ産業を狙う
具体的な職種として、並行輸入ビジネス、ワインコンサルタント、ネット販売、フリーライター、ウェブライター、士業(週末行政書士、週末宅建)、予備校講師、ドライバー、オンライン日本語教師などを挙げている。
2月になれば確定申告が始まる。自分は副業とは無縁だと思っている人も、本書には税にまつわるさまざまな知識が書かれているので、役に立つだろう。「無税」とまでは行かないが、毎年還付申告をしている評者にとっても有益な情報が書かれていた。
雑所得になるのか事業所得になるのか、それは税務署の判断次第。グレーゾーンの微妙な塩梅について詳しく書かれているので、副業をしている人は必読だろう。
「完全版 無税入門」
只野範男著
飛鳥新社
600円(税別)