コロナ禍で、テレワークやオンラインで仕事をする企業が増えてきたこともあり、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」が、注目されています。最近では「DX」の文字を見ない日はありません。コロナ禍でDXの広がりに加速度がついているようです。とはいえ、「とりあえず、やってみるか」「みんながやっているから...」と、安易に飛びつくのはいけません。そこで、ITジャーナリストの久原健司さんにDXを進めるメリットとデメリットについて、お話を聞きました。DXを進めるメリットは何なのでしょうか?メリットは大きく分けて3つあります。(1)効率性・生産性・精度の向上によって働き方改革の実現できる(2)市場変化に合わせて柔軟な対応が可能になる(3)新しい商品やサービスの開発・新規ビジネスの展開が可能になる(1)効率性・生産性・精度の向上によって働き方改革の実現できるDXを進めることにより、まずは、これまで分散していた社内のワークフローを整理し、作業を最適化・自動化することによって業務効率化が図れます。次に、業務が効率化されたことによって空いた人員や時間を緊急性の高い業務や重要な業務に充てることができるため、企業の生産性向上につながります。最後に、デジタル化によって作業を自動化されたことで、ミスや漏れといったヒューマンエラーを防ぐことができるので業務の精度向上につながります。さらに、これまで社員が手作業で行なっていた仕事も自動化できれば、よりクリエイティブで重要な仕事に集中できるので、社員のパフォーマンスの向上にもつなげることが可能です。結果、働き方改革の実現できるのです。(2)市場変化に合わせて柔軟な対応が可能になる新型コロナウイルスの感染拡大や、地震や台風といった自然災害の影響もあり、市場の未来予測が難しくなってきています。そんな状況だからこそ、企業はこれまで提供してきたサービス内容や方法などを見直し、市場に合ったビジネスモデルの再構築する必要があります。たとえば、コロナ禍で、出前館やUberEatsといったフードデリバリーサービスがITの最新技術を使いながら進化しています。また、デリバリーのニーズが急拡大したことを受け、客席がなく、キッチンで調理した料理を宅配専門で販売する飲食店「ゴーストレストラン」が首都圏で急増しています。この「ゴーストレストラン」は米ニューヨークが発祥の地とされており、レストランと称されていながら、客席や店舗内装はもちろん、接客スタッフも存在せず、キッチンと料理人のみで開業が可能なため、初期投資を極力抑えた形で始めることができるようです。より投資を抑えるために、既存のお店のキッチンを間借りする、シェアリングキッチンを利用するといった方法もあり、新しい飲食店の形になってきています。先が見えない現代において、盤石だと思われていた業界や大手企業であってもこれまでのように事業を継続できる保証はありません。また、ITやテクノロジーの発展は想像以上に早くなっており、市場やサービスの破壊的イノベーションが起こる頻度も挙がっています。したがって、市場の変化についていけない企業が生き残ることはますます厳しくなっていくはずです。DXを進めることにより、こういった状況にも柔軟に対応する術を身につけることができるのです。(3)新しい商品やサービスの開発・新規ビジネスの展開が可能になる現在、世界中でクラウド、ビックデータアナリティクス、AIやIoTを活用して新たなビジネスやサービスが誕生しています。中国ネット大手の百度(バイドゥ)は2020年12月7日に、北京市で初めて運転手がいない完全自動運転車の公道試験走行の許可を得たあと、2021年1月27日には米カリフォルニア州でも同様の許可を取得しています。きっと近い将来、完全自動運転車のサービスが世界で行われるなか、自動車保険だけではなく、その周辺で新しい商品やサービスが生まれ、まだ誰も聞いたことのない会社が世界を引っ張っていく可能性が十分にあります。これはかつて、電話が世の中に普及した時や、インターネットが普及した際に、新しいビジネスやサービスが誕生したのと同じことです。DXを進めることにより、今までは考えられなかったアイデアや収集できなかったデータを得ることができるため、新しい商品やサービスの開発・新規ビジネスの展開が可能になるのです。時間にコストに......DXのデメリットとは?もちろん、DXを進めることによって生じるデメリットもあります。特にこれから挙げる2つは、DXを進める際には確実に生じるものですので、知っておいてください。(1)結果が出るまでに時間とコストがかかる可能性がある(2)既存システムからの移行が困難になる(1)結果が出るまでに時間とコストがかかる可能性がある実際にDXを進めている企業の中には、結果が出ていない企業が多いのも現状です。一般的に言われているのが、DXを進めている企業にとって目に見えた効果が現れるまでには平均で3年~5年程度の期間が必要であるということです。また、当然ながらDXを進めるためには様々なところで投資が必要になります。(2)既存システムからの移行が困難になるワークフローの中に大規模なシステムを導入している企業は、DXを進めるうえで別のシステムなどへの移行をする必要が出てきてしまった場合、非常に困難となります。特に業務の根幹に関わる部分に大規模なシステムが入っているような場合は、リスクヘッジの観点からも、一度にすべての業務フローを変更することは不可能です。データフォーマットの統一や簡単な業務効率化などから始めるということもできますが、きちんと段階を踏む必要があり時間がかかります。また、その業務に関連する部署が多い場合は、部署間の連携も考慮しなくてはいけないため、さらに調整に時間がかかってしまいます。その結果、社員のモチベーションも下がってしまう可能性も出てきます。このような2つのデメリットが生じるため、とりあえず世の中がDXを進めたほうがいいと言っているからやってみよう、といったような安易なり理由で進めることは絶対にやめてください。では、海外ではDXはどのように進んでいるのか――。次回は、海外のDX事情について、お話したいと思います。(久原健司)
記事に戻る