2024年 4月 19日 (金)

「東洋経済」が「商社の大転換」を、「ダイヤモンド」はパナソニックを大特集【ビジネス誌 読み比べ】

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   「週刊東洋経済」「週刊ダイヤモンド」「週刊エコノミスト」、毎週月曜日発売のビジネス誌3誌の特集には、ビジネスパースンがフォローしたい記事が詰まっている。そのエッセンスをまとめた「ビジネス誌読み比べ」をお届けする。

   「週刊東洋経済」(2021年6月5日号)は、「最新序列と激変するビジネス 商社大転換」という特集を組んでいる。5大商社のトップインタビューのほか、三菱商事では「脱炭素」、伊藤忠商事では「デジタル化」、三井物産では「宇宙」というテーマで、商社の変化をリポートしている。

  • 週刊東洋経済は「商社」を大特集!
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初の商社トップに浮上した伊藤忠商事

「週刊東洋経済」(2021年6月5日号)
「週刊東洋経済」(2021年6月5日号)

   冒頭で、5月下旬に出そろった5大商社の2021年3月期決算で明暗が分かれたことを指摘している。

   業界の盟主と言われた三菱商事は、豪州原料炭事業の不振やローソンの減益などで純利益1725億円と前年同期比7割弱の大幅減となり、4番手に陥落した。住友商事はアフリカのニッケル鉱山をはじめとする複数大型案件の減損損失で、過去最大となる1530億円の最終赤字に転落。一方、かつて万年4位といわれた伊藤忠商事が純利益と時価総額で初の商社トップに浮上。序列が大きく変わった、としている。

   商社はこれまでトレーディングから事業投資へ、そして資源から非資源へと転換を進めてきたが、3度目の大転換はあるのか、と商社ビジネスの最前線を追う内容だ。

   純利益、株価、時価総額の3つで商社トップになる「3冠」を達成した伊藤忠商事の岡藤正広会長CEOのインタビューがめっぽうオモシロイ。業界トップになった今こそ、気を引き締めなければならないという。

「業績がよくなると、すぐ慢心してずっこけるのが伊藤忠。財閥系へのコンプレックスから、何の戦略もなしにイケイケどんどんでやって失敗することの連続や」

   次の投資先を尋ねられ、「考えはあるけど、言われへん。今タイミングを待っている」とはぐらかした。さらに、「やっぱり日本がいちばんやりやすいわ。なんかグローバルが大事みたいなこと言うとるけど、どこで儲けようとカネは一緒やろ。日本でビジネスモデルを固めて、その延長線上で海外をやるのがええ」と、国内ビジネスへの関心を語っている。

   その伊藤忠商事に関するリポートでは、ファミリーマートへの巨額投資で非上場化し、再生を図る戦略を深掘りしている。そのカギとなるのが「デジタル化」だ。

   1日1500万人の顧客が訪れるファミマ店舗をデータ収集と活用の基盤とする。ファミマを用いての新たな収入源として期待されるのが、広告と金融の領域だ。しかし、新規事業も「ファミマの本業がおぼつかないのでは絵に描いた餅にすぎない」とし、「単なる商品供給以上の機能をいかに発揮するか、伊藤忠の底力が試されている」と結んでいる。

三菱商事は「脱炭素」、三井物産は「宇宙事業」に投資

   トップから4位に転落した三菱商事。資源部門が逆風になっても、機械や食料などの非資源部門がしっかりと支えるというポートフォリオで首位を走ってきたが、全方位の収益低下で、その方程式が崩れてきた。そこで、デジタル領域とエネルギー分野で一体となった取り組みを進めている。その象徴が電力分野だ。再エネ発電容量を倍増する計画を進めており、洋上風力発電に照準を定めている。

   欧州でのプロジェクトに参画し、ノウハウを積み上げてきた。2020年3月には、中部電力と共同で、オランダの再エネ企業、エネコを約41億ユーロ(約5000億円)で買収。そのノウハウを吸収しようとしている。

   三菱商事の垣内威彦社長は「脱炭素は全社一丸のテーマ」だと語っている。

   業界3位が定位置だった三井物産は、2021年3月期決算で、純利益はコロナ禍の影響で前期比14%減の3354億円だったが、伊藤忠に次ぐ2位となった。業績浮上の原動力となったのが最近の資源高だ。鉄鉱石や原油、天然ガスなどの資源事業が稼ぎ頭になっている。

   そのため業界で「資源一本足打法」と揶揄されてきた。現在の市況高がいつまで続くのか分からないので、非資源事業の拡大を急いでいる。

   その種まきの一つが宇宙事業だという。莫大な開発費を投じるロケット開発ではなく、人工衛星を宇宙に運ぶ橋渡し役だ。「人工衛星のライドシェア」を行う米企業をパチスロメーカーで航空機リースも手掛ける山佐と共同で買収。事業リスクも低く、着実に利益を上げることができる、と見ている。

   過去最大の赤字に転落した住友商事。唯一黒字を出したのがメディア・デジタル部門だ。利益の中核をなすのがKDDIと折半出資する国内最大のケーブルテレビ(CATV)事業者であるジュピターテレコム(J:COM)。

   次世代通信5Gの普及によって、有線の優位性が崩れる恐れがある。しかし、5Gの展開には、その後ろに有線回線の整備が必要なため、CATV事業者には強みもある。住友商事は5G事業を新たな収益拡大の機会にしようとしている。とくに工場や商業施設など限定されたエリアで展開する「ローカル5G」では、商社の中で唯一、免許を取得。実証実験も行った。

   また、純利益で3位に躍り出た丸紅は、大型投資の失敗を反省し、代替タンパクなど「未来の食」に布石を打っている。大豆からつくる植物肉に注目。国内の植物肉スタートアップ、DAIZ社に出資し、米国進出に向けたマーケティングを共同で行うことで同意した。

   丸紅の柿木真澄社長は「1個の大型案件より、100個の稼ぐ案件」と語り、小粒でもいい事業をそろえようという方針だ。

   特集のパート2では、「ますます際立つ商社の社風と実力」をキャラで分析したり、匿名の座談会を開いたりしている。商社希望の就活生なら必読の特集だ。

パナソニックは解体するのか?

「週刊ダイヤモンド」(2021年6月5日号)
「週刊ダイヤモンド」(2021年6月5日号)

   「週刊ダイヤモンド」(2021年6月5日号)は、「パナソニック 名門電機の解体」というショッキングな見出しを掲げた特集を組んでいる。「解体」とは何を意味するのか。

   パナソニックは来年4月の持ち株会社体制移行を踏まえ、今年10月に組織改編を実施する。6月末に就任する楠見雄規次期社長体制が始動するのだ。

   21年3月期決算で売上高は7兆円の大台を切り、純利益は1651億円と、ソニーグループのわずか7分の1にとどまった。津賀一宏社長の失政を指摘している。

   組織改編では、4つの主要事業会社と3つの問題事業会社に分類され、「自主責任経営」が求められる。そして、「津賀氏以上に合理的で冷徹といわれる楠見氏ならば、解体も辞さずに事業会社の自主責任経営を徹底することだろう。事業の身売り・撤退が加速しそうだ」と書いている。

   テレビ・デジタルカメラが主軸の黒物家電事業とハウジング事業、航空機内AV機器事業、車載機器事業などが対象と見ている。

   また、「自主責任経営」という表テーマのほかに、裏テーマである「呪縛の撲滅」も組織改編の狙いだという。パナソニックの「呪縛」とは何か?

   事業部の縦割り、内向き志向の組織、人事の硬直化だと指摘している。そして、最大の事業会社となるパナソニック株式会社の社長など、幹部人事の刷新が、手っ取り早い「呪縛の撲滅」だとしている。

   パート2では、旧態依然とした組織・制度が残る白物家電部門は、パナソニックの「伏魔殿」として、その「解体」を取り上げている。そのカギになりそうなのが、世界最大のサプライチェーンソフトウェア企業である米ブルーヨンダーの買収だ。総額71億ドル(約7700億円)とパナソニックにとって過去最大級の買収となった。「ハード傾注体質」という名の病巣に本気で切り込もうとしている、と見ている。

   車載機器を担当する「自動車事業会社」の劣勢を挽回する秘策として、「テスラ電池」を分社して上場させる方法を提案している。そのタイミングは今しかない、とも。

   また、パナソニックとトヨタ自動車が住宅・電池事業の合弁会社を作ったが、問題事業の押し付けにトヨタが激怒している、と書いている。そして、パナソニックは住宅の「借り」を車載電池事業で「返す」ことになると予想している。

   このほか、ソニーや日立との「事業再編度」に格差があることや、特許の出願件数で「将来の飯の種」である技術的な基盤づくりで劣勢にあることを指摘している。

   巨大企業、パナソニックで今何が起ころうとしているのか、さまざまな角度から迫っている内容だ。

   特集2は「課長は理解必須! キャッシュフロー・マネジメント術」。矢部謙介・中京大学教授が、授業形式で解説している。「利益の出し方」が一発で分かる図があった!、製造業にありがちな「作るほど儲かる」の罠? など、実践的な内容だ。「その事業はキャッシュという観点から見て、自社の身の丈に合ったものなのかどうか」を検討するようにと、矢部教授は結んでいる。

「エコノミスト」は半導体の成長を特集

「週刊エコノミスト」(2021年6月8日号)
「週刊エコノミスト」(2021年6月8日号)

   「週刊エコノミスト」(2021年6月8日号)の特集1は、「半導体 異次元の成長」。冒頭で津村明宏氏(電子デバイス産業新聞編集長)の「半導体は年率6%成長に 巨大投資計画が目白押し」という論考を載せている。

   コロナ禍に伴う社会の変化でデジタルトランスフォーメーション(DX)が本格的に進展し始めたのに加え、米中の覇権争いによって、半導体が「戦略物資」となったからだ。

   現在約4700億ドルである世界の半導体市場は2025年に6000億ドルを超えるという英調査会社の予測を紹介している。

   コロナ禍で半導体の需要が急増したため、自動車向けなど一部の用途で半導体が供給不足になっている。それを解消するため、主要半導体メーカーによる巨額の増産計画が進む。海外メーカーに加え、日本メーカーも動きを活発化させている。

   ソニーグループは一時凍結していたCMOSイメージセンサーの増強投資を復活。21年度から約7000億円を半導体への設備投資に充てる。4月に稼働させた長崎テクノロジーセンターを増強、CMOSイメージセンサーの収益を向上させる。

   日本が世界的に高いシェアを持つ電力制御用のパワー半導体でも増産が進みそうだ。富士電機、三菱電機、東芝、ロームなどの動きを紹介している。

   また、豊崎禎久氏(アーキテクトグランドデザイン・チーフアーキテクト)の「産業の主役は自動車から半導体へ スマートシティで力を結集せよ」という論考も刺激的だ。日本の生きる道はそこだというのだ。年初から続く自動車向けの半導体不足は、自動車産業と半導体産業の「主客逆転」を示唆した象徴的な現象だ、とも。

   自動車メーカーの無理難題の押し付けが、日本の半導体メーカーを疲弊させた、とまで書いている。日本の半導体産業の再興は手遅れだが、TDKや村田製作所、日本電産、オムロン、ロームなどのセンサーメーカーはスマートシティで必要となるセンサーにおいて、世界的な強みがあるという。その特定分野では中国より強いというのだ。

   第2部「半導体と国家」では米国、台湾、中国、韓国の半導体産業の最前線を紹介している。「台湾は半導体に守られている」というジャーナリスト、野嶋剛氏の指摘が興味深い。台湾の半導体受託製造企業、TSMCは、台湾の安全保障に直結する盾だという。「半導体が強くなければ、米国も台湾を大切にせず、中国は台湾にもっと圧力をかけるだろう」と指摘。

   先の豊崎氏もTSMCの工場を日本に誘致するのが、日本の半導体産業を再興する有効な手段、と書いている。今年2月、同社は茨城県つくば市に研究所を作ることを決めたというから、まんざらの夢物語でもないだろう。

   世界の先端を走っていた日本の半導体産業は、すっかり没落してしまった。その再興は容易ではないが、道筋があることを示した貴重な特集だと言えよう。(渡辺淳悦)

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