2021年 12月 6日 (月)

福島第一原発、40年かかる廃炉の道 10年が過ぎたが......【震災10年】

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   東日本大震災で津波の被害を受けて、炉心が溶け、水素爆発事故を起こした東京電力・福島第一原子力発電所。今も高い放射線量のなか、40年かかるとも言われている廃炉作業が続いている。

   本書「廃炉」は、この未曾有の現場を支える、誇り高き人々の記録である。

「廃炉」(稲泉連著)新潮社
  • 燃料デブリを取り出す段階に入っていく福島第一原子力発電所(出典:東京電力ホールディングス)
    燃料デブリを取り出す段階に入っていく福島第一原子力発電所(出典:東京電力ホールディングス)
  • 燃料デブリを取り出す段階に入っていく福島第一原子力発電所(出典:東京電力ホールディングス)

廃炉作業にかかわる多く人の声

   野球で言えば、敗戦と分かっていてマウンドに立つ「敗戦処理投手」にたとえて、サブタイトルは「『敗北の現場』で働く誇り」となっている。事故の責任を感じて、「一生、福島においてください」と福島にとどまり続ける官僚、瓦礫の運び出しや放射線量の測定など困難なミッションに挑む技術者、彼らをバックヤードで支える人々、「加害者」になることを厭わず、東電を選んだ新入社員たち......。アクセスすることが難しい廃炉現場の姿が見えてきた。

   著者の稲泉連さんは、1979年生まれのノンフィクション作家。「ぼくもいくさに往くのだけれど-竹内浩三の詩と死」で第36回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞している。

   廃炉作業の様子は時折報道されるが、40年かかると言われる気の遠くなるような時間感覚と、高い放射線量のため容易にアクセスできない環境が相まって、取材するライターは少ない。全体像がなかなか見えない対象だからだ。

   もちろん、現場で働く労働者に取材したノンフィクションはある。労働者として現場に入ったライターもいる。そして、高い放射線量と過酷な労働環境というイメージが定着した。

   だが、廃炉の現場はそれだけだろうか。あえて、行政や企業の当事者の声を聞いたところに、本書の新機軸がある。「加害者」として社会から指弾されてきた彼らにしか、見えないし語ることができないこともあるからだ。

   廃炉作業にかかわる多くの企業、人々が登場、7章で構成されている。すべてに触れることはできないので、印象に残ったことを紹介したい。

「一生、福島においてください」と言い続けてきた官僚

   資源エネルギー庁の「廃炉・汚染水対策現地事務所」の参事官である木野正登さんは、事故当時、福島県に常駐する国の広報担当者だった。東京大学工学部で原子力工学を専攻した。旧通商産業省に入り、原子力関連の職場を歩いた。

   事故から5日後、福島に入り、国のマスコミ対応の責任者になった。木野さんは文科省に出向していた際に、原子力施設での事故が起きた時に放射性物質による影響を予測する「SPEEDⅠ」の担当をしたことがあった。そのデータが気になり、担当者に尋ねると、データは届いていたが、官邸から「外に出すな」という指示があったという。愕然としたが、従うしかなかった。

   「SPEEDⅠ」は、どの方向へ放射性物質が飛んでいくかを予測するシステムだ。「住民がどちらの方向に向かって逃げればいいかを示す指標。まさに住民のためのシステムだった。その情報を活用しないというのは悪だと思いました」と、語っている。

   実際、浪江町では線量の高かった津島地区に住民が避難したため、今も住民は国に対して強い不信感を持っているという。木野さんは自ら志願して、福島にとどまり続け、その不信感に向かい合っている。

   そんな木野さんは東電への懸念をより強めているというのも意外だった。東電は「イチエフ(福島第一原発のこと)を『普通』の現場にする」を合言葉に、現場の労働環境の改善を進めてきた。それは良いことだが、東電自体の事故に対する意識までもが、「普通」の状態になりつつあるのでは、と懸念するのだ。

「一発アウト」の現場

   福島第一原発には、4つの原子炉建屋があるが、水素爆発によって建屋の上部が吹き飛んだ3号機は巨大なドーム状の構造物に覆われ、異質な様相を呈している。このカバーの施工を担当した鹿島建設の工事所長、岡田伸哉さんの話も興味深い。

   瓦礫が絡み合い、積み木崩しをするような作業。JVパートナーの東芝の協力を得て、写真を3D化したデータを構造設計部門で解析し、「Aを動かすとBは動くのか、それとも落ちるのか、全く動かないのか」を一つひとつの瓦礫について判断していったという。

   そうしたハイテクとローテクを組み合わせて瓦礫を撤去しながら、2018年2月にドームは完成、19年4月から使用済み核燃料プールから燃料取り出し作業が始まっている。

   瓦礫の運搬は「東電福島高線量廃棄物運搬工事事務所」が担当した。鹿島建設の同事務所の所長・福山哲也さんの言葉が印象深い。

「イチエフの現場で働いていると、人間が慣れによってリスクを感じなくなっていく生き物であることを実感する」

   毎時30ミリシーベルトまでが「低線量」、それ以上を「高線量」と呼んでいたが、「低線量」だと心配ない、と作業員が話しているのに危機感を持ったという。

「ここにあるのは高いか、めちゃくちゃ高いか、の二通りなのですから」

   福山さんは東電に提案し、すべて「高線量廃棄物」と呼ぶことにしたという。ここは「普通の現場」だと思ってはいけない、「一発アウト」の仕事をしているという彼らの使命感が危険な作業を支えている。

最後の難関「デブリ」の調査は一歩一歩

   瓦礫の撤去、使用済み核燃料の取り出しと進捗状況の差はあるが、少しずつ廃炉のステップは進んでいる。最後の難関が「デブリ」の撤去だ。溶けだした核燃料と構造物が一体となった堆積物だ。非常に高い放射線量なので、まずデブリに触るという重要調査が進んでいる。

   2号機と3号機を担当している東芝の技術者たちが「サソリ」と名付けた自走型ロボットによる調査のあらましが詳しく書かれている。

   サソリはレールの途中で止まり、メディアの中には「目的を達しなかった」と報じた新聞もあったが、「調査そのものは成功した」と東芝の技術者は考えている。かなりの堆積物が詰まっているという情報自体が、次の調査方法を決める重要な知見になったと。

   「これは自分たちの持っている事業の責務なんだ」と一人は語っている。原子力プラントを設計、開発したメーカーとしての責任を彼らは感じている。

「この会社にいる限りは、何らかの形でずっとこの仕事にかかわっていくんだろう」

   40年かかると言われた廃炉作業。事故の発生から10年が過ぎた。あと30年で終わるのだろうか? その見通しは立っていない。しかし、我々は折に触れて、その行方を見守ることが必要なのではないだろうか。原発から遠く離れたところで、その電力を享受してきたのだから。(渡辺淳悦)

「廃炉」
稲泉連著
新潮社
1600円(税別)

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