菅政権の末路から経営者が学ぶこと あなたのコミュニケーションは間違っていないか(大関暁夫)

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   本稿で政治を語るつもりは毛頭ないのですが、菅義偉内閣の支持率低下が止まらず、遂に実質辞任に追い込まれたことには、関心を持って受け止めています。

   マスコミごとの支持率に若干の違いはあるものの、直近8月後半の調査では、どこも30%前後で軒並み総理就任以来の最低を記録したようで、すでに辞任ギリギリの状態にあったといえそうです。

   内閣発足時には、戦後3番目に高い支持率でスタートした菅新政権でしたが、わずか1年で半減以上。なぜこんなにも支持率が下がって、実質辞任に追い込まれてしまったのでしょうか――。

   経営者がここから反面教師的リーダーとして学ぶべきことがありそうだ、というのが私の関心です。

  • 1年前はこんな笑顔も…… (写真は、菅義偉首相)
    1年前はこんな笑顔も…… (写真は、菅義偉首相)
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致命傷となったコミュニケーション忌避

   菅首相に関してはこれまで、さまざまな批判がありました。決断力がないとか、対応が遅いとか、頑固だとか...。恐らくこれらの批判は、コロナ対応とそれに呼応したオリンピック&パラリンピック対応の中で噴出してきたものでしょう。

   ただ、これらに関しては誰もが未経験の舵取りであり、確固たる正解があるわけではないという意味では、同情の余地がないわけではありません。むしろ他に決定的な落ち度があって、それゆえにコロナ禍対応、オリンピック対応がことさらにマズく映り加速度的に支持率が下降したように思います。

   では、菅首相にみる「リーダーとしての決定的な落ち度」とは何でしょう。個人的には、コミュニケーション欠如に尽きると思っています。コミュニケーションを軽視している姿勢、と言ってもいいでしょう。

   首相就任時から際立っていたのが、リーダーにあるまじきコミュニケーション忌避の姿勢です。定例の記者会見をやらない、やったとしても発言が原稿の棒読みで気持ちが伝わらない、などは盛んに指摘をされてきたことでした。

   その後、会見はいわゆる「ぶらさがり」という形で、官邸ロビーで基本毎日行なわれるようになったようですが、ここでも質問は1社1問限り、追っかけ質問の禁止などの一方的な条件が付されたと報道されていました。そのうえ、この条件を守らなかった場合は会見後に広報官から厳しい指導があり、出席禁止処分もチラつかせられるなど「威嚇」ともとれる対応もあったのだといいます。

   首相のコミュニケーション欠如は、具体的なやり取りにも如実に表れていました。会見だけでなく国会答弁でもたびたび指摘されているのが、「質問に答えていない」という菅首相の受け応えです。

   具体的は、まったく質問と関係のない答弁で回答するというのがそのやり方でした。会見においては、的外れな回答をされても追っかけ質問が禁止されているので、答えたくない質問にはこの手で「逃げ切り」を決め込めるという、あざといやり口が透けて見えてしまってもいました。

   国会答弁においては、「質問の答えになっていない」と野党から指摘をされても、同じ回答を繰り返すという、まさにコミュケーション忌避な対応だったのです。

   これらのコミュニケーション欠如事象は最近とみにひどく、支持率が右肩下がりになるのもうなずける状況にあったと思います。記者会見における質問に対する「逆ギレ」対応、原爆追悼式典での原稿読み飛ばし、「感染拡大を最優先に...」との原稿読み間違え......。枚挙にいとまがありません。一国のリーダーとして、その姿勢に国民から大きな疑問符が付くのは至極当然に思えるのです。

重要なことほど自らの言葉で!

   こうした首相のコミュニケーション姿勢と支持率低下から、反面教師として組織リーダーは何を学ぶかですが、ひと言で申し上げれば、「あなたの部下とのコミュニケーションは間違っていませんか」ということです。

   第一に、「聞くコミュニケーション」を重視して、それにしっかり応えていますか、ということ。部下からの質問や意見を、無視する、答えない、逃げる、というのは、完全に信頼感を損なう行為であるということを、首相の支持率の低下は教えてくれています。

   リーダーはとかく一方的な「話すコミュニケーション」陥りがちですが、上に立つ立場であればあるほど「聞くコミュニケーション」が重要になります。まず質問や意見から逃げないこと、「聞かれたこと」にしっかりと答えること、が重要です。

   第二に、コミュニケーションにルールを作らない、ということです。さすがに会社で「社長に対する質問は一人一問限り」という条件を付ける人はいないとは思いますが、極力リーダー自身から、部下とコミュニケーションできる場を設けるということです。

   その際のコミュニケーションのあり方に、制限やルールを設けないということが大切です。質問内容を事前に上司がチェックしろとか、こちらから指名した人にだけ質問させろとか、そういうおかしな根回しをすれば、リーダーへの求心力は確実に失われると考えて欲しいところです。

   第三に、リーダーは「自分の言葉」で語る、ということが重要です。首相と同じく部下に原稿を用意させて重要な話をするとか、あるいは部下に言いにくい話(たとえば、給与引き下げや人員削減など)を、自身の口から話すことなく、直属の役員や管理者に話をさせるというのも、社員の社長に対する信頼感を損なう原因になるでしょう。

   重要なことであればあるほど、リーダーの想いや気持ちを直接社員に自分の言葉で伝えることを大切にして欲しいと思います。

   以上のように、首相という一国のリーダーの言動と国民の評価からは、いい意味でも悪い意味でも時代を反映したリーダーのあり方等々学ぶことが多いと思います。

   もちろん、今後、仮に次の首相にバトンが渡って支持率に変化があるなら、その要因は何であるのかからも学ぶべきことはあるかもしれません。社長が首相のように自ら辞任に追い込まれるというケースは少ないのかもしれませんが、多数の社員が社長に嫌気して離職を選び、会社が回らなくなるという悲劇は大いにある得ることです。そんな憂き目に会わないためにも、今回は菅首相を反面教師として社長自ら襟を正すいい機会ではないだろうか、と思いつつ政局を眺めている次第です。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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