2024年 4月 25日 (木)

【7月は応援! 五輪・パラリンピック】遠くのオリンピックより、近くのチームのほうが大切だ!

   東京五輪・パラリンピックが2021年7月23日に開会式を迎える。新型コロナウイルスの感染拡大で1年延期され、いまなお世界各地で猛威を振るっている中での開催に、さまざまな議論が巻き起こっているが、アスリートの活躍には応援の声を届けたい。そう思っている人は少なくないだろう。

   そんなことで、7月はオリンピックとスポーツにまつわる本を紹介しよう。

   近年、日本で開かれた大きなスポーツイベントで思い出されるのは、2019年に開催されたラグビーワールドカップだろう。東京などのほか、札幌、釜石(岩手県)、豊田(愛知県)、神戸、福岡、大分、熊本など地方でも試合が行われたため、日本全体が盛り上がった。 本書「『地元チーム』がある幸福」は、「遠くのオリンピックより、近くのチームの方が大切だ!」と主張する。スポーツの世界は、一極集中から地方展開の時代だ、というのだ。

「『地元チーム』がある幸福」(橘木俊詔著)集英社
  • 地方の大学が地域を活性化するかも……(写真はイメージ)
    地方の大学が地域を活性化するかも……(写真はイメージ)
  • 地方の大学が地域を活性化するかも……(写真はイメージ)

地方でも複数のプロスポーツチーム

   著者の橘木俊詔さんは京大教授などを経て、現在、京都女子大学客員教授(労働経済学)。著書の「格差社会」(岩波新書)で知られるが、「プロ野球の経済学」などスポーツ関連の著作もある。

   プロスポーツの振興が、地方の活性化に大いに貢献するという主張を検証すべく、プロ野球の地方移転の効果、地方大学野球部の躍進、Jリーグの地方分散、バスケットBリーグの地方展開などを取り上げている。

   巻頭に日本のプロスポーツチームの一覧が、日本地図上にプロットされている。たとえば、青森県にはヴァンラーレ八戸(サッカーJ3)、青森ワッツ(バスケットB2)、東北フリーブレイズ(アイスホッケーアジアリーグ)、と3つのプロスポーツチームがある。隣の秋田県にも秋田ノーザンハピネッツ(B1)、ブラウブリッツ秋田(J3)があるなど、複数のプロスポーツチームがある都道府県は珍しくない(カテゴリーは2019年8月時点)。野球しかプロスポーツチームがなかった時代を思うと隔世の感がある。

   本書で橘木さんは経済学者らしく、プロスポーツが地方にもたらす経済効果(ラグビーワールドカップ日本大会では4200億円)を中心に説明している。もちろん、経済効果はあるだろうが、プロスポーツチームの存在そのものが、地方のコミュニティーを支えている精神的な側面もあると思う。

   プロスポーツチームの地方分権が進む現状から紹介したが、本書の構成としては、第1章を「スポーツの中央集権」が生み出す功罪、に当てている。 そして、2020年東京オリンピックこそ「悪しき中央集権」の象徴、箱根駅伝競走の功罪、東京発スポーツメディアの功罪と筆を進めている。

   オリンピックに関する功罪を挙げた後、望ましい開催方式として、開催国の主催のもとに、国内の数多くの都市で競技を行うことを提案している。サッカーのワールドカップと同じ方式である。

   日本を例にすれば、陸上は東京、水泳は大阪、体操は札幌、というように各都市で行う。この方式には、開催都市の過重負担を緩和するというメリットがある。また、分散開催になれば、各都市で競技場、宿泊施設、交通網、道路の整備がなされるので、国家による補助金の使途が多くの都市に波及することになり、不公平を是正することができる。

   2002年のサッカーワールドカップの日韓共催大会、2019年のラグビーワールドカップの各地の盛り上がりを思い出すと、共感する人も多いだろう。

   もちろん国という単位ではなく、「都市」が開催するというオリンピックの理念に共鳴する人も多いだろう。しかし、今回の東京五輪大会を見ればわかるように、開催都市を裏で支えているのは、国なのだ。今回もマラソンは札幌、野球、ソフトボールの一部は福島というように、国内でかなり分散して開かれる。その結果が興味深い。

地方大学の野球部が躍進した!

   さまざまなデータを挙げて、地方のスポーツの躍進ぶりを検証している。その中で、「へぇー」と思ったことの一つに、地方大学野球部の躍進がある。1965年から2010年までの45年間のプロ野球選手の出身大学ランキングを見ると、1位法政大学78人、2位早稲田大学62人、3位駒沢大学57人など、東京六大学と東都大学野球連盟が圧倒的な数を輩出している。

   ところが最近は、地方大学出身のプロ野球選手が増えているというのだ。2016年から18年間で3年間の大学卒ドラフト指名選手の所属大学を見ると、東京六大学と東都大学野球連盟といった老舗の影は薄くなり、首都圏では創価大学、白鷗大学(栃木県)、地方では富士大学(岩手県)、中部学院大学(岐阜県)などからも複数が入団していることがわかる。

   全日本大学野球選手権大会の優勝校も2013年の上武大学(群馬県)、16年の中京学院大学(岐阜県)、18年の東北福祉大学(宮城県)と地方の大学が目立つようになった。

   地方にある学校が中央の学校に堂々と対抗している姿は、「沈滞しがちな雰囲気にある地方の人々に活力と希望を与える」効果がある、と評価している。

   東京一極集中の日本社会を変革するツールとして、プロスポーツチームの地方分権化という本書の主張は、受け入れやすいものだろう。スポーツ以外の政治、経済、文化の分野での地方分散化政策の点も書かれている。入口はスポーツだが、出口は東京一極集中の打破という大きな目標を掲げた「警世の書」である。

   コロナ禍での東京大会開催という異例の事態となったオリンピック。ここから新しい何かが生まれるか、注視したい。(渡辺淳悦)

「『地元チーム』がある幸福」(橘木俊詔著)
橘木俊詔著
集英社
880円(税込)

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