2024年 4月 19日 (金)

アメリカのコロナ対策が失敗したワケ【新型コロナウイルスを知る一冊】

全国の工務店を掲載し、最も多くの地域密着型工務店を紹介しています

   東京オリンピックの閉幕とともに、新型コロナウイルスの感染拡大がまたクローズアップされてきた。国内の新規感染者は連日2万人を超え、軽症者や一部の中等症の人は、入院できず、自宅療養を余儀なくされている。

   あらためて新型コロナウイルスがもたらした影響や対策について、関連本とともに考えてみたい。

   新型コロナウイルスによるアメリカ国内の死亡者数は、2021年6月に60万人を超え、累計感染者数は約3350万人に達し、ともに世界最多となった。なぜ、こうした「失敗」が起きたのか?

   本書「最悪の予感 パンデミックとの戦い」は、トランプ米大統領(当時)やCDC(疾病対策センター)がリスクを軽視するなか、一部の人たちがパンデミックを予想し、それぞれが活動していたことを描いたノンフィクションである。

   全米でベストセラーとなり、映画化される予定だ。

「最悪の予感 パンデミックとの戦い」(マイケル・ルイス著、中山宥訳)早川書房
  • 米国のコロナ禍対策は「失敗」だった?(写真は、ホワイトハウス)
    米国のコロナ禍対策は「失敗」だった?(写真は、ホワイトハウス)
  • 米国のコロナ禍対策は「失敗」だった?(写真は、ホワイトハウス)

アメリカにもあったパンデミック対策の計画

   著者のマイケル・ルイスは、「マネー・ボール」「世紀の空売り」などで知られる作家。アメリカで著書累計は1000万部を超える。

   ベストセラーの書き手だけあって、書き出しは意表を突いている。2003年、ニューメキシコ州アルバカーキの13歳の少女が、パソコンのモニターの中を動き回る緑や赤の小さな点を観察している場面から始まる。国立研究所に勤める父親は「エージェント・ベース・モデル」という人間の行動を予測するモデルの一つであることを説明する。やがて、高校生になった彼女は、「インフルエンザはつねに変異している。もし、適切なワクチンが間に合わない場合、わたしたちはどうしたらいいのか?」という問題に取り組んでいた。

   ここで場面は転換し、次にカリフォルニア州サンタバーバラ郡の保健衛生官の女性医師が登場する。CDCがあまり実務に役立たないことが、さまざまなエピソードで描かれている。CDCの姿勢の根底にあるのは、あとになって非難されるような行動を取りたくないという「恐れ」だったという。

「理屈では、CDCはアメリカの感染症管理システムの頂点に位置する。しかし実際には、社会的権力を持たない人物に政治的責任を押し付けるシステムと化していた。誰も背負いたがらないリスクと責任を、地域の保健衛生官に背負わせる。保健衛生官はそのためにいるようなものだ」

アメリカの底力

   アメリカにはパンデミック対策の計画が存在していた。ジョージ・W・ブッシュ大統領(息子)のときに生物学的な脅威に対処するチームがつくられたが、トランプ大統領になってメンバーは解雇または降格されていた。

   そのチームの1人がダイヤモンド・プリンセス号での感染拡大について書いた部分が興味深い。「かすかな煙の気配だった」と書いている。

   この時点で、アメリカ国内では新型コロナウイルスの検査は行われていないに等しかった。FDA(食品医薬品局)は、州や地域の保健衛生官に対し、CDCが提供する検査キットを持つように言い続けていた。しかし、CDCは、アメリカ人がこのウイルスに感染する危険性は非常に低いと主張していた。

   役に立たない連邦政府と個人ベースでネットワークをつくり、危機を訴え、行動する人たちが対比して描かれる。このあたりは映画化を予想して小説的な手法を使っているが、事実であったことは間違いない。

   CDCが検査キットの大量生産を試みたが、2回失敗したとか、判定に10日かかったとか、失敗のエピソードが書かれている。一方で役に立ったのは民間企業や大学、非営利団体が運営する微生物研究所だ。

「連邦政府がリーダーシップを発揮しないせいで、パンデミック対策用品の市場では自由競争が繰り広げられ始めていた。おもに中国製の商品をアメリカ人同士が競い合って購入するという図式だった」

   新型コロナウイルスの感染が昨年(2020年)始まったころ、テレビのワイドショーではアメリカにはCDCという政府組織があり、多くの専門家が従事しているのに、日本は国立感染症研究所という小さな組織しかないので、ダメだ、と彼我を比較する声があった。だが、本書を読み、その実態を知り、愕然とした。「疾病対策」という名前はついているが、実際には患者を研究論文の対象としてしか見ていない官僚組織なのだ。

   だからと言って、日本の政府や自治体の対応が褒められた訳ではないことは言うまでもないだろう。

   アメリカはその後のワクチン製造において、巨大医薬品企業の底力を発揮し、世界にワクチンを供給している。「失敗」したが、その後の回復ぶりには目を見張るべきものがある。また、災厄の途中なのに、こうした実証的なノンフィクションが書かれ、映画化(ユニバーサル・ピクチャーズ)というのもアメリカ的だ。

   翻って、日本でこういう作品が書かれるのか、考えてみた。多くの専門家がテレビに登場するが、こうした小説や映画には似合わない。また、本書に登場するような突出した個人もあまりいない。

   冒頭に登場する少女のエピソードが、コロナ禍を終息させるための戦略として役立つことが終盤で明らかになり、伏線は回収される。ミステリーを読むように面白く、一気に読むことができるだろう。(渡辺淳悦)

「最悪の予感 パンデミックとの戦い」
マイケル・ルイス著、中山宥訳
早川書房
2310円(税込)

姉妹サイト

注目情報

PR
コラムざんまい
追悼
J-CASTニュースをフォローして
最新情報をチェック
電子書籍 フジ三太郎とサトウサンペイ 好評発売中