2024年 4月 17日 (水)

汚染水放出を切り札「反日カード」にした文大統領が墓穴! 韓国政府は「問題なし」と結論【日韓経済戦争】(1)

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   また、泥沼の日韓の対立が始まるのか――。

   日本政府は2021年4月13日、東京電力福島第一原子力発電所でたまり続ける汚染水を浄化した処理水の海洋放出を決めた。2年間の準備期間を経て放出が始まるが、日本国内の反対を上回りかねない勢いで激怒しているのが韓国だ。

   早くも激しい「反日運動」が始まったが、文在寅(ムン・ジェイン)大統領は政権浮揚の切り札に処理水問題を利用しているフシがあるという。

   韓国紙で読み解くと――。

  • 処理水問題を「反日カード」にした文在寅大統領
    処理水問題を「反日カード」にした文在寅大統領
  • 処理水問題を「反日カード」にした文在寅大統領

外交儀礼無視で日本大使に頭を下げさせた文大統領

   日本政府が明らかにした福島第一原発の処理済み汚染水の海洋放出を、日本国内を含めて世界で一番怒っているのは、ひょっとしたら韓国の国民かもしれない。

   日本政府が処理水の放出を発表した2021年4月13日、方針決定の2、3時間後にはソウル市の日本大使館前は環境団体の抗議集会で埋まった。

   文在寅(ムン・ジェイン)大統領政権の日本政府に対する抗議の動きも早かった。1週間前の4月7日に実施されたソウル、釜山両市の市長選挙では、いずれも最大野党「国民の力」の候補に惨敗。日本でいえば、東京と大阪の知事選をダブルスコアで敗れたような大ピンチだ。

   文政権を巡っては、不動産政策の失敗や文氏側近らの疑惑などで国民の批判が高まり、支持率が過去最低の30%にまで急落。2022年3月の大統領選が危ぶまれる政権のレームダック(死に体)化が始まった。

   そこで切り札となったのが、文政権お得意の「反日カード」、福島処理水放出問題というわけで、朝鮮日報(4月15日付)「文大統領『日本の原発汚染水放出、国際海洋裁判所提訴を検討せよ』日本大使に会い、『懸念、非常に大きい』」が、文大統領の外交儀礼を無視した日本への「怒りの表現」を伝えている。

   ただし、ここで断っておくと、福島第一原発から放出される液体を日本メディアはほとんどが「処理水」と表現している。これは、日本政府が「処理水の処分に関する基本方針」などの公的文書で「処理水」と表記しているからだ。しかし、韓国メディアはほとんどが「汚染水」とストレートに表現している。

   朝鮮日報がこう伝える。

「文在寅(ムン・ジェイン)大統領は4月14日、信任状捧呈のために青瓦台(大統領府)を訪れた相星孝一駐韓日本大使に『日本の原発汚染水の海洋放出決定について、地理的に最も近く、海を共有する韓国の懸念は非常に大きい。本国によく伝えてほしい』と述べた。日本など3か国の大使から信任状を受け取った後の歓談で、『この言葉を申し上げないわけにはいかない』として、原発汚染水放出問題を取り上げたのだった」

   信任状捧呈式とは、着任した大使が、派遣元の元首(この場合は日本の天皇)から託された信任状を、派遣先の元首(文大統領)に提出する儀式だ。朝鮮日報も、こうビックリしている。

「通常、儀礼的な言葉を交わすあいさつ的な性格の外交行事で、駐在国の首脳が特定国との間でもつれている敏感な懸案を取り上げて懸念を表明するのは、外交的に珍しいことだ。青瓦台の報道官も『信任状捧呈式の歓談でこのような発言をするのは極めて異例だ』と言った」

   そして、記念撮影では相星孝一駐韓日本大使が文大統領に恭しく頭を下げて、信任状を捧げるシーンが撮られ、その写真が「文大統領、日本に抗議」という見出しとともに、韓国メディアに踊ったのだった。まるで、日本大使が謝っている構図だ。

日本の8県の水産物が輸入禁止なのに、それ以上何を?

   この日、文大統領は、日本の原発汚染水の海洋放出決定に抗議するため、国際海洋法裁判所に提訴するよう指示を出した。国際海洋法裁判所の判断が示されるまでには数年以上かかる。日本が海洋放出をするのは2年後だから、間に合わない。そこで文大統領は「暫定措置」の提出を命じたのだった。「暫定措置」とは一種の仮処分申請のこと。国際海洋法裁判所の最終判断が出るまで放出を防ごうというわけだ。

   さらに、日本産の水産物に対する矢継ぎ早の厳しい規制措置がとられることになった。聯合ニュース(4月13日付)「海洋放出決定 『海洋保護・水産物の安全を徹底管理』」が、こう伝える。

「韓国政府の朴俊泳(パク・ジュニョン)海洋水産部次官は4月13日、日本政府が汚染水を海洋放出する方針を決めたことに関連し、『海洋環境保護と水産物の安全管理を中心に必要な措置を尽くす計画だ』と明らかにした」
相星孝一駐韓日本大使が頭を下げる「記念撮影」を報じる聯合ニュース(4月14日付)
相星孝一駐韓日本大使が頭を下げる「記念撮影」を報じる聯合ニュース(4月14日付)

   じつは、韓国政府は2011年に東京電力福島第一原発事故が発生して以降、放射能汚染の危険があるとして、日本の水産物や農産物の大幅な輸入禁止措置を続けているのだ。具体的には、福島県に近い8県(青森、岩手、宮城、福島、茨城、栃木、群馬、千葉)の水産物のすべてを輸入禁止。そして、さらに14県(青森、岩手、宮城、福島、茨城、栃木、群馬、千葉、神奈川、長野、埼玉、山梨、静岡、新潟)の27品目の農産物の輸入禁止を続けている。

   それ以上何をしようというのか。聯合ニュースはこう続ける。

「日本に寄港した船舶が、日本の海域でバラスト水(船舶のバランスを保つためタンクに入れる海水)を載せて韓国に入港するケースについても、バラスト水に混じった汚染水が海に直接排出されないよう徹底的に管理する。また、8県からの水産物を輸入禁止しているが、他の地域からの水産物についても徹底的に放射能検査を行う。これまでの検査は(1回)30分だったが、1時間40分に増やす」

といった案配だ。

産経新聞の記事「韓国なんかに」が火に油を注ぐ

   韓国国民のあいだでも、日本産の水産物に対する不買運動が広がりそうだ。韓国メディアがさっそく大手スーパーを取材すると、意外な反応が返ってきた。聯合ニュース(4月13日付)「韓国小売り大手 日本産水産物『10年前から扱わず、今後も売らない』」が、こう伝える。

「イーマートやロッテマートなどの韓国の大手スーパーでは2011年に福島第1原発事故が発生して以降、放射能汚染への懸念が高まったことを受け、日本産の水産物を販売していない。ロッテ百貨店や新世界百貨店など大手デパートでも同様で、今後も扱わないと明言した。原発事故以前は、タチウオ、スケソウダラ、タイ、サンマ、ホタテなど国内で消費が多い水産物の多くが日本産だった。
しかし、今後も日本産の水産物を販売する可能性はないと説明。大型スーパーでは、政府が実施している輸入水産物の放射能検査とは別に、独自に検査を行っている。日本政府が汚染水の海洋放出を決定したことを受け、検査をさらに強化する方針であることがわかった」

   韓国内でも特に激怒しているのが、日本海に近い済州道(チェジュド)の水産業界の人々だ。ハンギョレ新聞(4月14日付)「済州の水産業界『日本の汚染水海洋放出決定を糾弾』... 集会を予告」が、抗議運動をこう報じる。

「韓日海峡と隣接した済州道の水産業界が集団行動を予告するなど、糾弾の声が高まっている。済州道漁船主協会や済州市漁船主協会などは4月16日、済州市の日本総領事館前で、汚染水の海洋放出決定を糾弾し撤回を求める集団行動に入る。これと共に、済州道内のさまざまな水産関連団体や機関による糾弾が相次ぐ見込みだ。
ウォン・ヒリョン済州道知事も4月14日、国会で記者会見を開き、『海を共有した隣国と国民に対する暴挙であり、厳重に糾弾する。韓国の緊急かつ正当な要請にもかかわらず、日本政府が一方的に海洋放出を行った場合は、法的対応に入る』と警告した。ウォン知事はこれと共に、『済州をはじめとする釜山や慶尚南道、蔚山、全羅南道の5つの地方自治体が汚染水阻止対策委員会を構成し、強力かつ効果的な対応を始める』と明らかにした」
日本大使館前の抗議運動を報じるハンギョレ新聞(4月14日付)
日本大使館前の抗議運動を報じるハンギョレ新聞(4月14日付)

   再び、「反日運動」が激化するのだろうか。こうした韓国内の怒りに火に油を注いだのが日本の産経新聞の報道だった。中央日報(4月15日付)「日本政府高官、汚染水放出批判に『韓国なんかには言われたくない』」が、こう伝える。

   「日本政府高官が汚染水海洋放出の決定に関連し、『中国や韓国なんかには言われたくない」という趣旨の発言をしていたと、4月14日、産経新聞が伝えた。加藤勝信官房長官が13日の記者会見で「中国、韓国を含む外国政府、国際社会に理解を得ていくよう努めていくことは大変重要だ」と述べた発言を紹介した際に、別の高位官僚が「中国や韓国なんかには言われたくない」と憤慨したと報じたのだ。

   これは、産経新聞(4月14日付)の「政府、中韓の懸念に反論」という見出しの記事にある政府高官の発言だ。「中国、韓国も含む世界中の原子力施設で、トリチウムが含まれる液体廃棄物を放出しているではないか」という文脈の中での政府高官の憤りだった。

   また、与党公明党の山口那津男代表は記者会見で、韓国と中国の批判に対し、「科学的根拠に基づいたものとは言えない。感情的で他の思惑が絡まった主張は受け入れがたい」と発言したことや、麻生太郎財務相が「飲んでも何てことはないそうだ」と話したことなどが伝えられ、韓国のネット上でも怒りを買っているのだった。

(福田和郎)

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