コロナ禍で世界の航空需要が大幅に減る前、二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出量が多い航空機の利用を避ける社会運動に関心が集まっていた。スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんも交通手段として航空機を回避していることもあり、2019年ごろに欧州から発信され、英語では「フライトシェイム」、日本語では「飛び恥」とも称されている。
そして世界が脱炭素に向けて動き出している2021年。日本国内の航空会社も対応を本格化させた。キーワードは「SAF」だ。
JALとANAが「SAF」を使って初フライト
日本航空(JAL)と全日本空輸(ANA)は2021年6月17日、それぞれSAFを使用した航空機で乗客を乗せた国内定期便を運航した。
SAFとは、「持続可能な航空燃料」(Sustainable Aviation Fuel)を指す。ANAは微細藻類が生成する油から作ったSAF(IHI製)を利用。JALはIHI製に加え、三菱パワーなどによる企業連合が木くずから製造したSAFも使ってフライトを実施した。当然、いずれも航空用ジェット燃料に関する国際規格を満たしている。
数年前からJALとANAは、国際線で海外メーカーが製造したSAFを使用する実績を重ねていた。そうしたなか、2020年を境に主要国は脱炭素に向けて舵を切り、日本も20年10月には菅義偉首相が温室効果ガス排出量を、2050年に実質ゼロ(カーボンニュートラル)にするよう目指すと国会で表明。今回のフライトは、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が20年度に取り組んだSAFの技術開発プロジェクトを官民でアピールするため、航空大手2社が同じタイミングで実施した。
航空会社が取り組む「環境配慮経営」の現れ
それではSAFを導入することで、どれほど効果があるのだろうか――。
国土交通省の試算によると、航空機燃料に最大50%混合した場合、CO2削減率が50~80%のSAFを使用すると、通常の燃料に比べてCO2を2~3割削減が可能という。削減効果をより高めるには、原料栽培から輸送までの一連の流れの合計で排出量が少ないSAFの導入や、混合比率の上限を撤廃することも検討課題となりそうだ。
ANAの持ち株会社ANAホールディングス(HD)とJALは、いずれもCO2排出量を2050年に実質ゼロとする目標を掲げており、そのためにSAFの利用比率を高めていく方針だ。
国内のCO2総排出量(2018年度)のうち、運輸部門が占めるのは18.5%だ。国内航空は運輸部門全体のうち5.0%に過ぎない。運輸部門の8割は自動車が占めており、自動車以外は国内航空と内航海運(4.9%)、鉄道(3.9%)程度だ。それでも1人を1キロメートル運ぶ際に排出されるCO2の量で比べると、航空は鉄道の6倍近くもあり、そこが環境派から非難されるゆえんだ。
コロナワクチンの接種が一定程度行き渡ると、2023年にはビジネスや観光に伴う人の流れがコロナ前の水準まで回復するという見方もある。
コロナ禍で業績が落ち込んだ航空業界にとっては、回復する需要をいかに取りこぼさないかは、今後の経営の鍵を握っていると言えよう。そのためには、「飛び恥」のようなマイナスイメージを可能な限り払拭することが必要。今回のSAFの使用は、環境に配慮する姿勢を社会に広くアピールする意味もありそうだ。(ジャーナリスト 済田経夫)