2024年 4月 24日 (水)

なぜドラッグストアは一人勝ちできたのか?

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   日本のドラッグストアの市場規模は約7兆6859億円(2019年度、日本チェーンドラッグストア協会調べ)だという。ドラッグストアの店舗数は全国2万店を突破し、コンビニエンスストアの5万8000店に次いで店舗の多い業態である。

   昭和の頃は薬局・薬店に過ぎなかったドラッグストアは、1990年代に成長。平成後期の10年間に急成長を遂げた。その秘密を探ったのが、本書「ドラッグストア拡大史」である。「なぜ、あれほど安売りができるのか?」

「近所に同じチェーンの店が複数あるのか?」

といった疑問に答えてくれる。

「ドラッグストア拡大史」(日野眞克著)イースト・プレス
  • ドラッグストアは平成後期に急成長を遂げた(写真はイメージ)
    ドラッグストアは平成後期に急成長を遂げた(写真はイメージ)
  • ドラッグストアは平成後期に急成長を遂げた(写真はイメージ)

「マツモトキヨシ」が革命を起こした

   著者の日野眞克さんは、ニュー・フォーマット研究所代表取締役、「月刊マーチャンダイジング」主幹。専門誌の記者を辞め、1997年に同誌を個人で創刊。当時、急成長していたドラッグストアの経営者が応援してくれ、部数が増えていったという。

   日野さんが重視したのは、売上高よりも「ROA(総資産利益率)」という数値。ドラッグストアという新しい業態の理論的かつ技術的なバックボーンになった、と自負している。ドラッグストア企業の収益率は他の業態に比べて極めて高いのだ。

   ダイエーなど小売業の王様だった総合スーパーが経営破たんしたり凋落したりした一方、一番遅く登場し、急成長したドラッグストアの歴史を3期にわけて解説している。

   第一次成長期は1980年代後半から90年代半ばだ。「マツモトキヨシ」による都市型ドラッグストアが革命を起こした、と書いている。昭和7(1932)年創業の個人経営の「松本薬舗」に始まり、87年に開店した「マツモトキヨシ 上野アメ横店」の爆発的なヒットが飛躍の大きなきっかけになった。

   薬局・薬店の殻を破り、医薬品だけでなく、化粧品を中心としたビューティーケア商品、バラエティ雑貨を幅広く品揃えしたのが若い女性を中心に支持された。病気になったときにしか行かない店だった薬局・薬店のイメージを変えた。

   95年には売上高が1000億円を突破し、ドラッグストア業界のトップになった。2009年には売上高約3920億円と、第2位の「スギホールディングス」の約2720億円よりも1000億円以上も売り上げが大きく、ナンバーワン企業として君臨していた。

なぜ「安売り」が可能なのか?

   ところが、1999年に「大店法(大規模小売店舗法)」が廃止され、競争環境が激変した。第一次のドラッグストアは、「大店法」の規制にかからないように150坪以下の小さい店舗が主流だった。この規制がなくなり、200坪、300坪と大型化が進んだ。

   さらに、97年に化粧品と医薬品の再販制度が撤廃されたことも後押しした。主力商品である化粧品と医薬品の安売りが加速した。

   店が大型化すると、売り場を埋めるため、それまでまったく取引のない、ドラッグストアのことなど知らない新規取引先を開拓しなければならなかった。食品、家庭用品などの卸売業者に頭を下げて、新しいジャンルの商品を仕入れていった。第二次成長期(90年代半ば~2000年代末)である。

「ドラッグストアの歴史は、新規カテゴリーを増やしていく歴史でもある」

   食品を強化したドラッグストアも多い。スーパーやコンビニと競争しながら、なぜ、より低価格で勝つことができたのか。日野さんは、こう解説している。

「ドラッグストアが他の業態よりも商品を安く売れるのは、『医薬品(一般用医薬品と調剤)』『化粧品』という高粗利益率部門を持っているために、『マージンミックス』ができたからだ」

   つまり、食品や消耗雑貨を「ロスリーダー(集客目的で、採算は度外視した商品)」にしても、医薬品、化粧品といった高粗利益率の商品でカバーできたのだ。

経営者の給料を貯蓄して資本増強

   そして、2000年代末から現在までの第三次成長期になる。売上高は2009年から2020年の11年間で、ウエルシアホールディングス(HD)は4.3倍、ツルハHDは3.3倍、コスモス薬品が3.9倍と急伸している。

   売上高ランキングも2009年にはマツモトキヨシHDが1位、2位はスギHDだったが、2020年には1位ウエルシアHD、2位ツルハHDと入れ替わっている。何があったのか?

   日野さんは「第三次成長期は、M&Aによる規模の拡大ができたかどうかが成長に大きく影響した」と指摘している。

   ウエルシアHDとツルハHDは、大量出店と同時に、志を同じくする企業との積極的なM&Aによって規模を一気に拡大したのだ。

   また、コスモス薬品、クスリのアオキ、ゲンキー、薬王堂などは、直営店の高速出店によって、M&Aに頼らず規模を拡大した。

   この期間、総合スーパーは閉店ラッシュ、コンビニの店舗数の伸びは鈍化、減少傾向にあるなかで、唯一、ドラッグストアだけが成長しているのだ。

   その理由について、日野さんは「投資回収の早い店舗開発」「小商圏のドミナント出店」「販売キャッシュフロー(回転差資金)」の3つを挙げて説明している。

   個々の企業経営者についても、スケッチしている。北海道旭川市の薬局の二代目で京都大学薬学科を卒業した鶴羽肇氏と実弟で三代目社長の樹氏が拡大したツルハHD、愛知県西尾市で、夫婦で創業したスギ薬局からスタートしたスギHD。

   もともと零細な個人薬局からスタートしたドラッグストアが成功したかどうかは「資本増強」の有無だった、と日野さんは書いている。創業期にムダ遣いせず、経営者の給料を貯蓄して資本増強できたかがカギだったと。

   さらに、新しいカテゴリーの商品を導入する「ラインロビング」への挑戦が重要だ、と結んでいる。生鮮食品、園芸、アパレルに挑戦しているドラッグストアもある。

   既存業態の常識の枠から外れ、成長を続けてきたドラッグストアという業界について、本書を読めば、深く理解することができるだろう。

「ドラッグストア拡大史」
日野眞克著
イースト・プレス
860円(税別)

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