コラボ商品よりも「露店」が人気!? 廃業寸前のそうめん製麺所がアニメイベントで復活を遂げた話

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「そうめんとアニメのコラボを考えていましたが、『アニメの絵を載せただけじゃ、絶対売れないからな』と言われました」

   徳島の特産品・半田そうめんを作る白滝製麺(つるぎ町)の代表、森岡太悟さん(45)は会社ウォッチ編集部の取材に対し、このように語る。

   約10年前に、妻の実家の製麺所を継いだという森岡さん。赤字続きの経営状況を改善するべく奮闘していたところ、アニメ制作会社「Ufotable」(東京都杉並区)とコラボし、徳島市で年2回開催されるアニメイベント「マチ★アソビ」で販売するチャンスがあると耳にしたという。

   だが、アニメ作品とのコラボはひと筋縄ではいかなかった。期待を込めて説明会に参加するも、Ufotableの近藤光社長からつきつけられたのが、その言葉だった。

   結果的に、白滝製麺は女子高生3人組が四国八十八か所霊場巡りを楽しむメディアミックス作品「おへんろ。」とコラボ。パッケージにキャラクターのイラストが描かれたそうめんを、マチ★アソビや自社のオンラインショップで販売している。

   そうめんとアニメとのコラボ商品は売れたのか――。待っていたのは、ちょっと予想外の結末だった。

  • マチ★アソビの露店で販売したそうめん(左)と、「おへんろ。」コラボ商品(右)(画像は、「白滝製麺」のツイッターより)
    マチ★アソビの露店で販売したそうめん(左)と、「おへんろ。」コラボ商品(右)(画像は、「白滝製麺」のツイッターより)
  • マチ★アソビの露店で販売したそうめん(左)と、「おへんろ。」コラボ商品(右)(画像は、「白滝製麺」のツイッターより)

「絵を載せたら売れると思っていた」

   会社ウォッチ編集部は2021年3月17日、森岡さんを取材。まずは森岡さんが白滝製麺を継いだ時の話をうかがった。

「白滝製麺は妻の父の代から30年くらい続いていますが、廃業するかもしれないという話を聞きました。白滝製麺のそうめんはおいしいなあと思って食べいてたので、このままなくすのももったいないと思いました」

   製麺は体力勝負。先代は当時60半ばで、体力的に製麺を続けるのが厳しくなっていた。

   また、白滝製麺の商品は「お中元」のみ。時代とともにお中元を贈る人が少なくなったこと、高齢で顧客が年々減っていたのも、廃業しようとしていた理由の一つだった。

   引き継いだ時点で赤字経営。業績回復のため、森岡さんはスーパーでの試食販売や売り込みなど、やれることは何でもやったという。

   そんな中で耳にしたのが、「マチ★アソビ」で販売するコラボ商品の話だった。説明会に出席した森岡さんは、同席していたUfotableの近藤社長の様子を、こう振り返る。

「近藤さんの印象は、普段着で面倒くさそうに座っている人がいるなって感じでした。さらに『絵を載せたら売れるという話をしてるけど、それじゃ絶対売れないからな』というようなことを言われて、完全に出鼻をくじかれましたね」

   「絵を載せたら売れると思っていた」と話す森岡さん。半田そうめんと結びつけられるUfotableの作品が思い浮かばなかったということもあり、そのときはコラボに至らなかった。

   風向きが変わったのは数か月後。森岡さんが、「おへんろ。」の記事コラムが徳島新聞に掲載される話を知った後だ。

アニメ会社の前で近藤社長を待っていたら...

「『おへんろ。』は四国が舞台なのでコラボしやすいと思い、近藤社長に提案のメールを送りました。返信が来ましたが、直接これは話したほうがいいと思い、アポイントも取らずに東京に行きました」

   「会社の前で待てばいいと思っていました」と話す森岡さん。偶然にも、近藤さんは時間を待たずして自転車で現れたという。近藤社長は森岡さんのことを覚えており、森岡さんが根気強く意思を伝えた結果、「おへんろ。」と半田そうめんのコラボが実現した。

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白滝製麺代表の森岡太悟さん。「おへんろ。」コラボのパッケージを見せてくれた(画像はZoomのスクリーンショット)

   森岡さんはマチ★アソビでのアニメコラボにこだわった理由を、こう話している。

「通常、お中元の商材は、全国の百貨店の物産展などに参加してリピーターを増やしています。でも、うちはそんなお金もないし、僕が売りに行くとそうめん作る人がいなくなります。
その反面、マチ★アソビは全国・海外からアニメのファンが徳島に集まります。買ってくれた人はアニメのパッケージに興味があったとしても、親世代が食べてまた注文してくれないかなと思います」

   白滝製麺は2014年春のマチ★アソビVOL.12からコラボ商品を販売するようになった。森岡さんのアイデアで、パッケージを長く保存できるように、箱をコーティングする、紙の厚さを丈夫にした。家で食べてもらえるように、パッケージの中にはアレンジそうめんのレシピを入れている。

「Ufotableは動画の作画クオリティが圧倒的に高い会社なので、僕がクオリティの低いものを出して泥を塗ったように思われるのも嫌ですよね。近藤社長が手にしても『これいいな』と言われるような感じにしようと思いました」(森岡さん)

   しかし、売り上げは「予想を下回った」と森岡さんは語る。近藤社長の言うように、現実はそんなに甘くないということだろか。

   ただ一方で、同時に商品のPRとして展開していた露店は予想以上に好評。森岡さんは、その勝因を次のように振り返る。

「そうめんが足りなくなるくらい売れました。通常は200杯売れたら、よくできましたねという感じですが、300~400杯売れたと思います。
コスプレした人がその場でササっと食べれるし、ちょうどよかったんじゃないでしょうか。暖かいけど朝晩寒いみたいな気温だったのも良かったのかもしれません」

「マチ★アソビのそうめんセット」がオンラインショップで好評

   好評だった露店販売で継続して買ってもらえるように、森岡さんはさらなる工夫を施した。数量限定で、タイのこぶ締めや天恵菇(てんけいこ)などを載せた豪華なそうめんを出すと、開始3時間前から行列ができた。一杯ごとにポストカードなどのノベルティを付けるなど、「おへんろ。」ファンが喜ぶ仕掛けも考えた。

「露店の売り上げは伸びてますね。ここ最近は1日で600~700杯とか売れます。クオリティをどこまで上げられるか楽しんでいますね。マチ★アソビでクオリティの高いそうめんを出すことによって、僕自身がすごく勉強できました」(森岡さん)

   そうめんを買うため、今やお客さんは30~40分ほど並ぶように。写真を撮ってツイッターにあげる人も多いため、盛り付けの配置はアルバイトに細かく指示している。

   アニメとのコラボで大切なことを、森岡さんに聞くと、

「お客さんのニーズを理解してないといけないですね。そうめんの味ももちろん大事ですが、来た人は写真を撮るという行為や、アニメコラボの付加価値も楽しみにしています。雰囲気づくりも大事ですよね。売り子もアニメに詳しい人にして、並んでいるお客さんとアニメの話を交わしたりします」

   森岡さん自身、アニメは「見ないほうだった」と話す。しかし、マチ★アソビに出るようになってからは、話題の作品は見る、ゲームをやりこむなど、お客さんに寄り添えるように努めている。

そうめんとは思えないくらい豪華だ(画像は白滝製麺ツイッターより)
そうめんとは思えないくらい豪華だ(画像は白滝製麺ツイッターより)

   コラボの成果が出始めたのか、白滝製麺は2018年ごろから業績が黒字化。20年春は新型コロナウイルスの影響でマチ★アソビvol.24が中止となったため、すだちやわかめを付けたマチ★アソビのそうめんセットを、自社サイトで販売した。

   購入をツイッターで呼びかけたところ、問い合わせが殺到。そうめんセットは、同じくオンライン販売している「おへんろ。」コラボ商品よりも売れたといい、

「マチ★アソビといえばそうめん、と思ってくださっている人が多いことが分かりました。そうめん自体を認めてくださってるのかなと思います」

と、森岡さんは話している。

(会社ウォッチ編集部 笹木萌)

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