2024年 4月 19日 (金)

溢れる金融緩和マネーに警鐘? 「震源」となった米長期金利上昇に固唾をのむ株式市場

   金融市場の様子が怪しくなってきている。米国の長期金利上昇が「震源」で、日米の株価が下落するという流れが目立っている。

   このままの状況が続くのか、市場も懸命に見極めようとしている。

  • 日経平均株価、3万円に戻るか!?(写真はイメージ)
    日経平均株価、3万円に戻るか!?(写真はイメージ)
  • 日経平均株価、3万円に戻るか!?(写真はイメージ)

財政が大盤振る舞いしても金利が上がりにくいワケ

   今の世界経済は、いち早くプラス成長に戻った中国など一部を除き、日米欧の主要国は引き続き、新型コロナウイルス感染拡大で経済活動が停滞し、成長軌道に回帰できないでいる。

   各国は感染対策と経済対策で、財政赤字には目をつぶって財政出動を拡大し続けざるを得ない状況で、日本では総額100兆円を上回る2021年度予算案の年度内成立が確定。米国でも、バイデン政権肝煎りの1兆9000億ドル(約200兆円)の経済対策(米国救済計画)が下院で可決され、上院で審議が進められている。

   こうした大盤振る舞いを支えているのが、各国の中央銀行の超金融緩和政策で、対策のため国債を増発しても、中央銀行が市場で買い支えるので、金利上昇が抑えられるのだ。

   米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)は、インフレ率が2%を緩やかに上回る状態が見通せるまでゼロ金利政策を続けるとして、国債買い入れによる市場への資金供給に努める。日本銀行が「異次元緩和」の一環として長期金利の上限を0.2%程度とした資金供給に加え、株価指数連動投資信託(ETF)購入という事実上の株の買い支え政策まで実施。欧州も財政支出を継続し、欧州中央銀行(ECB)が資金供給を続けている。

   こうした超金融緩和で溢れかえるマネーが株式市場に流れ込み、米ダウ工業株30種平均は3万ドルを超え、日経平均株価も一時は3万円を30年ぶりに回復した。コロナ禍後の経済正常化、成長回復への期待もあるとはいえ、昨今の株価上昇はバブル的な金融相場とも指摘される。

   この状況に警鐘を鳴らしたのが米国の金利だ。年明けは1%を下回り、2021年1月中は1.1%を挟んだ落ち着いた動きだったが、2月以降は新型コロナ感染者数の減少や、1.9兆ドルの経済対策をにらんでジワジワと上昇を始めた。

   年明けのころは、2021年末までの上昇は1.5%程度までとの見方が多かったが、2月25日の市場で1.6%台に急上昇し、その後は1.4~1.5%台と、水準を切り上げている。日本の長期金利は2月末には一時、0.175%と5年ぶりの水準に上昇したが、米国に比べるとまだ落ち着いている。

株価乱高下でパウエルFRB議長は発言を軌道修正

   米長期金利の上昇は、株式市場を直撃した。米ニューヨークのダウ平均株価が2月25日に559ドル値下がり、26日も469ドルと2日で100ドル超下げ、東京株式市場の日経平均株価も26日に1202円安と4年8か月ぶりの下げ幅を記録。その後も、ダウは3月1日に603ドル上げると2~4日で計600ドル下げ、5日は572ドル高と荒い値動きが続き、日経平均株価も1日に697円上げ、4日に628円下げるなど乱高下を繰り返している。

   じつは、2月下旬までは米FRBも市場も、一定の金利上昇は株価の急ピッチすぎる上昇を是正し、長期的に株高を続けるうえでプラスとみていたフシがある。

   FRBのパウエル議長は2月23日の議会証言で、経済の現状について「FRBの目標からは程遠い」として緩和政策を継続する姿勢を強調する一方、1.4%に近付いていた足元の長期金利については「経済再開や経済成長への期待の表れ」と静観する姿勢を見せた。市場では、超金融緩和の副作用である過熱感を、長期金利上昇が抑制するという「自動調節機能が働いた」(アナリスト)と肯定的に評価する声も聞かれた。

   ただ、その後の株価の乱高下を受け、パウエル議長は3月4日の討論会で、金利について「債券市場発の市場の混乱や金融環境の引き締まりが発生すれば、不安材料になる」と、2月の証言から軌道修正し、金融緩和の継続を強調した。

   金利が年初に比べ0.6%上昇と、ピッチが早すぎることを懸念しているとみられるが、この日の株式市場は、ダウが345ドル安となり、「パウエル議長の発言は踏み込み不足」(市場関係者)との声もあった。

金融市場は常に先、先を見る

   コロナ禍による経済の低迷が続くなか、超金融緩和で金利を抑え込みつつ、緩和マネーで株高を演出する日米に通じる構造は変わるのか。バイデン政権は「雇用回復へ大型経済対策は必要」(イエレン財務長官)との立場だが、身内からも民主党の経済政策に影響を与えてきたサマーズ元財務長官が米紙で「1.9兆ドルの対策は過大で、経済の過熱を招きかねない」と異を唱え、「新旧財務長官の論争」と話題になっている。

   前年のコロナ禍による物価下落の反動に加え、大規模な財政支出の本格化で、4月にはインフレ率が一時的に2%を超えるとの観測が市場で強まっており、長期金利の先高観は強まるばかりだ。

   米国に比べて景気回復への期待が鈍い分、日本の金利上昇はまだ目立たない。このため、日米の金利差が拡大し、高金利のドルが買われて外国為替市場では円安・ドル高が進んでいる。円安=日本の株高という連想が働くが、それも程度次第。日銀は3月の金融政策決定会合で金融政策の点検結果を公表するが、株価上昇を受けて緩和の微修正に動くとの観測も、このところの市場の動揺を受けて後退している。

   金融市場は常に先、先を見る。新型コロナウイルスのワクチン接種の効果が出てくれば、経済活動は正常化に向かうと見越し、今の金融緩和は続かないとみる。また経済活動活発化でインフレ懸念が出てくるのに対応した金利上昇は自然な反応ともいえる。

   問題は金融緩和や財政出動を、どのようなペースで正常化させ、金利上昇をゆるやかなものにコントロールできるかということになる。それを間違えれば、金利上昇という経済原理に沿った市場の反応も、株価暴落といった副反応を招きかねない。政策当局のオペレーションが問われる局面に差し掛かっている。(ジャーナリスト 岸井雄作)

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