どうなる高騰するエネルギー価格 脱炭素「原理主義」が安い円にとどめを刺す!(志摩力男)

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   ドル円は、昨年(2020年)の新型コロナウイルスの感染拡大前の高値、1ドル=112円22銭を突破。長年続いたもみ合い局面を上抜けして、新しい円安トレンドに入りました。

   執筆時点では、ドル円は114.46円まで上昇しましたが、他の円クロスも軒並み上昇しています。

   しかし、どうして今、円安なのか? 何か特別な変化が起こったのか?

   今ひとつ納得できない人も多いのではないでしょうか。さまざまな理由があると思いますが、一つひとつ説明してみたいと思います。

  • 欧州では洋上風力発電の導入が進められているが……(写真は、デンマークの洋上風力発電)
    欧州では洋上風力発電の導入が進められているが……(写真は、デンマークの洋上風力発電)
  • 欧州では洋上風力発電の導入が進められているが……(写真は、デンマークの洋上風力発電)

「岸田ショック」の原因は......

(1) テクニカル的に重要なチャートポイントを突破した
ドル円は、2015年6月高値125.86円から6年もの長きに渡り、巨大な三角持ち合いを形成してきましたが、昨年高値112.22円を突破したことで、三角持ち合いの上抜けが確認されたことになりました。2017~2018年にかけて何度も114円台半ばで頭を付けましたが、次はそのレベルを突破できるかどうかでしょう。抜けると、トランプラリー高値118.68円、そして心理的120円から125.86円の高値挑戦が見えてきます。

(2) 米国および、他の国々がコロナ禍後の金融引き締め局面に入ってきた
現下のドル円上昇のスタート地点となったのは9月22日に開催された米FOMC(米連邦公開市場委員会)でした。この時、今年11月から来年半ばでテーパリング(量的緩和の縮小)が行われることが示唆されました。米国以外でも、ノルウェーが9月23日に、ニュージーランドが10月6日に利上げしたように、他の国々も次々と金融の引き締め局面に入っていきます。住宅価格、資源価格の上昇が背景にあります。

   金融引き締めに最も遠いところにいるのが日本です(その次は欧州)。引き締め局面に入った通貨を買い、遠いところにいる円を売るのは自然なことでしょう。

(3) 岸田氏が新総理・総裁に就任
「岸田ショック」とまで言われましたが、なぜ菅義偉(前)首相が辞任しなければならなかったのか、なぜ国民の支持が高い河野太郎氏ではなく岸田文雄氏なのか、なぜ「分配」なのか、外国人投資家から見ると不思議な展開でした。安倍晋三首相以来の成長志向路線が頓挫したと解釈されています。

   「分配」重視であれば、成長力は削がれ、株主への分配は低下していくことになるでしょう。外人投資家があえて日本株を買う理由を見つけることが難しくなりました。

(4) 再生可能エネルギーへのシフトが過度に進んだことの弊害で、天然ガスをはじめ、エネルギー価格が急騰したこと
このエネルギー・資源価格の上昇が、最も円に悪影響を及ぼすのではないかと懸念しています。

   直感的には、再生可能エネルギーへのシフトが進めば、原油や石炭などの化石エネルギーの消費は低下するので、価格は下落するはずです。将来的にはそうなるのでしょう。しかし、現状では再生可能エネルギーはあまりにも不安定なので、バックアップとしての火力発電が必要です。

   ところが、脱炭素「原理主義」に傾いている昨今の資本市場は、化石エネルギーへの投資を強制的に制限しています。新しい油田開発はストップし、火力発電所への投資は止められ、古い石炭発電所は次々に閉鎖されています。

銅にニッケル... エネルギーだけで済まない価格高騰

   ところが、そこに風力発電の不調がやってきました。欧州では想定以上に風が吹かず、発電のため天然ガスを急遽調達しなければなりませんでした。そのため、天然ガスの値段は瞬時に6倍となりました。欧州エネルギー政策の失敗です。

   通常、原油のほうが天然ガスより価格は高いのですが、6倍となると原油換算で1バレル140ドル程度、代替性のある原油への需要が高まっています。原油価格は現状80ドル台ですが、さらに上昇しそうです。

   少し前であれば、米シェールオイルが増産され、原油価格は落ち着きました。しかし、米国が環境を重視するバイデン政権となり、シェールオイルの生産には事実上の制限がかかっています。シェールの増産が止まっていることで、原油の価格決定権はOPEC(石油輸出国機構)プラスに移っているといえます。

   OPECプラスは、事実上サウジアラビアとロシアによって価格が決定されています。天然ガスは世界最大の生産国であるロシアの影響力が強い。つまり、原油・天然ガスともにプーチン大統領が価格決定権を握っているという状況なのです。

   OPECプラスはコロナ禍後にかなり減産しました。その意味では、増産余力はかなりあります。参加国が一斉に増産に動けば、原油価格はいくら需要が強くても落ちるでしょう。しかし、そうした状況をサウジとロシアが容認するとは思えません。少々増産するより、価格維持に動くでしょう。

   再生可能エネルギーシフトが続くことから、世界のエネルギー需要は混乱するでしょう。冬場になれば天然ガスへの需要が高まり価格が高騰する、そうしたことが今後何年も続きそうです。

   エネルギーを100%輸入に頼る日本経済にとって、エネルギー価格上昇は打撃でしかありません。強制的に税金を産油国に払っているようなものです。エネルギー価格だけならまだしも、銅やニッケルなどの需要も今後高まり、資源価格全般が高騰するでしょう。

   円はかなり安い。現状の114円台は、購買力平価の推移を考慮すると、すでに6年前の125円レベルと同じ程度です。それでも、資源価格の上昇で交易条件は悪化、資源価格上昇=貿易赤字の拡大で、円安圧力がさらに高まることになります。しかも、その資源価格の決定権がプーチン大統領にあります。

   簡単に資源価格は下落しないでしょう。円安局面が続くことになります。安い円がさらに安くなります。

(志摩力男)

志摩力男(しま・りきお)
トレーダー
慶応大学経済学部卒。ゴールドマン・サックス、ドイツ証券など大手金融機関でプロップトレーダー、その後香港でマクロヘッジファンドマネジャー。独立後も、世界各地の有力トレーダーと交流し、現役トレーダーとして活躍中。
最近はトレーディング以外にも、メルマガやセミナー、講演会などで個人投資家をサポートする活動を開始。週刊東洋経済やマネーポストなど、ビジネス・マネー関連メディアにも寄稿する。
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