2021年 5月 9日 (日)

「人類史的なエネルギー転換」が起きようとしている【震災10年 いま再び電力を問う】

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   東日本大震災に伴う東京電力・福島第一原子力発電所の事故から10年。震災直後には原発が運転停止となり、日本は電力不足に見舞われた。その「救世主」として再生可能エネルギー、なかでも太陽光発電は脚光を浴び、日本のあちらこちらでメガソーラーが設置された。

   ところが、どうだ。太陽光発電は現在、そんな盛り上がりなどない。「フクシマ」を見て、ドイツなどでは「脱原発」を加速した。昨今の電力不足では、一部では太陽光発電をはじめとした再生可能エネルギーが原因のようにもいわれている。

   日本の電力はいったい、どこへ向かっているのか――。電力の未来像を、再生可能エネルギーに詳しい環境学者の飯田哲也(いいだ・てつなり)さんに聞いた。

  • 飯田哲也さんは「世界の太陽光発電は加速度的なスピードで伸びている」と話す。
    飯田哲也さんは「世界の太陽光発電は加速度的なスピードで伸びている」と話す。
  • 飯田哲也さんは「世界の太陽光発電は加速度的なスピードで伸びている」と話す。

世界の太陽光発電はうなりを上げて伸びている

――再生可能エネルギーの現状を教えてください。

飯田哲也さん「自然エネルギーには、大きく5つあります。太陽光、風力、地熱、水力、バイオマス。このうち、大きな変化を起こしているのは、太陽光と風力です。世界全体の発電能力からみると、2020年末に太陽光発電が風力発電を抜きました。風力発電も伸びていますが、太陽光発電は、風力発電よりもはるかに速いスピードで増えています。
また、発電のためのコストも10年間で、風力発電が3分の1になり、太陽光発電が10分の1にまで下がっています。今や最も安いコストで発電できるのが太陽光発電です。今、世界全体で『自然エネルギー100%』を目指そうという流れがあって、その自然エネルギーの中心が太陽光発電になっています」

――電力の供給量で見ると、どのくらい伸びているのでしょうか。

飯田さん「世界で見ると、自然エネルギーの供給量は10年前で太陽光発電と風力発電を合わせても1%程度でしたが、現在では10%近くまで伸びています。とくに太陽光発電はうなりを上げて伸びています。世界の産業界においてもこれからのエネルギーの中心を太陽光発電として、認識を大きく変えています。これは『人類史的なエネルギー転換』が起きようとしているのだと思います。10年前には誰も想像しなかったことでしょう。
この10年で世界のエネルギーに対する認識、見方、考え方が変わり、そしてこれからの10年で現実が変わろうとしているのです」

「特異」な日本の太陽光発電の事情

日本の太陽光発電は中国、アメリカに次いで世界第3位(写真は、飯田哲也さん)
日本の太陽光発電は中国、アメリカに次いで世界第3位(写真は、飯田哲也さん)

――国内の太陽光発電の状況を教えてください。

飯田さん「じつは日本の太陽光発電の設置量は世界で中国、アメリカに次いで第3位です。この要因には、2012年からの太陽光発電の固定価格買い取り制度(FIT=Feed-in Tariff)が大きく寄与しています。ただ、日本は太陽光発電を自ら増やしておきながら、それを活かさず、ここ5年間では政府や電力会社による封じ込めともいえる動きによって、太陽光発電の伸びに急ブレーキがかかった状態になっています。
一方で、世界では太陽光発電は爆発的に増え続けています。風力発電も増えていますが、電力転換の1丁目1番地は太陽光発電なのが世界の認識です。世界と日本では、太陽光発電に対する認識に真逆の、大きな落差があるのを感じます」

――なぜ、そのようなことになっているのでしょうか。

飯田さん「太陽光発電の設置は固定価格買取制度(FIT法)が施行された2012年から2014年に圧倒的な勢いで国に登録され、この10年間で供給する太陽光発電量も増えました。問題は、発生した太陽光発電を電力会社の送電線につなぐことでした。日本のFIT法では、当初、自然エネルギーを送電線につなぐことを義務付けましたが、あまりに数多くの太陽光発電などの自然エネルギーが電力会社に接続の申し込みで押し寄せたために、結果として2014年9月には九州電力が太陽光発電の受付中止を発表しました(第1次九電ショック)。その後、電力会社は自然エネルギーの接続できる量の「総量規制」を始めました。
また、利用する電力の優先順位や、送電線の増設や利用に係る費用負担も明確になっていません。電力の優先順位では、自然エネルギーより原発が優先され、先に抑制されるはずの石炭火力などが十分に抑制されていない問題があります。海外の制度では、化石エネルギーや原子力エネルギーよりも優先して自然エネルギーを利用するよう定めているのですが、日本では九州電力が2018年10月に始めたように、太陽光発電をさっさと止めてしまうことができてしまうのです(第2次九電ショック)」

「ブラックボックス化」している送電線の費用や許容量

――送電線問題が、再生可能エネルギー普及の「重石」になっているのでしょうか。

飯田さん「そうですね。高速道路であれば、その建築物、利用状況や混雑状況は目で見てわかりますが、電気の送電線は、送電状況、送電許容量、老朽具合は電力会社にしかわかりません。太陽光を送電するための費用についても、その見積りの公正さは、国や電力会社の胸三寸になっているのが実態です。
数年前に、北海道で約1600キロワット、20億円規模の小水力発電の計画がありました。事業者から北海道電力に送電線への連系を依頼した時、その接続mのために送電線の増強に約270億円の見積りが北海道電力から出されました。小水力発電事業自体の10倍以上の費用がかかるばかりか、北海道電力の時価総額の約半分という水準です。果たして、その見積りは適切だったのでしょうか? 送電線の許容量の根拠は何だったのか? 本当に送電線の変更は必要だったのか? 実際の送電量を基準した場合、許容量でカバーできたのかもしれません。まさに、送電線は電力会社のブラックボックスなのです。その北海道の小水力発電は結果として断念を余儀なくしました。今の日本の自然エネルギーは、そのような異常に高い見積りなどで送電線に接続できないことが、最大の問題なのです」
「太陽光発電の電力を送電させるもさせないも電力会社の胸一つ」と語る飯田哲也さん
「太陽光発電の電力を送電させるもさせないも電力会社の胸一つ」と語る飯田哲也さん

――太陽光発電は「安定していない」との声は少なくありません。

飯田さん「太陽光発電の悪口には、『太陽光発電はお天道まかせであり、安定していない』という声が見受けられます。確かに、太陽光エネルギーは『自然変動電源』といわれ、変動はあります。しかし、『自然変動』はけっして『不安定』を意味しません。日本全国に数多くある太陽光発電や風力発電は、気象予測の進展も相まって、変動があっても出力は予測できるのです。
太陽光発電は、一つの規模が小さく、数十万基が広いエリアに分散しています。たとえ一部が天変地異の影響で止まっても、そのエリアで被害が生じたとしても、全体としては、影響は微々たるものに収まります。不安定という状況は、電力が供給できない状況になることです。たとえば、2018年の北海道地震では、そのエリアのすべてをカバーしていた石炭火力発電の3基がストップして、電力が供給できなくなりました。大規模で電力が止まる恐れがある状態を『不安定』といいます。太陽光発電には、そのような『不安定さ』はありません。また、気象は変動しますが、昨今では気候予測が精緻にできるようになりました。ゆえに、太陽光発電は『安定している』電力だといえるのです」

太陽光発電で電気料金は「タダ」同然になる

――太陽光発電の最大のメリットはなんでしょうか。

飯田さん「太陽光発電は、自然エネルギーによるものですから発電時に燃料を消費しないので、経済的にも化石燃料を節約できます。CO2(二酸化炭素)も排出しないので、地球環境にも優しく、放射能も発生しません。設備機器は中国産かもしれませんが、エネルギーは純国産です。いまや『一番安いエネルギーが太陽光発電である』というのが世界の認識です」

――日本で太陽光発電が進んだ場合、電気料金はどこまで安くなるのでしょうか。

飯田さん「究極的には電気料金は『タダ』同然になります。設備のコストは20年ぐらいですから、いま設置されている設備のコスト負担は10年後ぐらいから徐々に減っていきます。今後、太陽光発電を増設するためのコスト負担は過渡的には増えますが、30年、40年のスパンで捉えていくと、コスト負担はゼロになっていきます。さらに太陽光発電の設備の価格も国際価格に収れんしていくことで、コスト負担の金額も小さくなり、電気料金が『タダ』同然になる日も、近くなっていくでしょう。
つまり、国家レベルでも地方レベルでも、太陽光発電の推進はエネルギー、お金、経済を地域循環できるチャンスといえます。今の日本は、クルマや産業用部品で稼いだお金で、原油や天然ガスを買います。その金額は、GDP(国民総生産)500兆円の5%にあたる25兆円にもなります。現在の化石燃料や原子力へのエネルギー依存の構造であれば、将来、クルマが売れなくなったり、産業用部品が売れなくなったりしても、原油や天然ガスは買い続けなければなりません。エネルギーの自立に走っていかないと、海外との競争で経済的にも不利な状況に陥るのは明らかです。それにもかかわらず、現在の日本は再生可能エネルギーを封じ込めようとしているわけです。せっかくのチャンスを逃していますし、世界から『日本は遅れている』と見られています」

(聞き手 牛田肇)


プロフィール
飯田哲也(いいだ・てつなり)
環境学者
特定非営利活動法人 環境エネルギー政策研究所 所長

京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻修了。国際的に豊富なネットワークを持ち、21世紀のための自然エネルギー政策ネットワーク(REN21)理事、世界バイオエネルギー協会理事、世界風力エネルギー協会理事などを務める。2011年3月の福島第一原子力発電所の事故発生以降は、経済産業省資源エネルギー庁、総合資源エネルギー調査会基本問題委員会委員(~2013年)や内閣官房原子力事故再発防止顧問会議委員(~2012年)、大阪府、大阪市特別顧問(~2012年)など、政府や地方自治体の委員を歴任。日本を代表する社会イノベータとして知られ、自然エネルギーの市民出資やグリーン電力のスキームなどの研究と実践と創造を手がけ、いち早く「戦略的エネルギーシフト」を提言した。
主な著書に「エネルギー進化論」(ちくま新書)、「エネルギー政策のイノベーション」(学芸出版社)、「北欧のエネルギーデモクラシー」、共著に「『原子力ムラ』を超えて ~ポスト福島のエネルギー政策」(NHK出版)などがある。
1959年、山口県生まれ。

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