2024年 4月 26日 (金)

人材は掃いて捨てるほどいない! 大学の変化がもたらしたものとは?

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   さくっとしたタイトルだ。実際、評者の息子2人も就職から数年で転職しているし、理由を聞いたこともないが、親の世代に比べて、会社を辞めることのハードルはずっと低いようだ。

   本書「なぜ若者は理由もなく会社を辞められるのか?」は、かつて旧労働省に入った官僚が、大学教授となり、このままでは、「日本企業は若者に見捨てられる!」と、企業へ警鐘を発した本である。

「なぜ若者は理由もなく会社を辞められるのか?」(中野雅至著)扶桑社
  • 大企業は「人材は掃いて捨てるほどいる」という感覚が抜けきれない
    大企業は「人材は掃いて捨てるほどいる」という感覚が抜けきれない
  • 大企業は「人材は掃いて捨てるほどいる」という感覚が抜けきれない

若者が企業に復讐するXデーが近づいている

   著者の中野雅至さんの名前には記憶があった。厚生労働省を辞めたばかりの頃に書いた本のタイトルに憶えがあったからだ。何だかんだと言って、日本は出版大国。しかるべきキャリアの人はだいたい本を出している。

   「はじめに」で中野さんは、こう書いている。「個人的な話から始めます。大学教員に転職してからすでに18年目に突入しました。それまでは厚生労働省で14年間働いていました。今さら辞めた理由を振り返っても仕方ないのですが、今の若者なら「人生の墓場」「拘牢省」と揶揄される厚労省をあっさりと辞めてしまうだろうなと思います」

   中央官庁はともかく、大手の企業でも人材確保には苦労しているようだ。その理由を、こう説明している。

「企業が時代に追いついていないからです。やる気がない、ぬるま湯だと馬鹿にしていた教育業界は少子化への対応に必死だった。その教育機関で育った若者は、企業はどうも違うと違和感を持っている。それに気付くのが遅れたのです」

   大企業は、「人材は掃いて捨てるほどいる」という感覚が抜けきれない。こんな思い込みを持ったまま、教育現場が変わったことに気がついていない。中野さんは本書を書いた意図をこう書いている。

「若者が企業に復讐するXデーが近づいているからです」

   高飛車な態度を改善して、若者の動向をきちんと把握しないと、人材を確保できませんよ、と。コロナで激変した労働環境をおさらいすることから始めている。

辞めても行くところがある

   中野さんは、これだけ若者不足が深刻化しているにもかかわらず、どうして経営者や管理職が「今の若者はけしからん」「不況になれば人手不足なんか解消する」といった甘い思い込みを持っているのか、と書いている。

   今の若者は決して豊かではないという。日本学生支援機構の「平成30年度 学生生活調査」によると、奨学金を受給している学生の割合は大学(昼間部)で47.5%に達する。奨学金を得て在学しているからには、よく勉強するしかない。

   若者と中高年の認識ギャップの中で最も驚くのが、「将来見込み」だという。中高年は高度経済成長やバブル経済など、頑張れば上昇できるという目標があったが、今の若者にはそれがない。

   だから、入った会社が面白くなければ辞める。今や企業全体、1000人以上の企業規模でも40%近くが中途採用しているのだ。転職市場は活発化している。

   辞めても行くところがあるとわかっている若者は、理不尽なことや耐えられないことがあるとすぐに会社を辞めるという。中野さんは、大卒者の離職が目立つようになったのはここ数年のことだ、と書いている。

   いくつかの傾向を指摘している。まず、営業職を嫌がること。絶対に達成しなければならないという目標にプレッシャーを感じてしまう。中高年男性の多くは若い女子を評価する傾向があるが、中野さんは「大学生の女子に関してはチャンスにも恵まれている一方で、若い男子は苦しんでいるということです」と、男子をカバーしている。

   こう書くと、中野さんが若者に甘く、企業に厳しいように思われるかもしれないが、決してそんなことはない。「自己承認欲求が強いわりには自己主張できない若者」とか「浸透しきっているブラック嫌い症候群」などの表現で中立的に見ている。

   公務員や役所でさえブラックを理由に就職を避ける学生がいる。身分保障のある公務員でさえブラックと見なし、よりブラック度の低い役所に行こうとするという。

   さらに厳しい表現も出てくる。「呆れかえるくらいの地元志向と情報過多で身動きが取れないスマホネイティブ達」というくだりを読むと、教員として悩んでいることも理解できる。

成長できるかどうかが大事

   最後に出てくるのが「成長」というマジックワードだ。就職先を決めるに際して若者が最も重視するのが、「成長できるかどうか」ということだそうだ。だが、中野さんはあまり信用していない。彼らには就職氷河期の残像と、AIと外国人に職を食われる恐怖があるのでは、と見ている。「意識高い系」でなくても、意識は高い現代の若者、という表現に笑ってしまった。

   途中まで読んで感じた違和感。それはどうも今の大学は中高年が行った頃の大学とは違う存在になっているということだ。「今の若い奴は......勉強しない、挨拶できない、新聞や本を読まないと批判していたのが、今の大学の厳しさや学生の勉強熱心さ、貧困と隣り合わせで授業料を払っている姿を知ると、甘いのは自分達中高年ではないのか、そんな感想を漏らす人は意外と多いのです」と書いている。

   大学倒産時代に備えて普通の大学ができることは「教育」しかないという。レジャーランドから、毎日、宿題を出す教育機関に大学は激変したのだ。

   中高年が学生だった頃、企業は大学教育には何も期待していなかった。大学もそれにあぐらをかいていた。学生もいかに勉強せずに要領よく単位を取るかを競い合った。どうも大学を巡る状況が一変したことに気がついていない人が多いようだ。

   最後まで読んで思ったのは、大学が変わり、学生も変わったから、就職についての考え方も変わったということだ。変わらなかったのは企業ばかり。旧態依然の対応では、しかるべき学生も採用できず、すぐに辞められてしまうだろう。大学も若者も変わった、と認識することから始めるしかない。

(渡辺淳悦)

「なぜ若者は理由もなく会社を辞められるのか?」
中野雅至著
扶桑社
968円(税込)

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