「ああ、こんなはずではなかった~!」
新卒で入社して3か月近く、会社に期待した理想と現実の落差に戸惑っている人も多いだろう。新入社員の約8割が「リアリティ・ショック」と呼ばれる経験を持つといわれる。
転職のためのジョブマーケット・プラットフォーム「OpenWork」を運営するOpenWork働きがい研究所が、「新卒若手社員の入社後ギャップ 入社3年目までの若手社員が会社に感じる理想と現実」を調査。新入社員たちはどんな「リアリティー」と向き合っているのか。そして、先輩として後輩にどんなアドバイスを送っているだろうか。
数か月で異動もあれば10年塩漬けもあるエンジニア
「OpenWork」は、社会人の会員ユーザーが自分の勤め先の企業や官庁など職場の情報を投稿する国内最大規模のクチコミサイト。会員数は約400万人(2021年1月時点)という。OpenWorkに投稿された会社評価レポートのうち、2019年以降に投稿された新卒入社社員による「入社後ギャップ」回答1万3042件を対象にデータをまとめた。2021年5月31日の発表。
調査によると、最も多かった「入社後ギャップ」は、「仕事内容や配属先についての悩み」で、約5割以上の人が経験していた。次いで「組織の特徴や社風が合わないこと」「成長環境やキャリア開発が不十分なこと」が多く、ともに4割以上の人が悩んでいた=下表参照。
それぞれの悩みと具体的なアドバイスをみていこう。まず1位の「仕事内容や配属」。新卒では総合職での入社が多くを占めるため、希望の部署や業務に就くことが出来ない「配属ガチャ」のリスクが伴う(編集部注:新卒入社後に配属先がランダムに決められることをソーシャルゲームの「ガチャ」にたとえた言い方。上司や部署を「アタリ」「ハズレ」という)。
1位:仕事内容や配属
ソフト開発・システムエンジニア、女性
「1か月の全体研修を経て直ぐに現場へ配属になるので、他社の新入社員よりも早く現場や仕事を知ることができる。ただ、自分がどこの業界やどの言語をやりたいかなどは考慮されないため、現場によって雰囲気も仕事内容がまったく異なる。そのため逆に、あまり自社意識というものはない。現場によって人によって異動の頻度が変わるため、10年以上同じ現場の人もいれば、数か月単位で現場が変わる人など様々だ。独立系だから様々な業界に関わるチャンスはあるが、それをつかみ取れるかは運任せでしかないと思ってもいい」
総合電機・営業、男性「若手でも海外に出るチャンスは多くあるし、特にインフラ系事業は規模も大きく影響力のある仕事ができる。海外留学制度も適度に活用されており、希望し続けるとほぼ確実に行くことができる。認識しておくべきは事業と職種など、配属によって状況は大きく異なること。いわゆる配属リスクだ。自分は本社希望で配属も本社だったが、本社希望でも広島に配属された同期もいた。また営業希望なのに総務配属の人もいた。他社も同様だが、必ずしも希望の仕事ができるとは限らない」
官公庁・行政事務、男性「どの業務も県民・市民のみなさまの利益になるものであるのはもちろんのことだ。しかし、定期的な部署移動があり、希望配属先に行けるのは数年、数十年後と、いつかは当然わからない。まったく未知の事業を行う部署も多数存在する。どのような人が自治体職員に向いているのか、持論であるが、まったく関心のない分野についても勉強し、目の前の与えられた仕事をこなせる人材、すなわち世の中の幅広いことに興味を持てる人が向いていると考える」
1年目から一人で考えて動けないとダメな記者
2位:組織の特徴や社風
通信・データセンター、男性「外から見たイメージは風通しがよさそうで、ボトムアップ経営が取り入れられているように見えるが、実際はトップダウン経営。幹部のひと声で、会社の方針が急転換することがあり、現場は大慌てで一から業務をやり直したりすることも多々ある。実情はふつうの大企業の経営と同じで、大半の社員も大企業病を常々感じており社内では問題視されている。しかし、ここまで大きな会社になってしまった以上、ベンチャー気質を維持するのはなかなか困難だと感じている」
ソフト開発・プログラマー、女性「当社のプログラマーは客先常駐型での勤務となるため、他社の方々と関わる機会が多い。半面、同じ現場に勤務する社員同士以外はほとんど関わりがないため、自分の会社が自身にとって居心地のよい場所かどうかは入社時の段階ではわからない。他社の方々との関わりはよい刺激となるが、勤務先にアットホームな安心感を求めている方には運次第の結果であるといえる。私自身は、客先の方々とは仕事上の関係以外の関わりはなかったので、居心地のよさは可もなく不可もなくだった。働くうえで特に仕事仲間の雰囲気や職場の空気感を重視する人は、この事情を理解してから入社を決断することをオススメします」
ソフト開発・システムエンジニア、女性「社風をもう少ししっかり確認しておくべきだった。体育会系や社内政治がつらい方や、向上心のある真面目な方はあまり入社を勧められない会社である。歓迎会や送別会が非常に多く、いい意味では人を大切にしているとも言えるが、参加しないと若干肩身が狭く感じるところがある」
3位:成長環境やキャリア開発
マスコミ・記者、男性「1年目から相当な負荷がかかり、良くも悪くも新人扱いはされない。入社後すぐに裁量の大きい、かつ影響力の非常に大きい仕事ができるので成長にはつながる。一方で現場にマニュアルなどが不足しており、基本的に最初から自分一人で考えて動ける人でないと、本当に基礎的な業務すら滞ることになる。正直、先輩も取材や現場に出ていて忙しく、後輩のことを丁寧に気にかけることは無理だ。元々ある程度要領のよい、自然とスケジュール管理ができる人でないと業務が回りません」
自動車・営業、女性「コロナとリコール問題の影響で会社の業績が悪化した結果、コスト削減の一環で海外トレーニー(研修生)制度が凍結になり、目標の実現の見通しが立たなくなった。凍結していない状況でも年功序列の会社なので、自分に海外駐在の順番が回ってくるまで待つ必要があり、モチベーションを保つことが難しい。上司からは日本でそれなりの経験を積まないと海外に行けないと言われるが、具体的に、いつまでに・何を・どれくらいやれば海外赴任枠に選ばれるか明確になっていない」
半導体・営業、男性「営業活動はすべてマニュアル化されているため、成長し続けている会社の仕組みは十分に学ぶことができる。しかし、日々の活動は完全にマニュアル化されているため、マニュアル以上のことを身につけられるかと言われると難しい。本人のやる気とセンスに左右される気がする」
やりがいはあるが待遇がキツいインストラクター
4位:ワークライフバランスや勤務時間
コンサルティング・シンクタンク、男性
「待遇面への不安はなく、日々困難な仕事にコミットすることで過去の自分と比較した成長も実感できる。また上司も同期も部下も、全員優秀で非常に働きやすい。ただ、業務内容自体がストレスフル、かつ当然長時間労働であることは(入社前からわかっていたとはいえ)、入社前に強く意識しておくべき。自分の場合は深く考えていなかったので、現在、自分のワークライフバランスをどのようにとっていくかが重要なテーマとなっている」
人材サービス・営業、男性
「社員の人柄、風通しのよさに関しては想像どおりよかった。認識しておくべきことは、残業時間の多さ・業務量の多さ。当たり前だが、若いうちは一生懸命働け! という社風なので、どうしても残業が増える。ただ、残業を強制させる文化がないので早く帰れるが、業務量は配属後すぐから多いほうだ。この会社で成長したいという思いがないと、早期離職に繋がると思う」
5位:給与や待遇、福利厚生
教育、研修サービス・インストラクター、女性
「仕事へのやりがいも教える業務が好きであれば、感じられる部分は多い。ただ、福利厚生や給与などの待遇と勤務形態はしっかり確認して考える必要がある。というのも、平日の実労働時間は9.5時間と長め。週末は7時間でシフト制だが、トータルの業務時間の兼ね合いで、シフトの希望が思ったとおりにいかないことがある。退職金や家賃補助もなくボーナスも控えめなので、待遇面を気にされる人はしっかり確認しておくべき」
人材サービス・キャリアアドバイザー、男性
「社員は全体としてやりがいや将来像を大切にして働いている。新入社員に対しても、ありたい自分像へ近づくためにはという個々のキャリア観を大切にして指導している。しかし、入社前にやりがいや印象での企業選びも大切だが、住宅補助や福利厚生のような条件面もしっかり見ておくべきだった。もちろん見てはいたが、なかなか働いてみないとわからないことが多い。大学の先輩や OB訪問などで現場の声をよく聞いて、客観的に企業のことを見ていくことが大切だ」
「体育会系女子」じゃないと厳しい百貨店
6位:人間関係
百貨店・専門店小売り、女性
「すべて独学なので、ある程度入社する前に勉強しておかないとついていけなくなる。上下関係が厳しく、新卒や新入社員が働きやすい環境ではないので、ある程度の覚悟が必要。また、並程度の常識はここの会社では通用しないので、体育会系の方ではないとなかなか厳しい環境なのではないかと思う」
官公庁・消防官、男性
「私の個人的な入庁理由はともかく、認識しておくべき事項として、風通しが悪く縛りがきつい。また体育会系特有の上下関係などがある。一番大切なのは人間関係なので、どのような人間が働いているのかしっかり把握しておくことがミスマッチを防ぐために重要」
7位:会社や業界の展望や景気
ホテル・営業、女性
「コロナ禍で業界全体的に経営が苦しい状況で、再編も見込まれている。今後は店舗営業やパンフレットをなくしていく方向性に大きくシフトしていくことを見込んで入社するべき。おそらく採用もどんどん減っていく。しかし、上司や雰囲気はとてもよく、全員で目標を達成しようという空気がある」
銀行・営業、男性
「環境の厳しさは認識しておくべき。既存の金融業界、特に銀行は未曽有の大変革期の真っ只中にあり、IT、DX、他業種の参入など、脅かされる要因はいくらでもある。現状は生き残りをかけた熾烈な競争が日夜行われていると考えるのがベスト。なお、ドラマなどで想像しているような『銀行』の業務の担い手は少なくなっており、保険会社・証券会社のような仕事も多いので注意が必要」
(福田和郎)