2024年 4月 26日 (金)

福島第一原発の事故から10年 小泉環境相がオススメ「100人が語る」本【震災10年】

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   東日本大震災と東京電力 福島第一原子力発電所事故の発生から10年が経過することを契機に、環境省はこれまでの環境再生事業を振り返るとともに、未来志向の環境施策への理解を深めようと、「福島 環境再生 100 人の記憶」を、2021年3月11日に発行した。

   除染や特定廃棄物の処分などの環境再生分野に加え、幅広い分野から福島の復興に携わった 100 人(組)が、震災の苦難や復興への思いを語っている。

   5500部を全国の公立図書館と福島県内のすべての小学校、中学校、高校、大学に寄贈する予定だ。

「福島 環境再生 100 人の記憶」(編著:環境省 環境再生・資源循環局)環境省発行

  • 震災後にはじめて大熊町に戻った住民、佐藤右吉さん(本書より)
    震災後にはじめて大熊町に戻った住民、佐藤右吉さん(本書より)
  • 震災後にはじめて大熊町に戻った住民、佐藤右吉さん(本書より)

中間貯蔵施設の受け入れ決定に悩んだ双葉町長の証言

   本書は、復興に歩む福島県民の姿や原発事故に伴う避難地域の現状、風評被害の課題などに対する理解の醸成につなげるために環境省が企画した。A5判・275ページで、「記憶編」と「資料編」からなる。

   「記憶編」には、除染や特定廃棄物の処分などの環境再生分野に加え、農業、漁業、林業、飲食店、旅館、食品メーカー、まちづくり、教育、震災孤児・遺児支援、子育て支援といった幅広い分野から声を集めた。また「3.11」当時の首長らが対応を振り返っている。

   何人かの声を紹介しよう。

   現在も町域の95%が帰還困難区域に指定されている双葉町の伊澤史朗町長は、「中間貯蔵施設の受け入れ決定が、震災後の取り組みで一番大変でした」と話している。避難生活が継続する中で、さらに追い討ちをかけるように先祖伝来の土地、家屋、財産を手放さなくてはならなかった住民がいたからだ。

   現在は、福島第一原発があった「双葉町と大熊町で除染廃棄物を受け入れるしかなかった」と、ある程度理解する人が増えているという。そして、こう結んでいる。

「国民の皆さんには、犠牲になった人たちがいるからこそ、復興が進んでいることをご理解いただきたい。今後環境省をはじめ国には、減量化と無害化・無毒化した放射性物質への取り組みをしっかり進めてほしいですね」

   仲間4人とともに「株式会社富岡アグリファーム」を立ち上げた猪狩弘道さんは、富岡町で農業の再生に取り組んでいる。避難先のいわき市から富岡町に戻った。昨年(2020年)が2回目の収穫だったが、

「荒れ放題で地力が落ちていた農地だから、今は勉強だという感じでやってます。今年は相当な収穫量上げたいよね。苦労した分だけ報いのあるような農業経営をして、若い人に農業ってのは良いなって思ってもらえるようにしたい」

と抱負を語っている。

「故郷の未来をあきらめたくない」という若い世代の声

   避難先でがんばる人たちがいる。大熊町から転々と福島県内の避難先を移り、2019年にいわき市に居酒屋を出した秋本浩志さん。今まで会うことのなかった人たちとも知り合うことができたという。震災後にいわきに移り住んだ同郷の人、他県から来た人など、たくさんの人との出会いが心の支えになっている。

「震災後に社労士の資格も取得して開業しました。今後もしっかりいわきに根をおろし、二足のわらじで頑張っていきたいと思っています」

   避難先から住民がなかなか戻って来ないことが行政の課題とされているが、秋本さんのように避難先にすっかり根を張り、新たな仕事と生活を始めている人がいることを知り、ほっとする人も少なくないはずだ。

「廃炉の実現に向かっていきたい」と語る遠藤瞭さん(本書より)
「廃炉の実現に向かっていきたい」と語る遠藤瞭さん(本書より)

   若い世代の声も集めている。新潟大学理学部物理学科2年生の遠藤瞭さんは、広野町に開校した福島県立ふたば未来学園高校の2期生。高校の未来創造探求の授業では、「廃炉に向けた合意形成」をテーマに研究した。

   ドイツなど数回の海外研修を含めて原発について考えたという。卒業後ももっと原子力について勉強しようと大学は理学部を選んだ。「故郷の未来をあきらめたくない。廃炉の実現に向かっていく」と語る。

   また、福島県立ふたば未来学園高校を平成31(2019)年に卒業した、志賀瑚々呂さんと鶴飼夢姫さんは、現在大学1年生と専門学校1年生。未来創造探求の授業では、「双葉郡の漁業の風評被害の払拭」をテーマに研究した。

   地元の木戸川産のサケを使ったフレークを商品化した。「この鮭フレークから双葉郡の漁業再生を感じてもらえたらと思います」と話している。

環境省の「新たな誓い」

「資料編」では、東日本大震災の発生から現在に至るまでの福島の環境再生事業の歩みを資料やデータ、事業の担当者のコラムとともに紹介している。除染、中間貯蔵、特定廃棄物の処理といった環境再生に向けた取り組みから、環境の観点から地域の強みを創造、再発見する「福島再生・未来志向プロジェクト」まで、福島の環境再生のこれまでとこれからがわかる。

   環境省は、

「福島の復興は、まだ道半ば。引き続き、環境再生事業を安全かつ着実に進めていくとともに、中間貯蔵施設に保管する除去土壌等を搬入開始から30年後となる2045年までに福島県外で最終処分するという約束の達成に向けて取り組まなければならない」

としている。

   本書の刊行は、その決意を新たにするものだ。

   最後に、小泉進次郎環境相がこんな言葉を寄せている。

「みなさんに、ご紹介したい本があります。『福島 環境再生 100人の記憶』です。この本に登場する岡本全勝さんという復興庁のトップを務めたられた方の言葉です。
『〈福島を支援します〉と言ってはいけない。〈支援〉ではなく、〈責任を果たす〉でしょ。津波被災地での復興は支援でも、原発被災地の復興は責務です。これは忘れてはならない基本です』
この言葉は本当に重いと思います。私は環境大臣としても、環境大臣ではなくなったとしても、一個人としてもこの責務を果たしていきたいと思いますし、みなさんも機会があったら、ぜひ本をめくってみてください」

   なお、本書の全ページを環境省のこちらのウェブサイトで無料公開している。

(渡辺淳悦)

「福島 環境再生 100 人の記憶」
編著:環境省 環境再生・資源循環局

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