2024年 4月 25日 (木)

尾身茂会長「菅首相は東京五輪開催の説明責任を果たせ!」専門家集団が同時多発反乱(2)

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「なぜ今、東京五輪を開かなければいけないのか。菅義偉首相は国民が納得できるよう丁寧に説明すべきだ!」

   政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長から、こんな発言が飛び出した。

   政府分科会では「有志」が東京五輪の危険性を科学的に評価する提言を出す。厚生労働省の助言機関「アドバイザリーボード」も同様の提言を出すという。

   これまで政府の追認に終始してきた専門家集団が「同時多発反乱」の狼煙をあげた。ネットでは「遅すぎるが、勇気ある行動を歓迎する」というエールが巻き起こっている。

  • 東京五輪は新種の変異ウイルスの見本市と化す恐れも(イメージ)
    東京五輪は新種の変異ウイルスの見本市と化す恐れも(イメージ)
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政府の意向に逆らうと分科会を開けない

   毎日新聞(5月31日付)「『五輪、ステージ3なら無観客』言えぬ分科会専門家 政府が難色」が、すっかり政府の追認機関に成り下がってきた分科会の実態を、こう暴露している。

「政府が開催を目指す巨大事業に、専門家はどう向き合おうとしているのか。分科会は感染症の専門家や知事ら17人が所属する政府の有識者会議で、内閣官房が事務局を務める。事前に中心メンバーが提言の案を議論し、尾身会長らが政府と意見をすり合わせるのが通例だ。政府の了承を得られなければ『分科会を開かせてもらえない』(分科会メンバー)のが実情だ。公式の会合では東京五輪開催の妥当性を議論していないため、感染症や医療が専門の中心メンバーらは『開催の是非を判断する立場にはないが、感染拡大と医療への負荷のリスクを客観的に述べることが責務だ』として、限られたメンバーだけで提言案をまとめつつあった」

   事前に政府側とのすり合わせで了承が得られた内容を「提言」しないと、そもそも分科会を開けないというのだ。それでよく菅首相は、

「専門家のご意見をよくお聞きしたうえで判断したい」

と、口にできたものだ。

   それはともかく、ひそかに進めていた提言案提出の動きも5月下旬、「専門家がステージごとの対応に触れることを、国が嫌がっている」との情報が伝えられ、ストップがかかった。開幕まで60日を切り、観客を入れるかどうかなどを決める微妙なタイミングに、「無観客開催」も含んだ専門家の提言が公表されれば、五輪への逆風が強まるといった警戒感が政府内にあったためだ。

   分科会は「御用学者」の呼ばれる人たちが参加しているという批判がある。その人たちが〈反乱〉を起こすとはよほどの事態だろう。分科会のあり方を取り上げた文藝春秋(2020年9月号)「『あれでは政策提言どころではない』コロナ分科会委員が明かす〈東京除外の内幕〉」では、京都大学准教授でウイルス学者の宮沢孝幸氏と国際政治学者の三浦瑠麗氏が、分科会メンバーである経済学者の小林慶一郎氏と日本感染症学会理事長の舘田一博氏と白熱した議論を展開している。座談会でまず俎上に載ったのは、分科会のあり方だ。

宮沢 お二人を前に恐縮ですが、分科会は正しく機能しているのですか。私は、政府にお墨付きを与えるだけの形式的なものになっているのではないかと懐疑的です。分科会では、各分野の専門家に意見を聞いた上で、政府はその意見に基づいて対策を決定することになっていますが、そのような手順にそもそもなっているのですか?
舘田 政府の政策にお墨付きを与えるだけの、いわゆる「御用学者」だと言われていることは十分認識しています。しかし、委員の先生方はどうしたらこの国難を乗り越えられるかを真剣に議論しています。
三浦 実際の議論は、どうやって進められているのですか。
小林 一回の会議は2~3時間くらいで、5~6の議題について話し合います。ただ、それぞれの議題について担当の官僚から説明がありますので、実質的な議論の時間は結構限られています。そこは残念ながら普通の審議会と同じで、だいたい事前のシナリオが決まっていて、それを了承するという方向になりやすい。
東京五輪は開けるのか
東京五輪は開けるのか
舘田 たしかに。「Go To トラベル」について「東京発着のケースは除外する」ということに決めた時の進め方はよくなかった。
小林 分科会が始まる1時間前に西村康稔経済再生担当大臣が突然、「東京発着のケースは除外」を検討していると発表したので、みんなびっくりした。
舘田 まさに寝耳に水でした。
小林 分科会で反対意見はありますかと問われても、準備不足で答えようがない。あれでは政策提言どころではないですから。

   さらに宮沢氏が分科会の問題点として挙げたのは、そもそもの分科会委員のメンバーの「人選」についてだった。

宮沢 分科会にはマクロのウイルス学の専門家やコロナウイルスの専門家が選ばれていませんよね。コロナウイルスの対策を議論する場にその専門家がいないって、やはりおかしいと思います。
小林 いや、国立感染症研究所長の脇田隆字さんが入っていますよ。
宮沢 いやいや、脇田先生のご専門はC型肝炎ウイルス、しかもミクロなウイルス学です。霞が関や学会のしがらみに引きずられ、適材適所が行われているとは思えない。私はもっと適任者がいると思っています。
舘田 うーん。ただ、分科会の委員もどうやったら貢献できるか、責任感を持って取り組んでいるのは確かですよ。

「政府寄りの学者の集まり」が立ち上がった

   このように外部の専門家からは「政府寄りで、ウイルスの専門家が集まっていない」とまで評される政府の分科会やアドバイザリーボードの人たちが良心の声をあげた。

   毎日新聞(6月3日付)「社説:五輪のリスク評価 分科会の意見聞くべきだ」は、政府はこの人たちの声を聞け!と訴えている。

「組織委員会や東京都、政府は、これまできちんと(東京五輪の科学に基づく綿密なリスク評価に)取り組んでこなかった。開催すると感染者がどれほど増加し、医療にどの程度負荷がかかるか。東京から世界に新たな感染を広げるリスクはどうか。中止と判断すべき条件は何か。専門チームを設置し、さまざまな観点から分析・評価することが不可欠だ。にもかかわらず、『安全安心』と繰り返すだけだ」

   そして、こう結ぶのだった。

「政府は、内閣官房に感染症の専門家2人が入っていることを理由に、『専門家の意見を聞いている』と主張する。しかし、大会を推進する利害関係者だ。頼みの綱は政府の『新型コロナ感染症対策分科会』だ。有志が提言作成を進めている。問題は、政府から依頼がなく、公表の機会がないことだ。菅義偉首相は『国民の命と健康より五輪を優先することはない』と述べた。もはや様子を見ている段階ではない」
何があっても五輪開催を強行しようとするバッハ1OC会長
何があっても五輪開催を強行しようとするバッハ1OC会長

   ネット上では、今回の政府の専門家会議の「反乱」にアツい期待を送る声が多い。

「専門家としての責任を果たそうとする勇気ある発言だ。政府はまったく開催する意義を説明しようとしないが、信念がないので説明する内容もないと推察される。これほどまでに芯がない政府、総理大臣があっただろうか。あるにはあったのだろうが、平時にはそれほど露呈しなかったのかもしれない」
「遅すぎますが、国民はこれを待っていました。科学的見地から、ぜひ忖度と思惑のない事実を明らかにしてください」
「政府の専門家会議なんて、常識的に考えて政府の意見を追認するためにある組織だから、メンバーも御用学者といわれる人々で固められているのが普通と思える。その専門家たちが、これだけ口を揃えて政府の意思に反する意見を主張するのは異常事態。相当の覚悟を持っている。五輪開催を強行することは、医学的見地からすればあり得ないほど危険な行為なのだという証拠だ。しかし、菅総理は馬耳東風だろう。とても残念だ」
「五輪が危険なのは、専門家でなくても容易に想像がつく。いい例が現在の北海道と沖縄の感染爆発。北海道は、五輪のテストマラソン実施の結果。沖縄はゴールデンウィークの県外からの人の流入が原因。五輪では、海外からケタ違いの人が動く。日本中が沖縄や北海道になると思う」
「政府だけでなく、五輪組織委、五輪のスポンサー企業にも、できる・できないではなく、『なぜIOCに対して中止の提言をできないのか』を明確かつ丁寧に説明していただきたい。スポンサーのトヨタ自動車の豊田章男社長が会長を務める日本自動車工業会は、早々と4月に今秋のモーターショー開催の取り止めを発表していましたよね」

(福田和郎)

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