NBCトップ「五輪が始まればみんな楽しむ」
これほどの危険水域に達している東京五輪だが、「オリンピックの影の支配者」から、またまた日本国民の神経を逆なでする発言が聞こえてきた。
IOC(国際オリンピック委員会)に総額120億ドル(約1兆3200億円)を超える巨額な放映権料を支払っている米NBCユニバーサルのジェフ・シェルCEO(最高経営責任者)が、
「開会式が始まれば、みんなコロナなどすっかり忘れて楽しむものさ。オリンピックとはそういうものだ」
と笑ったというのだ。
米紙ロサンゼルスタイムズ(6月14日付電子版)「Will the Tokyo Olympics happen? NBC is banking on it」(東京五輪が開かれるかって? NBCがあてにしているよ)で、同紙の企業メディアリポーターのメグ・ジェームズさんがNBCトップの傍若無人の発言を厳しく報道した。
「NBCのユニバーサルのジェフ・シェルCEOが、クレディスイスの投資家向けオンライン会議で『開幕まで数週間となったが、我々は開催されるとの自信をさらに深めている』と語った。シェルCEOは『すべての五輪では開幕までに人々が不安を抱える問題があるものだ。ロンドン五輪では交通問題に、リオ五輪ではジカ熱ウイルスの問題があった。だが開会式が始まると、すべての人々がその問題を忘れて17日間(の五輪)を楽しんだ。東京五輪も同じようになる』と楽観的な見通しを口にした」
そして、投資家たちを前に東京五輪でいかにカネ儲けをするかという話題に終始したのだった。 曰く、
「5年前のリオ五輪では、NBCユニバーサルは、16億ドル(約1760億円)の収益を上げたが、東京五輪は視聴率次第になるが、過去最大の利益をもたらすかもしれない。なぜなら、NBCの五輪報道の命運は米国選手の活躍によって左右されるが、米国の体操女子チャンピオンのシモーネ・バイルズ(編集部注:リオ五輪で4つの金メダル獲得)が、最初の週に演技するからだ。彼女は今回もメダルラッシュだろう。視聴者の関心を一気に五輪に集めるために役立つはずだ」
また、曰く、
「新型コロナのおかげで、1年以上も巣籠り生活を余儀なくされた人々がいる。彼らはアスリートの成功物語を祝うだろう。視聴率は上がるはずだ。現在、多くの消費者がNetflixなどの無料のストリーミングプラットフォームに目を向けているが、広告主を従来のテレビに戻すには、オリンピック以上のビッグイベントはない。17日間もテレビにクギ付けできるのだ。米国のアスリートが活躍すると、広告主がより多くのカネを我々に支払う」
と、ジェフ・シェル氏は今回、米国選手の活躍に絶大な自信を持っているようだった。シェル氏は、直接言及しなかったが、東京五輪ではワクチン接種率が高い国の選手ほど有利になる。当然、そのことも計算に入っているはずだった。
ロサンゼルスタイムズのメグ・ジェームズ記者はこう結んでいる。
「6週間後、パンデミックの真っただ中に、何万人もの選手や群衆を集めるイベントがトーキョーで行われる。日本国民の多くが医療体制の崩壊を心配している。医療の専門家も、ウイルスの新しい変異体が混合して世界に拡散するかもしれないと警告している。しかし、NBCはそれにbanking on(バンキング・オン)している(=あてにしている)のだ。カネ儲けの機会を1年も待たされたのだ、と」
(福田和郎)