2024年 4月 18日 (木)

航空決算、コロナ禍で空前の赤字 ANAとJAL、急回復の「頼みの綱」はワクチン接種

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   全日本空輸(ANA)を傘下に置くANAホールディングス(HD)、日本航空(JAL)の2大エアラインの2021年3月期決算は、そろって空前の赤字を記録した。

   新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で最もダメージを被った業種の一つだけに、厳しい結果になったが、22年3月期は旅客が戻ることなどを見込んで黒字転換も目論む。多くの従業員を他社に出向させるなどして固定費の削減に努める非常事態の下、需要回復の前提が崩れる恐れもあり、薄氷を踏むような厳しい状況が続く。

  • コロナ禍で厳しい経営状況が続くANAとJAL
    コロナ禍で厳しい経営状況が続くANAとJAL
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JAL、再上場後で初の赤字

   ANAホールディングス(HD)と日本航空(JAL)、両社の21年3月期連結決算をみてみよう。

   ANAHDが4月30日に発表した2021年3月期決算は、売上高が前期比63.1%減の7286億円、最終(当期)損益は4046億円の赤字(前期は276億円の黒字)と、過去最大の赤字だった。

   コロナ禍にあって、海外の渡航規制や国内の緊急事態宣言などで、国際線の座席利用率は19.6%、国内線は43%と採算ラインの6割を大幅に割り込んだ。旅客数は、国際線が95.5%減と需要の「蒸発」といえる状況になり、国内も70.5%減った。

   旅客収入は国際線92.7%減の447億円、国内線70.1%減の2031億円。機材整備費や人件費など約5900億円のコスト削減に努めたが、追いつかなかった。

   JAL(5月7日発表)は、売上高が前期比65.3%減の4812億円、最終損益は2866億円の赤字(前期は480億円の黒字)と、2012年の再上場後で初の赤字になった。旅客数は、国際線96.0%減、国内66.5%減、旅客収入は国際線94.3%減の279億円、国内線67.2%減の1740億円と、ANAと同様の落ち込みになった。

   このように、厳しい結果ではあるが、一時よりは復調しているのは事実。ANAHDは20年10月時点で5100億円の赤字、JALも21年2月時点で3000億円の赤字と予想しており、それぞれ1050億円、130億円、赤字幅が縮小している。

ANA、海外貨物は好調

   問題は今期(2022年3月期)以降だ。

   ANAHDは売上高が前期比89%増の1兆3800億円、最終損益は35億円の黒字になるとの見通しを示している。前提は、(1)国内線は7月以降に旅客数が回復し、期末におおむね新型コロナウイルス感染拡大前の水準に戻る(2)国際線は期末時点でコロナ禍前の5割程度に回復(3)通期の旅客数は国内線がコロナ前の19年の年間に比べて2割減、国際線が7割減(4)国際貨物の売上高は前期比23%増の1970億円と過去最高になる――など。貨物については新たな貨物便を米ロサンゼルスに就航させるなど、すべての貨物専用機を需要が旺盛な成田空港の発着路線とし、事業の拡大を目指す。

   JALは今期の業績見通しの開示を見合わせた。合理的な数値の算出が困難なためとしていて、国内外の感染状況やワクチン接種の進捗などから、航空旅客需要の回復が一定程度見極められた段階で、速やかに業績予想を示すとしている。

   その代わりというわけではないが、26年3月期まで5年間の中期経営計画を決算と併せて発表した。最初の3年は、コロナ禍からの再生の期間と位置づけ、続く2年に再び成長に向けて投資を拡大していくとして、5年後に1850億円規模の黒字を目標に掲げた。

   具体的には、コロナ禍が収束してもテレワークの浸透などでビジネス客は完全には回復しない一方、観光は回復するとして、観光に強い格安航空会社(LCC)の強化を打ち出したのが最大のポイント。6月に中国資本の春秋航空日本(千葉県成田市)への出資比率を5%から51%超に引き上げて子会社化し、出資しているジェットスター・ジャパン(同)、完全子会社のジップエア・トーキョー(同)と合わせLCC3社の売上高を26年3月期には現状の2倍にする計画だ。

ANA、2021年夏冬の一時金をカット

   旅客がどんなペースで回復するか、なかなか見通せないなか、当面はいかにコスト削減を続けながら、新たな収益源を見つけるかという「守りの経営」を強いられる。

   経費圧縮へ両社が取り組むのが出向だ。ANAHDは約200の企業・団体に約750人、JALも約130の企業・団体に約1700人のグループ従業員を出向させている。ANAHDは21年の夏と冬の一時金ゼロを労組に提案していることも明らかになっている。雇用維持のため、賃金カットを含む厳しいコスト削減を続けるしかない。

   一筋の光ということでは、世界経済の持ち直しで半導体や自動車関連部品などを中心に航空貨物の運賃がアップするなど、旅客よりひと足早く回復基調に入った。両社は機内食や国際線ラウンジのメニューの外販といったさまざまな増収策を進めてもいる。が、どれも本業の落ち込みをカバーするにはほど遠い。

「航空需要は新型コロナのワクチン(の接種率)に連動して回復する」

   ANAHDの片野坂真哉社長は、決算発表の場で述べたとおりだろう。

   国際航空運送協会(IATA)は21年の「旅客キロ数」(旅客数×飛行距離)の見通しを世界平均で19年の43%とし、ワクチン接種が進む北米は59%まで回復する一方、ワクチンが遅れる欧州、アジア太平洋、中東は4割前後にとどまるとしている。ワクチン接種に手間取る日本で、航空2社の黒字化の道に垂れ込める暗雲は、簡単には晴れそうもない。(ジャーナリスト 済田経夫)

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