2024年 4月 24日 (水)

尾身茂会長「菅首相は東京五輪開催の説明責任を果たせ!」専門家集団が同時多発反乱(1)

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「なぜ今、東京五輪を開かなければいけないのか。菅義偉首相は国民が納得できるよう丁寧に説明すべきだ!」

   政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長から、こんな発言が飛び出した。

   政府分科会では「有志」が東京五輪の危険性を科学的に評価する提言を出す。厚生労働省の助言機関「アドバイザリーボード」も同様の提言を出すという。

   これまで政府の追認に終始してきた専門家集団が「同時多発反乱」の狼煙をあげた。ネットでは「遅すぎるが、勇気ある行動を歓迎する」というエールが巻き起こっている。

  • 尾身茂会長に「開催の意義を丁寧に国民に説明しろ」と言われた菅義偉首相
    尾身茂会長に「開催の意義を丁寧に国民に説明しろ」と言われた菅義偉首相
  • 尾身茂会長に「開催の意義を丁寧に国民に説明しろ」と言われた菅義偉首相

「パンデミックで開催するのは、普通はない」

   政府のコロナ対策分科会の尾身茂会長は2021年6月2日、衆院厚生労働委員会と内閣委員会に立て続けに出席、東京五輪・パラリンピック開催について、野党議員から「この感染が急拡大している状況で東京五輪は開催できるのか。専門家として意見を聞きたい」と質問を受けた。

   主要メディアの報道をまとめると、こう発言したのだった。

「今のパンデミックの状況で開催するのは、普通はない。しかし、こういう状況下でやるというのであれば、開催規模をできるだけ小さくして、管理の体制をできるだけ強化するのが主催する人の義務だ」

と述べた。

   そのうえで、こう強調した。

「こういう状況の中で、いったいなんのためにやるのか、目的が明らかになっていない。なぜ開催するのかが明確になって初めて、市民は『それならこの特別な状況を乗り越えよう。協力しよう』という気になる。感染リスクを最小化することはオーガナイザー(開催者)の責任。人々の協力を得られるかが非常に重要な観点だ。国がはっきりしたビジョンと理由を述べることが極めて重要だ」

と、菅義偉首相に対して、主催者として国民に丁寧に説明することを求めた。

   そして、政府分科会としての役割についても、こう踏み込んだのだ。

「国や組織委員会などがやるという最終決定をした場合に、開催に伴って国内での感染拡大に影響があるかどうかを評価し、どうすればリスクを軽減できるか何らかの形で考えを伝えるのがわれわれプロの責任だ」

   東京五輪の開催について、これまでは「国から諮問を受けていないため、述べる立場ではない」というのが分科会のスタンスだった。それを、開催の是非にまで踏み込み、「感染拡大の危険性の有無」を専門家集団として評価すると宣言したのだ。

   また、大会組織委員会や東京都が各地に作ろうとしている、競技の中継を屋外で観戦するパブリックビューイングについても、手厳しくこう批判した。

「自分のひいきの選手が金メダルをとったりすれば、声を上げて喜びを表すこともあるだろうし、そのあとみんなで『一杯飲もう』ということもあり得る。わざわざ感染のリスクを高めるようなことをするのは、一般の市民には理解しにくいというのがわれわれ専門家の意見だ」

   また、6月2日夜にはコロナ対策について厚生労働省に助言する専門家機関「アドバイザリーボード」でも「反乱」が起こった。この場でも、諮問も受けていないのに東京五輪・パラリンピックについて議論があり、座長の脇田隆字・国立感染症研究所長は会合後の記者会見で、こう明らかにした。

「大きなイベントによって国内の感染状況にどういう影響があるかリスク評価し、それに基づいた必要な対策が行われるべきだという意見があった。私自身もそう思う」

   分科会やアドバイザリーボードのメンバーによると、東京五輪の開催をめぐっては、感染状況が「ステージ3」(感染急増)だと無観客を含め大会の規模を縮小しないと、再び感染拡大につながるリスクがある。「ステージ4」(感染爆発)では医療のひっ迫がさらに深刻化し中止を進言せざるを得ないといった意見が専門家の間で出ているという。

   ちなみに、東京都のホームページをみると、最新の状況(5月27日のモニタリング会議)は、「感染状況」「医療提供体制」ともに「ステージ4」である。

菅首相は「安全安心の大会」のオウム返し

ついに「反乱」の狼煙をあげた尾身茂会長
ついに「反乱」の狼煙をあげた尾身茂会長

   この尾身茂会長の諫言も菅義偉首相にとって、「馬の耳に念仏」だったようだ。菅義偉首相は6月2日夜、「尾身会長の発言をどう思うか」と記者団に問われて、こう答えた。

「感染対策をしっかりと講じて、安全安心の大会にしたい。専門家の方々も感染対策をしっかりやるべきというご意見でしょうから、しっかりと対応していきたい」

と、門徒物知らずのように「安全安心の大会」を繰り返した。

   「尾身会長は、大会を開く意義についても国民に納得できるよう説明を求めているが」と聞かれると、こう答えた。

「まさに平和の祭典。一流のアスリートが東京に集まって、スポーツの力で世界に発信していく。そのための安心安全の対策をしっかり講じたうえでやっていきたい」

と、また「安全安心」を繰り返したのだった。

   そもそも、分科会と「アドバイザリーボード」の反乱は、どうして起こったのか。「このままでは政府に東京五輪開催を強行されてしまう。我々は医療の専門家として、それを許していいのか」という焦りにかられる人が多かったようだ。両組織のメンバーにはダブって入っている人がいる。その人たちを中心に非公式の会議が重ねられてきた。

   朝日新聞(6月1日付)「感染爆発相当『五輪は困難』 分科会有志、慎重に議論」が、その動きをこう伝える。

「分科会の専門家の間で東京五輪について、東京都内の感染状況が『ステージ4』相当の状態が続けば、開催は困難との意見が相次いでいる。意見は、五輪開催のリスク評価をまとめたうえで、分科会有志による見解として公表することも検討している。分科会の複数のメンバーによると、17人いる正規メンバーのうち、感染症や経済の専門家の多くはステージ4で開催が困難との意見で一致している」

   ただ、組織委員会にも別に専門家がおり、社会的影響も大きいため、打ち出し方を慎重に検討しているというのだ。表明時期は組織委が6月中に観客の有無を決める前が望ましいという。メンバーの一人は朝日新聞の取材に、

「政府に、(東京五輪に関して)ステージごとの精緻(せいち)なリスク評価をしてもらいたい」

   と語り、ただただ「安全安心な大会を目指す」としか言わない、政府と組織委に怒りをぶつけるのだった。

(福田和郎)

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