2024年 4月 19日 (金)

【6月は環境月間】石油会社が石油を売らなくなる日!?

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   6月は環境月間だ。環境を保全するためにどうしたらいいのか。最近、よく耳にする「SDGs(持続可能な開発目標)」とは何なのか? 6月は環境に関する本を紹介しよう。

   石油の大量消費が現代の社会を支えている。しかし、地球温暖化対策が進み、いずれ石油の時代が終焉すると予測しているのが、本書「『石油』の終わり」である。世界の地政学の動向を紹介しながら、石油を土台とする20世紀型秩序の破壊と再生を描いている。

「『石油』の終わり エネルギー大転換」(松尾博文著)日本経済新聞出版社
  • 港には石油タンクが建ち並んでいるけど……
    港には石油タンクが建ち並んでいるけど……
  • 港には石油タンクが建ち並んでいるけど……

変わる「再生可能エネルギーは割高」という常識

   著者の松尾博文さんは、日本経済新聞編集委員兼論説委員。テヘラン支局、カイロ支局、ドバイ支局に駐在し、湾岸戦争やイラク戦争など中東の動乱や国際エネルギー情勢を取材した経験を持つ。現地にいた新聞記者らしい分析が随所に目立つ。

   タイトルは、20年以上にわたってサウジアラビアの石油相を務めたアハメド・ザキ・ヤマニ氏の次の言葉から取ったという。

「石器時代は石がなくなったから終わったのではない。(鉄や青銅器など)石に代わる新しい技術が生まれたから終わった。石油も同じだ」

   「第1章 エネルギー大転換が始まった」において、エネルギー転換が進み、石油の消費はいずれ頭打ちになるとの「需要ピーク論」を紹介している。石油メジャーのトップが早ければ10年後には石油需要が減少に転じる可能性に言及した。

   その一方、米エネルギー省などは少なくとも2035年までは増え続けると予測している。電気自動車(EV)の実力と普及をどう見るかで評価が分かれるようだ。

   長期的には、エネルギー源の勝者は再生可能エネルギーで、敗者は石炭だ、としている。地球環境問題というキーワードがイノベーションを後押しし、石油や石炭の大量消費を前提とする20世紀型のエネルギー秩序からのパラダイムシフトを促すというのだ。

   「再生可能エネルギーは割高」という常識も変わりつつある。データを示し、太陽光や風力を見る限り、発電コストは火力発電と同等か、それ以上の競争力を持つようになっている、と書いている。

   また、マネーによる選別も無視できない、としている。経済協力開発機構(OECD)は、加盟国の石炭火力発電所の輸出に対し、公的金融機関による制限を行うことを決めた。石炭ビジネスへの関与が経営のリスクと見なされる動きを受け、海外での石炭発電事業から撤退する動きもある。

太陽光発電、洋上風力発電の大型化

   第3章のタイトルが刺激的だ。「石油会社が石油を売らなくなる日」となっている。何を意味しているのか? アラブ首長国連邦(UAE)にある巨大な太陽光発電所を紹介している。東京ドーム166個に相当する土地に太陽光パネル約300万枚を敷き詰める。丸紅が中国の太陽光発電パネルメーカーや政府と取り組む「スワイハン太陽光発電事業」だ。100万キロワットを超す巨大な出力と、1キロワット時あたり3円を切る発電コストの安さが世界を驚かせた。中東は晴天が多く、日射量も多いのが有利だ。サウジアラビアやクウェート、カタールでも大規模太陽光プロジェクトが進む。

   欧州の洋上風力発電の大型化、送電網の効率化にも触れている。1基で1万キロワットを超える風車が出現する日も遠くないという。

   電気自動車(EV)が普及すれば、「石油の終わり」が来るのだろうか? 松尾さんは否定的だ。日本エネルギー経済研究所が将来のエネルギー消費を検証したこんなシナリオを紹介している。

   ・EVや燃料電池自動車などの販売比率が、2030年に30%、50年に100%になった場合、石油需要は30年を頂点に減少に転じる。

   ・その場合でも50年には現状と同じ日量8900万バレルの原油が必要となる。

   つまり、EVシフトが進展しても、なだらかに石油を使い続ける限り、相対的に生産コストの安い中東油田への依存は続く、と見ている。

   だが、石油が安泰なわけではない。フランスの石油メジャー、トタルのトップの「エネルギー利用の正しい組み合わせは天然ガスと再生可能エネルギーだ」という言葉を紹介し、事業のガス・シフトを紹介している。同社の生産量に占める天然ガスの比率は05年には約3割だったが、現在は5割に上昇した。ほかの石油メジャーも同様だ。

   シェルやトタルなど欧州系メジャーは給油所ネットワークを、EV向けの充電所や燃料電池車(FCV)向けの水素供給ステーションへ転用する取り組みを始めたという。「石油会社が石油を売らなくなる日」が来るかもしれない。

   最終章では、日本の選択について論じている。EVの台頭で、日本はエネルギー安全保障上の中東リスクから解放されるわけではないことはすでに触れた。中東の産油国は石油依存の国家体制の転換を迫られている。サウジアラビアは一早く改革に乗り出した。「日本は産油国改革へ手をさしのべねばならない」と松尾さんは結論づける。

   本稿では触れられなかったが、アメリカのシェールオイル革命、中東の再分割の動き、中国の「一帯一路」など、地政学的変化にも多くのページを割いている。それらの複雑化するリスクを「複眼的な視野で見極める力が、より求められるようになっていくだろう」と結んでいる。

(渡辺淳悦)

「『石油』の終わり エネルギー大転換」
松尾博文著
日本経済新聞出版社
1980円(税込)

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