2024年 4月 25日 (木)

朝日新聞が「謀反」?「五輪中止」社説に海外メディアが「待っていました!」と飛びついた(井津川倫子)

   とうとう日本のメディアから「五輪中止」の声が! 朝日新聞が2021年5月26日付の紙面で「夏の五輪 中止の決断を首相に求める」と題した社説を掲載し、大きなインパクトを与えています。

   海外の主要メディアが相次いで、この社説を速報。瞬く間に数か国語に訳されて世界中に広がりました。まるで「待っていました!」と言わんばかりの海外メディアの反応はちょっと予想外なほどで、まるで「東京五輪、終わりの始まり」になりそうな様相を帯びてきました。

   果たして、強気発言を繰り返すIOC(国際オリンピック委員会)は、どう世論に向き合うのか。もしかしたら、今回の朝日新聞の社説は、歴史的な「引き金」になるかもしれません。

  • 東京五輪・パラリンピックは開催できるのか?(写真は、新国立競技場)
    東京五輪・パラリンピックは開催できるのか?(写真は、新国立競技場)
  • 東京五輪・パラリンピックは開催できるのか?(写真は、新国立競技場)

オフィシャルスポンサーから「五輪中止」のインパクト

   朝日新聞は社説で、新型コロナウイルスの感染拡大が止まらないことなどに触れ、

「この夏にその東京で五輪・パラリンピックを開くことが理にかなうとはとても思えない」

   「冷静に、客観的に周囲の状況を見極め、今夏の開催の中止を決断するよう菅首相に求める」と訴えました。

   ちなみに、この日の社説は、業界では「一本社説」と呼ばれるもので、通常は2つの記事が掲載されるスペースに1つの記事だけを載せる「特別バージョン」でした。新聞社が強く主張をしたい時に用いる手法のようです。

   そんな朝日新聞の「気合」が通じたのでしょうか? 海外メディアが次々と反応しました。

Influential Japan Newspaper Calls For Olympics Cancellation
(影響力のある日本の新聞が東京五輪の中止を求めた:ブルームバーグ通信社)

   ブルームバーグは記事の中で、「もっとも影響力があり、オフィシャルスポンサーでもある朝日新聞」が東京五輪中止を訴えたことは、「the latest blow for an event」(イベントにとって最新の打撃だ)と伝えています。

Major Japan newspaper Asahi calls for Olympic cancellation
(日本の主要新聞の朝日新聞がオリンピック中止を求めた:AP通信)

   AP通信も「日本の主要紙である朝日新聞」が五輪中止を表明したことを強調する見出しですが、「日本の全国紙で初めて反対を表明した」ことや、社説の中で「緊急事態宣言下でも五輪を開催する」と発言したIOC幹部に対して「self-righteous」(独善的だ)と批判したことも報じていました。

   大胆な見出しで目を引いたのは、シンガポールの新聞ザ・ストレーツ・タイムズ紙です。「axe」(斧)を振り下ろせ、といったニュアンスを込めて報じています。

Asahi urges axing of Olympics
(朝日新聞がオリンピックを切れ、と訴えた)

   海外メディアはこれまでも、世論調査では7割、8割の国民が今夏のオリンピック開催に反対していることや、専門家である医師団体から反対の声が上がっていることを伝えてきましたが、日本を代表する新聞社がはっきりと「中止を求める」と主張したことのインパクトは想像以上に大きかったようです。

   皮肉なことに、東京五輪・パラリンピックのオフィシャルスポンサーである朝日新聞社が「中止」を主張したことが、かえって説得力を増したようです。イタリアのメディアは、朝日新聞の社説は、国民や医師団体、孫正義氏や三木谷浩史氏といった国際的ビジネスマンたちの行動に続くもので、「Japan in revolt」(日本で謀反)と伝えています。

   オフィシャルスポンサーの朝日新聞が起こした「謀反」が流れを変えるかもしれません。

じつはIOCは「打たれ弱い」?

   「五輪中止」を訴えた朝日新聞の社説は波紋を広げているようで、掲載当日のTwitterのトレンドワードランキングでは、一時「#東京五輪中止」が1位に躍り出ました。海外からの注目も高まるなか、IOCや関係者たちはどう対応していくのでしょうか?

   最近でも、IOCの最古参メンバーのディック・パウンド委員は、英紙の取材で「アルマゲドン(人類滅亡)が起きない限り開催される」と発言するなど強行姿勢を貫いている、と報じられています。

   さらにバウンド氏は、ロイター通信の取材で、東京五輪・パラリンピック開催への批判は「(総選挙を控えた)政治的なポーズ」との見方を示して、予定どおり開催すべきだと強調したようですが、果たして、IOCはこのまま強行姿勢を貫くことができるのでしょうか?

   私見ですが、「強気一辺倒」のIOCに、最近は「打たれ弱さ」が見え隠れしている気がしています。物議をかもしているバッハ会長の「犠牲は必要」発言や、コーツ調整委員長の「緊急事態宣言下でも五輪は開催する」発言は、あまりにも世間の感覚とズレていて、言えば言うほど反感を買うばかり。日本国内だけでなく海外メディアの批判も高まる一方でしょう。

   それでは、「今週のニュースな英語」「blow」(打撃)を使った表現を取り上げます。

That's a blow for Olympics
(オリンピックにとって打撃だ)

That's a major blow for Olympics
(オリンピックにとって大打撃だ)

That's a severe blow for Olympics
(オリンピックにとって深刻な打撃だ)

That's a terrible blow for Olympics
(オリンピックにとってひどく打撃だ)

   東京五輪開催まで2か月を切るなか、ジワジワと追い詰められたIOCが「とんでもない失態」をするかもしれません。少なくとも、IOCや関係者が強行路線を修正しない限り、メディアとの戦いに火ぶたが切られたようです。

   ますますメディアから目が離せなくなってきました。(井津川倫子)

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井津川倫子(いつかわりんこ)
津田塾大学卒。日本企業に勤める現役サラリーウーマン。TOEIC(R)L&Rの最高スコア975点。海外駐在員として赴任したロンドンでは、イギリス式の英語学習法を体験。モットーは、「いくつになっても英語は上達できる」。英国BBC放送などの海外メディアから「使える英語」を拾うのが得意。教科書では学べないリアルな英語のおもしろさを伝えている。
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