2030年代に確実に起きる?「西日本大震災」 その被害は東日本大震災の10倍【防災を知る一冊】

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   9月1日は「防災の日」。1923(大正12)年9月1日に関東大震災が起きてから、まもなく100年になろうとしている。また、近年は9月に大型台風が上陸したり、長雨が続いたりして、各地で風水害も発生している。9月は防災、自然災害、気候変動、地球温暖化をテーマにした本を随時、紹介していこう。

   日本の地盤は1000年ぶりの「大地変動の時代」に入ってしまい、これから地震や噴火の地殻変動は数十年というスパンで続くというのが、地球科学者の共通認識だという。言うまでもなく、東日本大震災が引き金となって地盤が不安定になったのだ。本書「日本の地下で何が起きているのか」(岩波書店)は、「科学の伝道師」を自任する著者が、市民の不安を払拭するために、これから何を準備すべきかを提言した本である。

「日本の地下で何が起きているのか」(鎌田浩毅著)岩波書店
  • 東日本大震災では津波の被害が大きかった(写真は、宮城県東松島市)
    東日本大震災では津波の被害が大きかった(写真は、宮城県東松島市)
  • 東日本大震災では津波の被害が大きかった(写真は、宮城県東松島市)

「過去は未来を解く鍵」

   著者の鎌田浩毅さんは、京都大学名誉教授。専門は火山学、地球科学。テレビ、雑誌などで科学を明快に解説することで知られる。著書に「火山噴火」「富士山噴火」などがある。

   鎌田さんが大学の講義や市民向けの講演会で話す最も重要なテーマは、これから日本を襲う海の巨大地震である「南海トラフ巨大地震」である。南海トラフの北側には3つの「地震の巣」があり、それぞれ東海地震・東南海地震・南海地震を起こしてきた。古文書などの記録から緩い周期性があることが分かり、3回に1回は超弩級の巨大地震が発生したことも判明した。

   1707年の宝永地震、1361年の正平地震、887年の仁和地震が知られている。過去の西日本ではおよそ300~500年という間隔で特に規模の大きい地震が起きていたことになる。

   「南海トラフ巨大地震」の発生時期について、地震学者は2030年代には起きると予測しており、鎌田さん自身も2040年までには確実に起きると考えている。その根拠になっているのが、南海地震が起きると地盤が規則的に上下するという現象だ。

   高知県室戸岬の北西にある室津港の地盤の隆起データは規則的であり、2030~2040年の間に「南海トラフ巨大地震」が発生すると予測している。もう一つ、内陸地震の活動との関連からも説明している。この方法では2038年頃という予測だ。

   地震予測は難しいとされてきたが、「過去は未来を解く鍵」という地球科学で用いる方法論によって、ある程度は予測されることを理解した。

口コミで国が想定する被害の8割まで減らせる

   そこで「科学の伝道師」たる鎌田さんの出番である。「南海トラフ巨大地震」では、どこで起きるのかが市民に伝わりにくい。「西日本大震災」と呼ぶことによって、危機感を伝えている。「東日本大震災と同規模の地震。でも被害は10倍」と説明しているそうだ。

   東日本大震災を起こした巨大地震は、今から1100年前の869年に東北地方で起きた貞観地震とよく似ている。それだけでなく、1960年以降に日本列島で起きた地震や火山噴火の発生と規模が、貞観地震が起きた9世紀とよく似ているという。日本列島は約1000年ぶりの「大地変動の時代」に入ったと地球科学的にはみなすことができる、と考えている。

   「南海トラフ巨大地震」=「西日本大震災」が身近に起きることとして伝えるために、鎌田さんは以下のことを提案している。

   「手帳に20年先のスケジュールを記入する想像をしてほしい。20年手帳の20年目に、南海トラフ巨大地震発生と書き込んでみよう」と講義や講演会で語りかけるそうだ。

   企業向けでも同じだ。20年先を見越した長期計画として、本社や工場の耐震補強、津波対策、インフラ整備、工場移転、人員配置、本社機能のバックアップなどの計画を今から始めるように勧める。

   こうして「自分の身は自分で守る」考え方と、「20年後に東日本大震災の10倍の被害」が口コミでどれだけ広まるかで、国が想定している被害の8割まで減らすことが可能になるという。

東京は「砂上の楼閣」

   日本を襲うと予測されているのは、「西日本大震災」だけではない。鎌田さんは4つの巨大地震が首都を襲うと書いている。国の中央防災会議は、首都直下で発生する自信を具体的に予想し、4つのタイプに分けている。詳しく書いているが、これだけのリスクが首都圏にあることを知ると、戦慄するしかない。

   鎌田さんは「戦後の日本が復興できたのは幸運以外の何物でもない」と書いている。それは高度成長期に、たまたま日本列島で地震が少なかったからだ。こうしたラッキーな時期は1995年で終わった。すなわち、阪神・淡路大震災以降の日本列島は、次の南海トラフ巨大地震に向けて再び地震活動期に入ったからだ。

   太平洋プレート、フィリピン海プレート、ユーラシアプレートの3枚のプレートがひしめき合う低地に構築された首都は、地球科学的には「砂上の楼閣」という表現が最も適している、と書いている。

   東日本大震災以後の首都圏では地震活動が活発化し、震災前と比べて発生頻度は約3倍に上昇し、首都直下地震が「いつ発生しても不思議ではない」状況だという。政府の地震調査研究推進本部は、首都直下地震が今後30年以内に70%の確率で起きると予測している。

   これに加えて、日本列島の活火山は活動期に入ったことにも触れている。2014年の御嶽山噴火や2015年の箱根山噴火はその幕開けであり、東日本大震災に誘発された動きの一つだという。地下のマグマも活発になり、富士山噴火の可能性にも言及している。政府も富士山のハザードマップを公表している。鎌田さんはハザードマップをどう読むかの解説書(「富士山噴火」(講談社ブルーバックス))も書いている。

   自然災害を防ぐ最大のポイントは、「前もって予測し備える」ことであり、「自分の身は自分で守る」ことは、何度も出てくる。

   本書が書かれたのは2017年だから、もう4年過ぎている。本書では「20年先」と書いていた「西日本大震災」だが、「16年先」になってしまった。あなたは準備を始めていますか?(渡辺淳悦)

「日本の地下で何が起きているのか」
鎌田浩毅著
岩波書店
1540円

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