2022年 9月 25日 (日)

東日本大震災から10年、僧侶は人々の話を聴き続けてきた

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   東日本大震災からまもなく10年。被災地の人々に寄り添い、話を聴く移動喫茶「カフェ・デ・モンク」の活動を続けてきた僧侶の金田諦應(かねた・たいおう)さんが、この10年を振り返ったのが、本書「東日本大震災 3.11 生と死のはざまで」である。

   霊的な体験をした人たちの「心の相談」にも乗り、海外のメディアにも紹介された人だ。宗教者の真摯な問いかけが胸を打つ。

「東日本大震災 3.11 生と死のはざまで」(金田諦應著)春秋社
  • そして、すべてが流された……
    そして、すべてが流された……
  • そして、すべてが流された……

震災から49日、僧侶の唱える経文は叫びに変わった

   金田諦應さんは1956年、宮城県栗原市生まれ。駒澤大学仏教学部卒。同大学院修士課程修了。宮城県の内陸部にある栗原市の曹洞宗・通大寺住職。日本臨床宗教師会副会長。

   栗原市は2005年、自殺率が全国一となり、自死した人の葬儀が相次いだことから、「栗原命と心を考える市民の会」を立ち上げ、自殺防止の取り組みを始めた。志を同じくする僧侶7人と托鉢姿で黙々と歩く沈黙の行脚を続けた。

   寺を飛び出し、さまざまな人と会う行動力が、東日本大震災を機にさらに深化を遂げる。

   地震と津波で沿岸部の火葬場がほぼ壊滅したため、内陸の火葬場に沿岸部から多数の遺体が運ばれてきた。金田さんらは、行政と取り決めをしたうえで、火葬場で読経ボランティアを1か月半続け、合わせて350体ほどの遺体に祈りを捧げた。

   震災から49日目には、僧侶10人と牧師1人が参加して、宮城県南三陸町で追悼行脚をした。そこでの体験を、こう綴っている。

「遺体の見つかった瓦礫の山には赤い旗が立っている。周囲には死臭とヘドロが入り混じった臭いが漂う。私たち僧侶の唱える経文はやがて叫びに変わり、後ろを振り返ると、牧師は讃美歌集を頻繁に閉じたり開いたりしている。この状況の中で歌う讃美歌が見つからないのだ」

被災地で「幽霊」に出会うのは当然だ

   被災地は広い。避難所もあちこちに点在する。震災前の自死相談活動では、ひたすら相談者の言葉に耳を傾けた。語ることにより相談者は力を得る。こちらから出向いて「聴く」空間を作ろうと、傾聴移動喫茶「カフェ・デ・モンク」が誕生した。Monk(モンク)は英語で坊さんのこと。「お坊さんもあなたの『文句』を聴きながら、一緒に『悶苦』します」とメッセージボードに書いた。

   金田さんはその風貌から「ガンジー金田」、他のスタッフも「UFO吉田」「エリック高橋」などニックネームを付けた。「肩書を捨て、生身の自分でこの震災に向き合いたい」という思いからだった。

   南三陸町からスタートしたカフェはやがて石巻市や仙台市、登米市、福島県南相馬市など各地で開かれた。カフェでは被災地のあちこちでささやかれる「幽霊」の話題が出たという。

   仙台市で開いたカフェでは、「夕暮れ時、海外の松林の中をたくさんの人が歩いている」「津波で廃墟になった建物から誰かに見られているような気がする」などの話が出たが、実際に見たのか、噂話なのか確かめようがない。

   金田さんは、「幽霊が出るのは当然だ。みんな突然の出来事で死んでしまった」と切り出し、幽霊を怖がらず、「あなた方は残念ながら死んでいる。死んだ人には死んだ人が行くべき場所がある。そちらの世界で見守って」と語りかけてほしいと話した。この模様は同行した新聞記者によって世界に配信され、その後金田さんはイギリスのBBCやロンドンタイムスなどの取材を受けることになる。

   宗教者と医師らが協働する「心の相談室」や臨床宗教師養成講座など、金田さんがかかわったプロジェクトを紹介している。臨床宗教師とは被災地や医療機関、福祉施設などの公共空間で、心のケアを提供する宗教者である。東北大学大学院に「実践宗教学寄附講座」という名称で講座は設置された。

震災の犠牲者が憑依した人々を救う

   本書の白眉は、傾聴活動で出会った人たちを通じての死者との対話、震災の犠牲者との対話が詳しく書かれている箇所だ。約1年、24人ほどの物語から主なものが記されている。

   「娘を迎えに行かなくちゃ」という父親が娘に憑依したケースが痛ましい。「おれは死んでいるのか? 津波で死んだのか? 何人死んだ?」「二万人近く死んだ」(金田さん)

   「そんなに死んだのか!」。こんなやりとりが2時間近く続き、「光を想え!」と最後に金田さんが語りかけた。儀式が終わり、焼香をした瞬間、彼女の憑依は解けたという。「このような状況で逝ってしまった人が、たくさんいたことを想う」と書いている。

   幽霊とか死者との対話を「非科学的」と退ける人もいるだろう。しかし、金田さんはこう説明する。

「私たちの風土が危機的な状況になった時、常識では理解できないような、さまざまな出来事が起きる。あらゆる宗教的感情が、まるでパンドラの箱を開けたように飛び出してくるのだ。そして今まで隠されていた人間の感知能力が高まってくる」

   臨床宗教師研修の際に、金田さんが作った臨床宗教師18か条を渡しているそうだ。なかなか素敵な文言が並んでいるので、いくつか抜粋しよう。

・他者が語る物語に虚心に耳を傾けられる人
・自分自身で現場を見つけられる人
・悲しみを引き寄せる力をもっている人
・限りなく人間という存在が愛おしい人

   本書には肉親を失ったさまざまな人の物語が登場する。そして最後は「フクシマ」から突き付けられた問いに、向き合い続けなければならない、と結んでいる。その問いを背負いながら、生と死のはざまを歩き続けるのが私たちの責務なのだ、と。

「東日本大震災 3.11 生と死のはざまで」
金田諦應著
春秋社
1800円(税別)

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