日銀が気候変動対策 「脱炭素社会」の実現に向け支援制度 金融政策の中立性に疑義も......

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   日本銀行が、気候変動対策に投融資する金融機関への支援制度を創設する。年利0%、つまり金利のつかない資金を当該金融機関に供給する。利用実績に応じてマイナス金利の負担を回避できる仕組みも盛り込む。

   世界的に脱炭素の流れが加速するなか、気候変動対策を支援しようというものだが、実効性を懸念する声の一方、「やりすぎ」批判もあり、評価は割れている。

  • 日本銀行が気象変動対策で金融機関に支援制度(写真は日銀本店)
    日本銀行が気象変動対策で金融機関に支援制度(写真は日銀本店)
  • 日本銀行が気象変動対策で金融機関に支援制度(写真は日銀本店)

融資対象に企業の再生エネ、CO2削減設備を想定

   2021年6月の金融政策決定会合で、こうした制度を導入するとは決めていた。制度設計を進めてきて、7月16日の決定会合で「骨子案」をまとめた。秋にかけて詳細を詰め、年内をめどに実施する。黒田東彦総裁は決定会合後の記者会見で「新制度がテコになり、企業に(脱炭素に向けた)対応が広がることを期待する」と語った。

   骨子案によると、新制度の期間はひとまず2030年度までとし、「わが国の気候変動対応に資する投融資」が対象になる。具体的には、再生可能エネルギーや二酸化炭素(CO2)の排出削減につながる設備投資などが想定され、融資だけでなく、使途を環境対策に限定するグリーンボンド(環境債)や、脱炭素関連の目標を遂げないと発行企業がペナルティーを負う「サステイナビリティー・リンク・ボンド」などの購入も想定している。貸付期間は原則1年だが、制度が存続する間は何度でも借り換えを可能にする。

   こうした投融資向けの長期資金を金利0%で供給するのに加え、投融資した金融機関の日銀当座預金にかかる金利が0%となる部分を増やす。マイナス金利政策で、日銀当座預金の一定部分は、預けた金融機関側が逆に金利(マイナス金利)を払うが、この負担を軽減できる優遇措置を設けるということだ。事前には、日銀当座預金にプラスの金利をつけるとの予想があったが、見送られた。露骨な補助金になるとの批判を意識したようだ。

   日銀は「市場中立性に配慮」するとも強調。具体基準は示さず、「この融資は気候変動対応か否か」との判断を金融機関に委ね、金融機関には「一定の(情報)開示」を求めて規律を保つとした。

気候変動対策、日銀は後発

   地球温暖化が今や世界の未来を左右する全人類的な課題であるのは間違いなく、各国の中央銀行が対応を取り始めていて、日銀はむしろ後発だ。

   背景には、CO2排出削減など脱炭素には、巨額の資金が必要なことがある。国際エネルギー機関(IEA)は、必要投資額が、エネルギー関連だけで2040年までに世界で67.8兆ドル(約7460兆円)と見積もっている。

   積極的なのが欧州中央銀行(ECB)で、資産を買い入れて市場にお金を流す量的緩和策の一環として、気候変動問題の解決に資する事業に投資する債券を購入対象にした。英イングランド銀行は、金融政策の使命に「脱炭素社会への移行」を加えた。

   ただ、気候変動対策に、中央銀行がどこまで踏み込むべきかについては、議論が分かれる。中銀の本来の使命は、物価と金融システムの安定であり、温暖化対策に資金が必要なら、政府が財政的に対応すべきものだというのが、伝統的な考え方、いわば筋論だ。

   この点は日銀の会見でも質問が集中し、黒田総裁は、「気候変動は中長期的に経済・物価・金融情勢にきわめて大きな影響を及ぼす」「気候変動対応は中銀のマンデート(使命)に含まれていて、金融政策としてできることがある」などと語った。ただ、中銀は従来、お金の流れを左右する金融政策は中立性が重要という観点から、たとえ「環境」であっても、特定分野に資金を誘導するようなことは避けてきた。資源配分に関する政策は財政の役割という考えが主流で、今回も、日銀内にも慎重論が根強かったとされる。

大手メディアも「積極」「慎重」に意見分かれ......

   こうした問題も抱えるだけに、大手紙の報道も、積極・慎重に割れた。

   社説で取り上げたのは7月22日現在、読売新聞と日本経済新聞だけだが、政府寄りの論調が目立つ読売新聞(7月20日付)が「効果的な側面支援となるか」と疑問符をつけんばかりの見出しで載せたのが目立った。

   本文では「温暖化をリスクとして意識することは理解できる。ただ、特定分野に肩入れすると、中央銀行の中立性を損ない、民間の経済活動をゆがめる恐れがあることに留意せねばならない」と指摘。導入するにしても「資金供給の際、金融機関に対する十分な情報開示の要請が不可欠だ。制度がどの程度の実効性を上げたかの検証も大切となる」と、クギを刺した。

   一方の日本経済新聞(7月17日付)は、ECBなどの世界の潮流の中での日銀の新制度だとの認識を示し、中央銀行の本来の使命との整合性への配慮を求めつつ、「質の高い融資につながる制度を設計してほしい」「政策の狙いや効果を十分に議論し地に足のついた政策につなげたい」と、全体に前向きに評価している。

   他紙は、一般記事で大きく報じた。このうち毎日新聞(7月17日付朝刊)は、融資案件が脱炭素に資するかの判断を民間に委ねたことに、金融機関側から「政府や日銀にもっと主体的に動いてほしい」との声があることを紹介。「(気候変動関連の)市場の拡大を促す制度設計をしないと日本は競争で劣後しかねない」とのアナリストの懸念を引用し、「欧州に比べ踏み込みの浅い制度になった」と、日経以上に尻を叩くトーン。

   逆に、朝日新聞(同日付)は脱炭素という特定領域にお金を重点的に流すことに、「やや慎重さを欠いているのではないか。政策領域が今後さらに広がる余地を残した」との日銀幹部の声を載せ、金融政策の中立性の観点から疑義を呈している。(ジャーナリスト 岸井雄作)

(2021年7月20日執筆)

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